これは私、井上ゆかりが体験した古い出来事を新感覚アプリ「TELLER」で、
物語にしたものです。
ある日、父が気晴らしにドライブしようと母と私に提案した。
当時の私(10)は、家族揃っての遠出が嬉しくてはしゃいでいた。
朝の9時から自宅を出発した我が家の車が向かった先は自然豊かな地。
写真家の父はプライベートでも自然が大好きで、都会の喧騒を嫌っていた。
その父が、とりわけ気に入っているという絶景スポットへ向かうといい、
私と母はいよいよ期待に胸を膨らませて車窓の動く景色を眺めていた。
昼御飯を済ませ、私たちはその展望台に到着した。
父のいう通りの絶景が一望できた。
大自然の景色を楽しんでから、私たちは車まで引き返すことになった。
…が、そのとき私は両親でなく、逃げるイモリを追いかけていた。
父と母は私が後ろにいるものと思い、話しながら足を進めており気付かなかった。
私も私で、イモリを追うのに必死でどんどん両親から離れていくのに気付かず、
ハッとしたときには木漏れ日の射す森の中に佇んでいた。
文字通り迷子になってしまったのだ。
途方に暮れながら歩き続けていると、小さな公園に辿り着いた。
ブランコ、滑り台、ジャングルジムだけのぱっとしない簡素な公園。
親を探すのが最優先とそっぽを向いたそのときだった。
見知らぬ女性
振り返ると、白いワンピースを着た髪の長い女性が立っていた。
私
見知らぬ女性
見知らぬ女性
私
見知らぬ女性
私
見知らぬ女性
見知らぬ女性
見知らぬ女性(目は優しい)からの根拠なき一言だったが、
私は思わず俯いていた顔を上げた。
見知らぬ女性
見知らぬ女性
私
私
江藤和美
江藤和美
江藤和美
江藤和美
江藤和美
江藤和美たる女性は細かい自己紹介を済ませると早足で公園に駆けた。
キョトンとする私の視野に、無邪気にブランコに揺られる和美さんの姿が入った。
当時の私は当惑と悲しみで気が付かなかったのだが、
今思えば夕暮れに近かったはずの空が、
公園の上だけは清々しい青空が広がっていたような気がする。
江藤和美さんはいくつぐらいなのだろう?
当時は考える余裕もなかったが、恐らく20歳後半ぐらいだろうと思う。
だが、ブランコを楽しそうに揺らす彼女の顔は幼い子どもと同じだった。
私
私はとことこと足を進め、彼女の隣のブランコに腰掛けた。
私
江藤和美
私
江藤和美
江藤和美
江藤和美
私
江藤和美
私
江藤和美
私
私
私
私
和美さんはくすりと笑った。
江藤和美
私
私
私
私
江藤和美
私
江藤和美
得体の知れない人物だという意識は10歳の私にも少なからずあった。
しかし、その問いに私は躊躇なく首を横に振った。
それが嬉しかったのか、和美さんはいきなりブランコを降りると、
江藤和美
私
江藤和美
江藤和美
江藤和美
強引に始まったかくれんぼに私は狼狽したが、体は無意識に隠れ場所を探した。
ジャングルジムのそばに列を作る低木を見付け、すかさずそこに身を潜めた。
数を数え終えた和美さんは樹木の上を見上げたり、ベンチの下を覗き込んだりと、
遠くからでも隠れているかどうかが分かりそうな場所をひたすら見て回る。
本気で、というより隠れながら観察する私を楽しませているように見えた。
思わず私の口許に笑みがこぼれかけたが、不意に辺りが静かになり和美さんの姿が消えた。
1分…3分…5分…。
鳥のさえずりと風に煽られる木々の葉の音以外なにも聞こえない静寂が続いた。
なにか不吉な予感…。
江藤和美
江藤和美
私
突然、目の前に現れた和美さんに私は飛び上がり間抜けな悲鳴を上げた。
和美さんのワンピースは背中以外落ち葉と土で汚れていた。
私の死角に入りながらほふく前進で私に近付いてきたのだとすぐに察した。
お気に入りかどうかは分からないが、
純白のワンピースが汚れたというのに当の和美さんはまるで気にする様子もなかった。
ただひたすら、素っ頓狂な声を上げて尻餅を付いた私の反応を見て喜んでいる。
江藤和美
私
江藤和美
江藤和美
雪の上に飛び込む子どもよろしく、いきなり地面をゴロゴロと転がる和美さん。
清楚な女性らしからぬ奇行に私は思わず声を上げていた。
笑い声。
それから私と和美さんは時間を忘れて遊んだ。
かくれんぼみたいに2人で遊ぶこともあれば、私だけがはしゃぐことも。
ブランコ、滑り台、ジャングルジムと少ない遊具で遊ぶ私を、
和美さんはまるで自分の子どもの遊ぶ姿を眺める母親のような眼差しで見守っていた。
遊び疲れて、私と和美さんはベンチに腰を下ろした。
その際、和美さんは何処から持ってきたのか、一体の熊のぬいぐるみを取り出した。
江藤和美
私
私
江藤和美
私
私
江藤和美
私
江藤和美
私
私はきっぱりと言った。
和美さんは無表情だったが、翌々考えてみると目が少し泳いでいたような…。
江藤和美
そのとき、私は甘えるように和美さんの膝に頭を乗せ、目を閉じた。
鳥のさえずりがカラスの鳴き声に変わりつつある夕暮れ時に、私は眠ってしまった。
私は誰かに肩を揺さぶられ、目が覚めた。
空はいつの間にか星の輝く夜空に変化していた。
起きると、目を大きく見開いた父と母が目の前にいた。
パパ
ママ
どうやらベンチで眠りこけた私は無事、両親に発見されたらしい。
両親が呼んだという地元の警察も数人いて、周囲の森は騒がしくなった。
私は泣きながら父に、そして母に抱き付いた。
そのとき、ハッとして辺りを見回した。
私
父と母もキョトンとした。
私
パパ
ママ
私
そのとき、捜索隊の警察の1人が公園に懐中電灯を向けた。
ブランコを照らすその光を追うと、
私
こちらに背を向けた和美さんがブランコに座って下を向いている。
私の頭の中には和美さんに対する憧れと両親への紹介がよぎっていた。
ので、和美さんを見付けるや一目散にその背中に向かって駆け出した。
そして背中から抱き付く。
私
急に違和感を覚えた私は咄嗟に和美さんの背中から離れた。
和美さんはブランコに乗っていなかった。
彼女の上にロープが一本伸び、それに支えられて体がかすかに浮いている。
あまりに突然のことで私は一瞬頭が追い付かなかったが、
眠るような和美さんの顔を覗いて、それから皮膚にも触れ初めて知った。
和美さんは死んでいると。
いつの間にか握り締めていた熊のぬいぐるみを持つ手がぶるぶる震えた。
あの後、現場は溢れる警察で騒然となり、
私もいくつか警察の人に話を聞かされました。
私はあのお姉さん、江藤和美さんが迷子の私を一時的に保護して、
独りぼっちの私の遊び相手になってくれた優しい人だと説明した。
ところが、刑事さんたちは顔を見合わせてから急に笑い始めた。
真剣に話す私は、バカにされた気がしてむくれましたが、
その後の刑事さんの一言を聞いて私は「えっ?」と思ってしまいました。
刑事さん
刑事さん
その後の警察の調べによると、
江藤和美さん(28)は、幼い頃に父親に虐待を受け、母親とともに逃げたという。
母親によって育てられ、成人まで成長したがやがて父親に居場所を突き止められ、
勝手に家を出たことを恨んで再び暴力を受けることに。
母は自殺し、父親は逮捕されたが和美さんは行方不明になったといいます。
私
今でもたまに、和美さんの優しい顔が夢に出てきて、私に微笑えんでいます。
部屋に飾ってある熊のぬいぐるみのような暖かい微笑みが…。
2019.12.15 作
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