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君と呑みに行きたい

君と呑みに行きたい

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君と呑みに行きたい

2020年10月12日

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あれは、俺が39歳のときの出来事だ

つるんでいた仲間が続々と結婚し、 生き遅れていた俺は、 大衆居酒屋に通っていた。

いつでも人が多く、お店の人が 半強制的に相席を促す。

そんな店で何かが始まるのでは ないかと思いつつ、呑んでいました。

しかしこれといって 何かが始まるわけもなく、 40歳の誕生日をあと1ヶ月ほどで 迎えようとしていたある日のこと。

案内された席の端っこに頬杖をついて ハイボールを飲んでいる若者がいた。

ミドル

相席いいですか?

ワカ

いいですよ。でも、あなたの意図じゃなくて、店員さんに言われたでしょ?

ミドル

そうです。この店はいつもそうですよね?

ワカ

もしかして常連ですか?

ミドル

はい。

ワカ

いつも1人?

ミドル

いつもってわけじゃないですけど、
友達みんな結婚しちゃって、大方1人ですね。

ワカ

結構いい歳なんですか?

ミドル

いくつに見えます?

ワカ

いい女みたいな質問しないでくださいよ

ワカ

うーん。45歳!

ミドル

ひどいなぁ

ワカ

あれ?大きく外しました?

ミドル

ほんっと。大外れ。
39歳!

ワカ

小さく外してるじゃないですか

ミドル

40になってるかなんてないから大違いだよ

ワカ

そうですか?僕にはナイスミドルに見えますよ

ミドル

褒めても何も出てこないよ

ワカ

なんて呼んだらいいですか?

ミドル

じゃあ、ナイスミドルだからミドルでいいよ

ワカ

じゃあ…ミドルさん

ミドル

最近の若い子はよくわからないね。
礼儀正しいのか正しくないのか

ワカ

若い子って歳でもないですよ

ミドル

いくつなの?

ワカ

22歳

ミドル

若い十分。若くないとか俺にいうかね

ワカ

じゃあ、ワカ様って呼んでください

ミドル

ワカ、でいい?

ワカ

よかろう

それから俺たちは、 たまに一緒に飲むようになった。

ワカ

いた

ミドル

おーワカ、元気にしてた?
あれ?今日もスーツじゃん

ワカ

似合うっしょ

ミドル

大学生?今就活中?

ワカ

まぁそんなところです。でも全然受からなくて、もう心折れてます

ミドル

何箇所受けたの?

ワカ

3箇所

ミドル

少なっ!お前もっと頑張れよ

ワカ

おじさんは頑張れ頑張れって言うけど、人にはそれぞれキャバって言うものがあるんです。

ミドル

なんでキレてんだよ?

ワカ

キレたくなるくらい辛いんです

ミドル

こんなとこで飲んでないで、面接対策したほうがいいんじゃない?

ワカ

つまんな

ミドル

へ?

ワカ

なんでそんなつまんないアドバイスしかできないのかね?結婚できないワケだわ

ミドル

いやってお前そういうこと言うのは、良くないぞ

ミドル

俺が結婚できないのには深い理由があるんだ

ワカ

どれほど深い理由なのか気になりますねー

ミドル

あれは俺が中学生の時です

ワカ

さかのぼりすぎじゃない?僕の友達、高校男子校だけど、それでもそこまでは遡らないよ?

ミドル

いやいや遡る理由もわかる位深い話しだから

ワカ

聞きましょう

ミドル

中学時代バンドをやっていた俺はある日、一人の女の子に呼び出された

ワカ

告白シーンから?

ミドル

好きです、付き合って

ワカ

嫌です。僕、男はちょっと…
しかも、おじさんは…

ミドル

違う!その子が言ったの!

ミドル

「ミドルさん、付き合ってください」

ミドル

クラス1の美人でさ…中学生が思う美人だから、もう、それはそれば美人よ

ワカ

あー、僕、中学時代はシャイで、女の子の胸見て話してたからなー

ミドル

最低だな!

ワカ

で?付き合った?

ミドル

そう。

中学時代のある日、 俺はクラスのマドンナ 「美波さん」に呼び出された

美波さん

好きです。付き合って

ミドル

え、あ、あ…はい///

なんで彼女が俺なんかを 選んだのかわからなかったけど、

クラスのマドンナからの告白は 最高だった。

まぶしい日差し、 グラウンドの砂の匂い、 校庭に吹いていた爽やかな風…

この世界のすべてが 俺を肯定しているようで 今思い出しても最高に心地良い

それから彼女とは度々デートを重ねた

当時俺の住んでた街で唯一、 中学生にも許された デートスポットといえば ショッピングモールだった。

美波さん

こういう服ってどう思う?

ミドル

普通の中学生には派手だけど、
美波さんには似合うと思う

美波さん

いつかこういう服を着て輝きたい

ミドル

今でも美波さんは輝いてる…

ミドル

って、みんなが言ってるよ

ミドル

いつも、美波さんはかわいい、人気者だって、みんな噂してる

美波さん

あなたはどう思うの?

ミドル

俺も…美波さんは輝いてると思う

美波さん

じゃあ、これ以上私が輝いたら嫌?

ミドル

え、あ、えっと…それはどういう…

美波さん

まぁいいや

美波さん

ていうか美波さんって呼ぶのやめて。
結衣でいいよ

ミドル

わかった。結衣…

さらに僕らは、朝早く登校して 誰もいない教室で会うようになった

たわいもない話をするだけなんだけど 幸せの時間で、 なんだか不思議な時間だった

他の人には見えない 時間と空間の隙間にいるようだった。

神様が他の人を配置し忘れて、 僕たちだけが取り残された。 そんな錯覚をするほどだった。

結衣

ねえ、私たちの教室は廊下の端でしょう?

ミドル

うん

結衣

誰かが階段を上ってきたら、
この教室にたどり着くまでには
何秒か時間かかるよね?

ミドル

そうだね

結衣

もう、誰か来ちゃうかな…

そう言って彼女は教室のドアを開ける

ミドル

そっか、もうそんな時間か。
あっという間だね。

俺も廊下を見たけど、 まだ誰も来ていない

結衣

あなたって耳良いほう?

ミドル

どうだろ?普通かな

結衣

私結構耳が良くて、人の声とか足音とかでその人が近づいてくるのわかるの

ミドル

すごい

結衣

そろそろ先生くるよ

本当だった。 本当に廊下の向こうから 先生が来るのが見えた。

ミドル

すごい!的中だ…

結衣

ねえ…

結衣は俺の袖を掴み、 教室に引き戻した。

結衣

先生!おはよう!

そして自分だけ教室から顔出して、 大きな声で先生を呼んだ。

そして再び俺を見つめてこう言った。

結衣

キスして

ミドル

ミドル

え…あ…

ミドル

(え?先生が来るまでの間に?)

結衣

ミドル

いや…え?

ガラガラガラ

教室のドアが開いた

ワカ

え?!!キスできなかった話?

ミドル

そうだよ。中学生なんだから

ワカ

いや…中学生でもそんだけお膳立てされてたら、しない方が失礼でしょ

ミドル

いや、でも時代も違うからね

ワカ

そうやって時代のせいにして。
冴えないおじさんって、すぐ時代のせいにするじゃん

ミドル

なんで切ない話してるのに、もっとえぐられなきゃいけないの?

ワカ

いやー、根性ないなぁ

ミドル

根性とかいう問題じゃないんだよ。
彼女がマセてたの!

ワカ

ふーん。で、その子とはその後どうなったの?

ミドル

外出て話そ

ワカ

え?ここではできない話?///

ミドル

違う。切なすぎてお酒が進んじゃうから、夜道を歩きながら話そうって言ってんの

ワカ

そういうことね。しょうがないな

結衣

知らない街を2人で歩いてみたい

結衣にそう言われて、 ビル街を2人歩いた

美波さん

手、繋いでいい?

ミドル

うん

結衣

私ね、夢があるの

ミドル

どんな?

結衣

きれいな衣装を着てキラキラ輝くことかな?

ミドル

そっか。結衣ならできると思う

結衣

もうすぐ、叶いそうなの

ミドル

叶いそう?

結衣

この前、スカウトされて

ミドル

スカウト…

結衣

芸能界に入りませんか?って

ミドル

どうするの?

結衣

やってみようと思う

結衣

その芸能事務所っていうのが、
この歩道の向こうなんだけど…

歩道の向こうには芸能事務所の 看板が見えた

結衣

もし…あなたがこの手を引っ張って、
引き止めてくれたら、私はこの歩道を渡らないで帰る

ミドル

え…あ…俺?

結衣

信号が変わるまでに決めて

ミドル

え…そんな

ミドル

でも…

思いのほか早く信号が変わった

前に進む彼女を引き戻すことが できなかった

ての力を少し緩め足早に 彼女を追いかけるのがやっとだった

結衣

止めないんだね

ミドル

だって君の夢なんだろ?

結衣

あーあ、あなたと幸せになるのと、
キラキラ輝くの、ずっと迷ってたのになぁ

結衣

あなたはすぐに結論を出しちゃうんだ

ミドル

待ってって言ったら待ってもらえるの

結衣

私が言う前に待ってって言えば

ミドル

待って…

結衣

あー!オーディション参加費の5000円忘れて来ちゃった!

彼女は僕の声を遮るように言った

結衣

ねえ、ほんとに申し訳ないんだけど
貸してくれない?5000円

ミドル

いいよ

俺は彼女を止められず、 なぜか5000円を貸した

結衣

私は夢を叶えに行くから、
最後に1つだけお願いがある

ミドル

結衣

背中を押して

結衣

そうしたらこれからも頑張れる気がするから

俺は結局もう一度待ってと言えず、 彼女の背中を押した

俺の力が後押しになったのか わからないくらい 彼女はしっかりとした足取りで、 事務所に入っていた

ワカ

うわー、史上最強に根性なしですね

ミドル

中学校の時の話だからね

ワカ

結衣さんは今どうしてるんですか?

ミドル

あれ

空に係る広告塔を指差す。 輝き続ける彼女の笑顔

ワカ

まじですか?瀬尾南美?

ミドル

そう、本名は美波結衣だった

ワカ

ミナミって苗字だったんですね

ワカ

今は?今は会ってないの?

ミドル

背中を押して以来会ってない。
学校も転校しちゃったし

ワカ

5000円は?

ミドル

…返ってきてないや

ワカ

うわーもったいな!当時の5000円て、今の5万円じゃん

ミドル

そんなことないよ!そんなに昔の人じゃないよ!

ワカ

そういう意味じゃなくて、中学生の5000円って、大人でいう5万円だよ

ミドル

あー、それは否めないかも!

ワカ

てか、それが結婚できない理由?

ミドル

根底にあるのはそれ、かな

ミドル

それから何度かこの人と結婚するんだろうなぁっていう人と出会ってるんだけど

ワカ

俺の嫁は、瀬尾南美だと

ミドル

そういうわけじゃないんだけどさ、なんていうか、踏み切れないっていうか

ワカ

そうやって、ずっと結論出せないから、みすみす大事な女を逃すんじゃないんですか?

ミドル

は?人のこと優柔不断みたいに?
お前って就活数打ちゃいいのに、ぐだぐだ悩んでんじゃねーの?

ワカ

そこの電信柱

ミドル

は?俺の話聞いてる?

ワカ

そこの電信柱から次の電信柱まで競走しましょう?

ミドル

なんで?お前、都合が悪くなったからって

ワカ

よーい、ドン!

ワカが走り出した瞬間に手を上げた

それと同時に、少し減速したから 俺はワカを追い抜いて 次の電信柱で止まった

少し遅れてついてきたワカが言った

ワカ

キスして

ミドル

はぁ?

ワカ

タクシーが来る前に、死角になってる間に、早く!

ミドル

何言ってんの?

ワカ

またみすみす逃すんですか?

ミドル

何をだよ?

ワカ

チャンスを

ミドル

俺言っとくけどな、お前のことそういう目で見てないから

ワカ

それ、言い訳のつもりですか?

ワカ

中学生だったから、あの子が忘れられないから、まだ決断する時じゃないと思ったから…

ワカ

そんなことばっかり言っててあんたいくつですか?

ワカ

ここでアクション起こせないなら、
あんたはまた無駄に歳をとるアクション起こせないなら、
あんたはまた無駄に歳をとるだけ…

ミドル

ん…

俺は39年間の人生で初めて 男にキスをした

ワカの唇がやけに柔らかくて 溶けて消えていくような錯覚を覚えた

ふわっと風にさらわれるように、 ワカの唇は俺から離れた

不本意ながら、タクシーの運転手に 愛想良く話しかけるその唇を 見つめ続けていた

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