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城壁に駆け上がった俺は 焼け落ちた家屋の残骸を見下ろした
呻き声、泣き声 鉄がぶつかり合う音─────
嫌という程経験した 懐かしい、戦場の光景……
拳を固く握り締める
血の匂いと埃混じりの風を受けながら 一歩一歩、確かめるように立ち尽くした
低く、そっと呟く
手を空に向けて弧を描くと 日中の眩しい光の中
バナナ王国の真上だけ ぽっかりと夜空の小窓が開いた
銀色の月と、淡い星々が 静かに王国を覗いていた
────ふと
子守唄のような柔らかな旋律が 夜空からポツポツと、降り注がれた
光の粒が空気に溶け込み
草や土 石畳に触れる度、淡く震える
その旋律に触れた者は 意識の重みを急に感じ、息遣いが鈍くなる
瞳がゆっくりと閉じられ
身体は重力に引かれるように 膝から崩れ落ちていった
敵兵がまた1人、また1人と 無抵抗のまま眠りに沈む光景を見下ろす
耳に残るのは────
微かに揺れる旗の音 沈黙に包まれた王国のざわめき
そして、俺の荒い息遣い……
王国民は、恐怖と混乱の中 一瞬息を止めるが
旋律は優しく彼らを包み その心を落ち着かせていく
胸の奥で小さく安堵の息を吐き 俺は次の行動へと心を切り替えた
星空はゆっくりと日差しに溶け 昼の明るさが戻っていく
短い時間の中に流れた神秘は 城下に静かな余韻を残していった
視線を落とすと
血に塗れた民達が 瓦礫の中で手を伸ばしていた
助けようと必死に力を合わせる者
泣き叫びながら家族を探す者…
その姿に 胸をギリリ、と締め付けられる
吐息混じりの声が、耳を刺した
───────あぁ……怖い
もう、慣れたはずなのに…… 何も感じなかったはずなのに……
《カチ……カチ……カチ……》
嫌だなぁ…… 折角、忘れられてたのに………
────大丈夫、まだ間に合う
そう、自身に言い聞かせれば あれだけ胸の奥を焼いていた熱も
…すっ、と 軽くなったような気がした
俺は守刀に触れ 目を閉じて小さく息を整え
揺るぎない声で、唱えた
白銀の紋章が足元から爆ぜ 王国全体を包むように広がり
一陣の清らかな風が吹き抜け 粉塵を空へと押し退ける
ひび割れた地面には草花に
崩れた瓦礫は花びらに
地を駆け抜ける穏やかな風が
刻まれたその残滓を 温かなものへと塗り替えていく
裂けていた肌が閉じ 折れていた骨が繋がる
呻き声は、歓声に
悲鳴は嗚咽に変わっていった
………やがて 民衆の視線が一斉に俺へ向く
城壁の上に立つ俺を ────誰もが、見上げていた
────その眼差しは
絶望の底に差し込む光を 必死に求め、縋るような……
俺を信じて背中を預け 共にあの地獄で抗い続けた
幼い勇者や勇敢な戦士たちが 俺に向けた目と全く同じ────
俺を“信じる”眼差しだった
────────
…遂に、ここまで来ましたね
ここまで、約12年────
時間の概念がない私にとっては 短く、あっという間の“時間”ですが…
彼にとっては… 長く、永く、ながく……
───さぁ
彼はどんな『変化』を 起こすんでしょうか?