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9.あの頃の声
前まではローレリアンの声は決まっていなかった。 だから私は、勝手に想像していた。 低くて、優しくて。 守ってくれる声。 そのイメージを補うみたいに——
蒼琉の声を聞いていた。
吉葉蒼琉
その声を聞くたびに、思っていた。 ローレリアンみたいな声だなって。
あの時間は。 少しだけ。
私だけのものみたいだった。
でも。
10.喪失感
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
教室のあちこちから声が聞こえる。 私はそんななかゆっくりとご飯を口に運ぶ。 味が……しない。
渡辺柚菜
月乃星凛
私だけが抱える葛藤も事情も何もかもここにいるみんなには伝わらないし伝えられない。
もう。 蒼琉の声は。 みんなが聞く声になった。 ローレリアンの声として。 ランキングに入るくらい有名になって。 私だけが知っている声じゃなくなった。
向かいの家の幼馴染。 それだけだったはずなのに。
今は。 推しの声優で。 みんなが好きになる声の人。
放課後。
家に帰る途中、向かいの家が見える。 蒼琉の部屋のカーテンが少し揺れていた。
月乃星凛
前なら。 簡単に話しかけに行けた。
月乃星凛
……なんて。 冗談みたいに。
でも今は。 もう言えない。 あの声は。 作品の声で。
みんなが聞く声だから。
月乃星凛
思わず苦笑する。 ローレリアンの声を、蒼琉の声で補給する。前まで常識的にやっていたこと。 だけど正式に声優が決まったからにはもう気軽に補給という意味でお願いできない。 私はスマホを取り出す。
Moonlit Vow ― 聖女守護譚 ―
再生ボタンを押す。 画面の中で、ローレリアンが剣を抜く。 そして――
声が流れる。 胸が少しだけ痛くなる。
月乃星凛
ローレリアンも。 その声も。
でも。 私は静かに目を閉じた。
もし。 蒼琉を好きになったら。 推しを見るたびに。 蒼琉を思い出してしまう。
もし。 蒼琉との距離が変わってしまったら。 推しを見るたびに。 蒼琉のことを思い出してしまう。 そんなふうになったら。 もし。 うまくいかなかったら。 蒼琉の声まで、まともに聞けなくなるかもしれない。 ローレリアンまで見られなくなる。
それだけは。
絶対に嫌だ
月乃星凛
私はスマホを大事に胸に抱く。 推しは推し。 蒼琉は幼馴染。 その線は、越えない。 越えちゃいけない。 そう胸に深く刻みつけるように――
だけどそれでも――
胸の奥のざわめきだけはどうしても消えてくれない―― 多分それは… このまま距離が、変わってしまうのが怖いだけ。 たぶん…それだけのはず――