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第1話 - あ

2023年12月23日

#恋愛

結城　真矢

トシ

おい、マコト

トシ

なんだ、今日の試合に終盤のパフォーマンスは

トシ

体がついていっていないこと、バレバレだったぞ

マコト

すみません、最近少し寝不足で...

トシ

寝不足！？

トシ

そんなの、理由にしていいと思ってるのか！？

マコト

いえ、そういうわけじゃないんですが...

トシ

じゃあ、俺に言い訳なんてしてる暇、ないだろう

トシ

2年生は大学に入って浮かれ始める時期でもある

トシ

気が抜けたんだろう？

マコト

いえ...決してそんなわけじゃないです

トシ

じゃあ、なんだ？

トシ

練習のこと、甘く見てたのか？

マコト

いえ...ちょっと疲れが出てしまって

トシ

お前、エースとか言われてるくせに、そんなこと言っていいと思ってるのか！？

トシ

調子に乗るのもいい加減にしろよ！？

マコト

すみません

マコト

しっかり、体力回復させて今度の試合に臨みます

トシ

当たり前だ

トシ

ほんっとに...

トシ

これだから困るんだよ

トシ

お前、部外の奴らに混ざってたばことかやってないだろうな？

マコト

えっ？

マコト

そんなの、俺やってないですよ！

トシ

本当か？

トシ

前にな、そういう奴がいたんだよ

トシ

エースの奴が、誘われて面白半分でたばこして、

トシ

その翌日の試合で体調崩して、チームが負けたことがあるんだよ

マコト

そうだったんっすね

トシ

だから、まあ俺が言いたいことは、

トシ

気を抜いてれば、それに付け込んで足を引っ張ってくるやつがいるってことだ

トシ

それで、もしそれに引っかかっても、引っかかる方が悪い

トシ

文句なんて言えないんだ

トシ

そのこと、十分頭に入れてこれから練習しろよ

トシ

分かったな？

マコト

はい、もちろんです

トシ

そしたら、明日からもっと気合い入れてこい

トシ

以上だ

～3日後～

トシ

おい！

トシ

お前、昨日の夜9時ごろ、何してた？

マコト

その時間は、風呂に入っていたと思います

マコト

何でですか？

トシ

昨日、男子寮の外でたばこの煙が見つかったんだよ

トシ

軽く、日が周りに燃え移って火事になるところだった

マコト

えっ！？火事！？

トシ

横を通りかかった部員がすぐに見つけて、消したみたいだがな

トシ

でも、男子寮の側なんて、寮に住んでるやつぐらいしか来ないだろ

トシ

お前、すってたんじゃないのか？

マコト

俺は、絶対にやってないです！

マコト

誓えます！

トシ

本当かよ...

トシ

俺はな、基本生徒のことは信頼してないから

トシ

過去のことがあってから、ずっと警戒してんだ

トシ

そんで、ライバル通しの蹴落とし合いは起こりえることだ

トシ

お前は、常に標的にある、ってことを忘れるんじゃないぞ

トシ

いいな！

マコト

はい、分かりました

マコト

十分に警戒します

～5日後～

アキラ

マコト！

アキラ

お前、脚ケガした、って聞いたけど、

アキラ

大丈夫なのか！？

マコト

骨折が、結構ひどくて...

マコト

完治するには半年はかかるらしい

アキラ

半年...

アキラ

そんなにかかるのか...

マコト

でも、俺しっかりリハビリも頑張るから、きっと復帰できるよ

マコト

だから、大丈夫

アキラ

そうか

アキラ

取りあえず、父さんも今から直接病院に向かうから、

アキラ

その時にまた様子見るよ

～その日の17時～

トシ

マコト！

トシ

お前、ケガするなんて、何やってんだ！

マコト

すみません

トシ

試合中にあんな大けがするなんて...

トシ

しかも、選手同士の衝突でケガとか...

トシ

不注意すぎるぞ

マコト

本当に、すみませんでした

マコト

避けようと思ったのですが、間に合わなくて...

トシ

間に合わないとか、お前ふざけてるのか？

マコト

完全に、俺の不注意でした

マコト

絶対に、今後はないように気を付けます

トシ

まあ、リハビリ後の状態のパフォーマンスが、

トシ

どんなものか、そこに賭けるしかないな

トシ

もし、ダメだったら...その時は考えておけよ

マコト

え？どういう意味ですか？

トシ

もう、選手としてお前のことは取らない、ってことだよ

マコト

えっ？

マコト

でも、リハビリすれば治るんですよね？

トシ

これから医者から話があるかもしれないけど、

トシ

そんな骨折では、スポーツができるくらいの丈夫な体になるのは難しい

トシ

ほぼ、不可能だと思ってもいいよ

マコト

そんな...

トシ

まあ、お前はやる気だけはあるけど、

トシ

他の選手と比べると小柄だし、体の大きさに負けてアタックで負けることがあったからな

トシ

そんなやつ、俺のチームにはいらない、って思ってたんだ

マコト

確かに、小柄であることが原因で太刀打ちできないところはありました

マコト

でも、それはもっとトレーニングして、どんな選手とも戦えるようになりたいんです

マコト

本当に、上手くなりたいので...

マコト

これからも、指導のほど、よろしくお願いします！

トシ

あのな、このタイミングで言わせてもらうけど、

トシ

復帰をしても、お前の居場所はもうないよ

マコト

それは、どういうことですか？

トシ

実は、もう新しい奴をスカウトしている

トシ

そいつも、チームに入りたい、って前向きな答えを出してるんだ

マコト

俺が入れる余地は、もうない、ってことですか？

トシ

まあ、そういうことになるな

マコト

そんな...！

マコト

あの！1年生の時に約束してくれたじゃないですか！

マコト

もっと試合で活躍できる選手になれたら、また大きな試合に出れるチャンスをやる、って

マコト

あの約束は...

トシ

あんなの、口約束に決まってるじゃないか

トシ

お前の小柄な体は、どうやっても直せないんだよ

トシ

だから、諦めろ

マコト

そんな...

マコト

俺、今までほとんどの時間をこのラグビーに使ってきたんです

マコト

そんな、今頃選手として試合で採用することはない、って言われるなんて...

マコト

受け入れられないです

トシ

でも、もう決まったことだ

トシ

俺は、チームとして結果を出すには可能な限り、使える選手を選ぶ

トシ

その時に感情なんて、少しも入らないんだ

トシ

ま、そういうことだから

トシ

分かってくれよな

マコト

ちょっと待ってください！

マコト

まだ、半年はあります

マコト

だから、まずは脚をしっかり治して、そこから考えてくれませんか？

トシ

しつこい奴だな...

トシ

もう、おまえがチームに入るスペースはないんだよ

トシ

終わりだ

トシ

諦めろ

マコト

あの...！

マコト

もう少しだけ、話をさせてもらえませんか！？

トシ

俺は話すことはもうない

トシ

だからもう、連絡なんてしてくるな

～22時～

アキラ

マコト、体調は大丈夫か？

アキラ

話は全部、トシさんから聞いたよ

マコト

話、聞いたの？

マコト

あのさ、俺は本当に...！

アキラ

選手をやめたいなんて、根性がなさすぎるぞ！

マコト

え...？

アキラ

監督に、このケガの完治は難しいと思うから、

アキラ

もうケガが治っても復帰はしない、って言ったそうじゃないか

アキラ

さっき、監督から連絡があったんだ

アキラ

どういうことだ！

アキラ

説明しろ...！

マコト

そんな、父さんは監督の言うことを信じるのか...

アキラ

なんだ？何か言いたいことでもあるのか？

マコト

いや、もう言う気なくした...

マコト

父さんは、俺のこと信じてくれないんだね

アキラ

信じる？どういう意味だ？

アキラ

何か言いたいことがあるなら、しっかり話してくれよ

マコト

もう、話すことなんてないよ！

マコト

今は治療に専念する

~半年後～

アキラ

マコト！

アキラ

お前、退院して今、どこにいるんだ？

アキラ

いったん、家に帰ってくる予定だろ？

マコト

少し、散歩してるだけだけど

マコト

しばらく、ベッドの上だったから退屈だったんだよ

アキラ

なんだ、そうだったのか...

マコト

今頃、父親面して...

マコト

何様のつもりなんだよ？

マコト

俺が入院してる時は、全然俺の方に興味も示さなかったくせに...

マコト

ふざけるなよ...！

アキラ

なかなか、見舞いに行けなかったのは本当に、すまない

アキラ

でもな、父さん、実はお前が言ってたことに引っかかってて...

アキラ

あることを、調べてたんだ

マコト

あること？

マコト

何？

アキラ

試合中に起きたことだよ

アキラ

マコトは、アタックされたときのディフェンスは人一倍うまかった

アキラ

それなのに、ミスなんてするはずない、って思ったんだ

アキラ

おまえに当たってきた選手、監督に言われてわざと、おまえに当たってきたそうだよ

マコト

え？

マコト

待ってよ、どういう意味だよ？

アキラ

試合中でアクシデントがあったあの日、

アキラ

父さんな、本当のことを暴いてやる、って必死になったよ

アキラ

それで、１人の後輩選手が監督が仕掛けたことを告白してくれた

マコト

監督が...！？

アキラ

そうみたいだ

アキラ

父さんも、監督のことは信頼していたんだけどな

アキラ

まさか、裏切られるなんて思っていなかった

アキラ

どうする？マコト

マコト

ごめん、ちょっと話が急すぎて、あんまりついて行けない

アキラ

そうだよな...

アキラ

いきなり話を進めてすまなかった

アキラ

マコトが入院した時に俺に見せた顔、今でも覚えてるよ

アキラ

なんか、悔しそうな、何か言いたそうな顔...

アキラ

そのあと、マコトに聞いても特に言わなかったけど、

アキラ

たぶん何か裏があるんじゃないか、って思ってたんだ

アキラ

そしたら、監督の指導の仕方に色々問題があることが発覚してな

アキラ

仕事が終わったら、大学に行って聞き込み調査してたんだ

マコト

仕事終わりに...？

マコト

大変だっただろ？

アキラ

まあ、毎日ではないから、そうでもなかったよ

アキラ

大変な日もあったけど...マコトに１人で頑張らせるわけにはいかなかった

アキラ

監督が指導で何か不正をしている可能性があることを知った時、

アキラ

おまえだけに辛い思いさせるのが、俺も悔しかった

マコト

ありがとう、そこまで俺のこと考えてくれて

マコト

嬉しいよ

アキラ

じゃあ、マコトはあとは安心して家に帰っておいで

アキラ

リハビリも、今度一緒に少しずつ進めて行こう

マコト

うん

マコト

俺、頑張るよ

~１０分後～

アキラ

トシさん

トシ

マコト君の、お父さんじゃないですか

トシ

久しぶりですね

アキラ

そうですね

アキラ

僕は長い話が嫌いなので、単刀直入に言わせていただきます

アキラ

トシさん、あなたマコトが試合中にけがした時、仕掛けましたよね？

トシ

は？

トシ

突然...何をいうんですか？

アキラ

マコトの入れ違いで入ってくる選手ですが、

アキラ

裏金をトシさんに渡して、スポーツ推薦で大学に入れたそうじゃないですか

トシ

え！？

トシ

なんでそんなこと、知ってるんですか...

アキラ

まあ、ちょっと色んな手を使いましてね

アキラ

調べさせてもらいましたよ

アキラ

それで、その選手を入れるから、

アキラ

代わりにチームの中で一番小柄でハンデが比較的大きいマコトを、

アキラ

チームから外すことを選んだ

アキラ

違いますか？

トシ

いや...はずすなんてそんなこと...

トシ

僕はしないですよ

アキラ

本当ですか？

アキラ

こっちは、あなたのチームの選手がマコトが試合中に、ルール違反をされたこと、

アキラ

証言してくれているんですよ

トシ

えっ？うちの選手が？

アキラ

そうです

アキラ

もう、逃げ場はないですよ

アキラ

どうしますか？

トシ

どうしますか、って...

トシ

もう、マコト君の怪我は終わったことだ

アキラ

終わった？

アキラ

それは、あなたの中だけでのことじゃないですか？

トシ

は？

トシ

何を言っているんですか

アキラ

俺は、この半年間真実を掴むために、ずっと必死で調べてきた

アキラ

ラグビーが好きで頑張ってきたマコトに、辛い思いしてほしくなかった

アキラ

それで、あなたの不正を掴んだんです

アキラ

終わった、なんて簡単な言葉で終わらせません

トシ

所詮、いち保護者に何ができる、っていうんだ

アキラ

すでに、この件は学長に報告済みです

トシ

は！？

アキラ

なので、あなたはもうすぐ、このチームを離れるように、

アキラ

通告が来るはずですよ

トシ

おい、待ってくれよ...

トシ

話が進みすぎだぞ...

アキラ

まあ、この決定は上が決めたことなので、揺らぎません

アキラ

早く準備して、このチームを離れるように

アキラ

それじゃあ

～後日談～

マコト

その後、俺の大学のチームの監督には新しいベテランコーチが来てくれました

マコト

父さんが、知り合いのつてを使って探してくれたらしいです

マコト

俺は、リハビリに時間がかかり、予定よりも復帰に時間がかかりそうですが、

マコト

3か月後、ラグビー選手として復帰ができます

マコト

父さんが必死になって調査してくれたことを、絶対に無駄にはしません

マコト

これからも選手として、邁進していきます

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結城　真矢

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