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大会2日目
男子200m
昨日の疲労も残る中
僕の足は第4レーンへと進む
恵
結空
雲が泳ぐ青空を見上げて
1つ深呼吸をした
この瞬間だけは
ただ自分を信じて
静けさが身に染みる
パンッ
地面をしっかり掴んで踏み込んだ
澄
歓声が僕の背中を確りと押す
向かい風に負けない推進力で前へ進む
前へ
前へ
前へ
走り抜けていく
妙な高揚感と楽しさが込み上げる
息苦しささえ楽しさに変わっていく
23.26
自己ベストには届かなかったが
なぜかとても嬉しい
爽やかな風と柔い光に照らされている
思わず笑みが溢れてしまうような
不思議な気分だった
第4話 再壊
2日間に渡った大会も
日が沈む前に終わった
良い結果を出せた人も
失敗した人もいる
でもみんなの雰囲気は明るくて
清々しい気分になれた
憧埜
恵
憧埜
恵
恵の笑顔が夕日に優しく照らされている
憧埜
恵
手を振りあって互いの道を歩き出した
澄
憧埜
憧埜
少し気持ちが揺すられた
澄
憧埜
憧埜
澄
澄
澄
澄
澄
憧埜
澄
澄
澄
憧埜
澄
優しさが胸に刺さって離れない
憧埜
澄
すすきを揺らす風が二人の間を
すり抜けていく
憧埜
澄
難しい顔を浮かべてから答えを示す
澄
澄
僕の気持ちが見透かされてるみたいだ
憧埜
夕日が山の端にたどり着く
1人じゃないはずなのに
底知れない孤独感に襲われる
澄
憧埜
言ってしまった方が楽なはずなのに
言葉が詰まって出てこないのは
きっとこの関係を壊したくないから
どうすればいいかわからなかった
澄
澄
澄
憧埜
憧埜
澄
澄
憧埜
上手く言葉に出来なかった気持ちが
ずっと漂っている
折角立ち上がったはずの身体が膝をついてしまいそうだ
紘時
憧埜
紘時
憧埜
あの記憶が甦る度息苦しくなる
この気持ちはまだ
心の奥にしまっておきたい
憧埜
紘時
紘時
憧埜
いつも通りを今更演じている
じゃないと泣き崩れてしまいそうだった
そして夕日は見えなくなった
冬ももう終盤に移っていた
12月から2ヶ月の間は何故かものすごくゆっくり感じた
外では雪が舞っている
季節はとめどなく変わっていく
それに合わせて窓の外の景色も 変わっていく
変わらないのは僕の気持ちだけだった
奇妙な夢のことも思い出せないまま
毎朝頬を伝う涙にはもう慣れてしまった
恵
憧埜
恵
恵
憧埜
恵
恵は少し何か言いたげな顔をしている
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
憧埜
恵
恵
意表を突かれて返答に時間がかかる
憧埜
恵
恵
憧埜
恵
憧埜
憧埜
恵
言えない
1人になりたくない
そんな感情に支配される
恵
憧埜
少し薄れていた孤独感が飽和する
憧埜
零
いつもより明るい帰路
いつもより孤独な帰路
いつもは全く見向きもしない公園に足を踏み入れた
そしてまたあの記憶が蘇ってくる
少し俯いてしまった
そして顔を上げるとそこには1人の高校生が佇んでいる
左原 廻青
憧埜
憧埜
時が一瞬停止したような気がした
そしてあの日の記憶がはっきりと鮮明に映し出される
1月下旬
風の強い日だった
僕らはいつも時間があればここにいた
左原 廻青
憧埜
左原 廻青
憧埜
左原 廻青
そんなありふれた話を暫くしていた
抑えている気持ちが拍動したまま
次第に抑えられなくなっていく
憧埜
左原 廻青
抑えろ
言ってしまえば全部終わりだ
この関係も
自分自身の人生も
相手の人生にも傷がつく
抑えろ
言ってしまえば
言ってしまえば
この気持ちから解放される…?
もういっその事
終わらせてしまえば
でもまだ希望は
いやそんなもの最初から存在しなかった
気がつけばもう口にしてしまっていた
憧埜
憧埜
全身が熱くなる
体が強ばって震えている
左原 廻青
困惑したような顔で僕を見つめる
左原 廻青
罪悪感が浸潤する
憧埜
数十秒沈黙が続いた
風が木々を揺らす音が耳を貫く
左原 廻青
左原 廻青
その言葉を風は掻き消してくれなかった
憧埜
左原 廻青
憧埜
憧埜
憧埜
手には何故か強く力が篭っていた
左原 廻青
憧埜
左原 廻青
左原 廻青
左原 廻青
その言葉で分かってしまった
もう元には戻れないと
憧埜
憧埜
ただ胸が苦しかった
垣間見える結末に
既に涙が溢れそうだった
左原 廻青
その口が開いた瞬間
それと同時に心に大きな穴が空いた
左原 廻青
張り詰める空気が漂う
憧埜
呼吸が浅くなった
強い拒絶が胸を締めつけた
そして終止符が強く押し付けられる
左原 廻青
左原 廻青
鋭利な鋏で切られたような
そんな終わり方
もう涙は止められなかった
憧埜
憧埜
左原 廻青
わかっていたのに
ずっとわかっていたのに
こんなに涙が溢れるのは
どうしてだろう
風の音だけが聞こえる空間で
たった2人
何も言わぬまま
冷たい風にたださらされていた
足が竦んでしまう
左原 廻青
憧埜
何も言葉が出てこない
憧埜
友人
左原 廻青
友人
左原 廻青
憧埜は目を伏せて去ろうとする
左原 廻青
憧埜
憧埜
振り絞った声は掠れてしまった
後ろめたさを感じながらも
今伝えるべきことを伝える
憧埜
そう言って憧埜は走り去っていった
友人
左原 廻青
何とも言えない感情に襲われる
そして自分に対する腹立たしさがゆっくりと湧いてくる
忘れたい記憶ほど根強く染み付く
忘れた方が互いに傷つかないのに
それなのに再び鮮明な記憶が蘇ってしまった
憧埜
憧埜
全部僕が壊したんだ
廻青との関係も
心も
人生も
傷つけてしまった
自分の首に手を当てる
憧埜
どうしてこんな風に生まれてしまったんだろう
どうして普通になれないんだろう
どうしてあの時あんなこと口にしてしまったんだろう
自分のエゴで傷ついた心を
どうやって癒す
何のために僕の心がある
何のために必死に生きる必要がある
何のために傷ついて
どうして
どうして
憧埜
暗い部屋でただ1人
やるせない気持ちが微かな光を被った
そしてまた孤独になってしまった
この広い世界で
誰も僕を知らない
憧埜
卑しさを
穢れを
醜さを
どうすることも出来ないまま
ただ涙が溢れるだけ
俺の事信じてくれよ
憧埜
憧埜
勇気を振り絞って伝えてくれた紘時の言葉さえ信じられなくなった
強く首を締め付ける
憎しみと共に伝わる力が
次第に強くなる
息が少し苦しい
そして力が緩まった
憧埜
掠れた声で呟く
紛れもなくそして
果てしなく悲しい本音だった
静まり返った部屋から次第に光が消えていく
ごめん
傷つくのお前だろ
左原 廻青
久しぶりに憧埜を見て驚いた感情と同時にもう1つの感情を抱いた
ただ少し嬉しかった
そして1つだけ確かなこと
もう元には戻れないということ
底が見えない乖離が
2人の間に存在することを知った
左原 廻青