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なぜ好きになったんだと聞かれても

わかるはずがない

気づけばそうなっていたんだから

好きになろうと思って好きになった訳では無い

この感情を抑える方法を探すけど

それも好きになることと同じで嫌いになろうと思って嫌いにはなれない

どうしようもない

立ち入り禁止の屋上の隅でただ1人俯く

すると扉が開いた

やっぱりここにいた

憧埜

なんで

紘時が探してたよ

憧埜

…あっそ

少し冷たく返事をしてしまう

憧埜

零は何しにきたんだよ

せっかくだし話聞いたげる

憧埜

上からすぎ

いいから話して

憧埜

嫌だ

無理

これでも堪えてた方なんだからね

憧埜は首を傾げる

ずっと悩んでる顔して

笑顔も下手くそで

昨日廻青のこと見かけて思い出したよ

冷汗が体を蝕んでいく

あんなに仲良かった2人がいつの間にか一言も話さなくなった

ずっと気になってたんだけど

廻青と何があったの?

零の勘の鋭さは相変わらずで笑ってしまいそうになるくらいで

思わず口が綻ぶ

憧埜

僕が何を言っても

憧埜

友達でいられる自信ある?

何言ってんの当たり前じゃん

深く空気を吸い込む

そしてゆっくりと吐く

手汗がじわじわと滾る

憧埜

ごめんやっぱ言えない

再び扉が開いた

紘時

ここにいたのかよ

紘時

てか立ち入り禁止だし

憧埜

バレてないから大丈夫

紘時

全然大丈夫じゃない

紘時

日比野に呼ばれてたぞ

憧埜

あ忘れてた

そう言って階段を急いで下って行った

紘時は知ってるんでしょ

紘時

大体のことは

紘時

詳しいことは全然

そっか

紘時

無理矢理聞こうとすんなよ

それ紘時が言うんだ

紘時

なんだそれ

靄のような雲が晴れることはなかった

肌寒さが痛く突き刺さる

1年前からずっとへばりつく後悔が足を進ませない

廻青

…はぁ

いつまでも消えることの無い記憶

何度も駆け巡って離れない

泣き崩れる憧埜を前にして何も言えずにいる

理解したい

否定したくない

それでも自然と出てくる言葉はどれも憧埜を傷つけてしまうものばかりだった

もし理解できないまま友達でいたら自分の言葉や行動で

不本意に憧埜を傷つけてしまうんじゃないかと怖くなった

笑って大丈夫って言わせてしまいそうで

どうしようもなく怖かった

廻青

このまま友達でも

廻青

…憧埜が傷つくだけだろ

憧埜

友達で居てくれるなら

憧埜

…もうそれで十分だよ

憧埜

いくら傷ついてもいいから

廻青

よくない

憧埜

声が突っ返って出てこない

廻青

よくないんだ

廻青

…ごめん

どうすればいいか分からなくて頭が途端に真っ白になった

涙が今更流れる

そしてその涙は風に吹かれてどこかへ消えていった

廻青

…ごめん

その言葉だけを残して立ち去った

季節は少しずつ変わってゆく

今年の春はまだ冬を忘れていない

北風が力強く吹き荒れる

もう1年が終わる

3月の校庭に芽吹く桜が慰めてくれているようでどこか寂しかった

顧問

明日から藤晴高校と合同練習だ

顧問

色々な人とコミュニケーションを取って自分の視野を広げたり

顧問

普段出来ない事もできる

顧問

でも1番大事なのは仲間全体の空気を乱さないこと

顧問

誰1人怠けることがないように取りくむようにな

全員

はい!

部員は各々部室に戻っていく

紘時

藤晴って

紘時

レベル高すぎじゃね

憧埜

インハイは大体藤晴からだったしな

紘時

それと同じ練習できるの嬉しい

憧埜

めっちゃ楽しみ

紘時

そういえば矢吹と最近話してる?

憧埜

いや、前の大会からずっと話してない

紘時

じゃあ4ヶ月ぶりくらいか

憧埜

うん

憧埜

それも楽しみ

待ち遠しさと不安が垣間見える

躍る心を落ち着かせるために気を紛らわせるものを探した

何も見つかるはずは無いけれど

藤晴高校との合同練習一日目

全国で名を馳せる強豪校

視界が開けたところでゆっくりと走る1人の姿を見つけた

目が合った瞬間立ち止まって明るく笑ってみせた

矢吹 響

久しぶりやな憧埜

憧埜

久しぶり

暫く会っていなかった響は相も変わらず純粋な笑顔を見せてくれる

矢吹 響

3日間よろしく

憧埜

うん頑張ろ

透明な青ともいうべき空の下

躍動する身体を最大限に躍動させる

仄かに小さくなった響の背中を見ていつか話してくれた話を思い出した

2人以外誰もいないホーム

柔らかい風が吹く夜にただ2人電車を待っていた

すると数分の沈黙を断つように響は話を切り出す

矢吹 響

憧埜

憧埜

どした

響の瞳は線路を見つめている

矢吹 響

ちょっと俺の話してもいい?

その時響の寂しげな顔を初めて見た

憧埜

悩み的な?

矢吹 響

まあそんな感じ

憧埜

いいよ聞かせて

僅かに緊張した空気を飲み込んだ

矢吹 響

前にも言ったけど

矢吹 響

俺のお父さん転勤ばっかりで

矢吹 響

その度に周りの環境が変わってって

矢吹 響

周りに合わせやんと

矢吹 響

後ろ指差されるし

矢吹 響

自分のありのままで生きてたら白い目で見られることが多くて

矢吹 響

それがめっちゃ怖かった

憧埜は目を見てしっかりと頷いている

矢吹 響

でも1番堪えたのは

響が言いたい言葉が何となく分かる

その気持ちも胸が痛いほどに分かる

恐らくその感情は

憧埜

…孤独?

吐き出すようにそう言った

矢吹 響

うん

教室に入ろうとドアに手をかけた

すると中から自分の名前が聞こえてきた

クラスメイト

矢吹って何か浮いてるよな

クラスメイト

わかる

クラスメイト

空気読めてないって感じ

クラスメイト

方言が違和感すぎてやばい

クラスメイト

少しくらい直せばいいのにね

クラスメイト

それなー

クラスメイト

ノリも合わないよね

クラスメイト

周りに合わせるのめっちゃ下手

クラスメイト

目立つためにわざと合わせてないとかありそう

クラスメイト

うわ有り得るw

クラスメイト

噂で聞いたけど前の学校半年も経たずに転校したらしいぞ

クラスメイト

じゃあここもそのうち辞めるのかな

クラスメイト

だといいけどね

クラスメイト

最低ーw

胸が苦しい

上手く息が出来なくなって響はその場で倒れてしまった

先生

矢吹?大丈夫か!

先生

矢吹!

矢吹 響

ノリに合わせたり空気読んだり

矢吹 響

精一杯やってるつもりでもそんなに器用じゃないから

矢吹 響

段々ほんまの自分がわからんくなってた

矢吹 響

周りに迷惑かけてばっかりやった

憧埜

違うよ

矢吹 響

…憧埜は優しいから

矢吹 響

でも皆からしたら輪を乱す異物でしかなかったんやと思う

矢吹 響

自分でも友達にすぐ境界線引いてた

矢吹 響

どうせもう会わんくなるし

矢吹 響

どうせすぐ離れるしって

矢吹 響

互いに踏み込むのはここまで

矢吹 響

そんな風に勝手に線引きしてた

笑顔取り繕う響が見ていられないくらいに痛々しく見えた

憧埜

今も?

悲しさが身体中に湧きだす

矢吹 響

ううん

矢吹 響

今は何があってもここから離れやんよ

安堵が顔から滲みだす

矢吹 響

ちゃんと皆が俺のこと受け入れてくれる

矢吹 響

どんだけ違ってるところがあっても

矢吹 響

それも全部受け入れてくれる

矢吹 響

大事な居場所やからさ

憧埜

そっか

憧埜

ならよかった

憧埜

ずっとここにいてよ

矢吹 響

うん

響は涙を浮かべて照れたように笑ってる

電車の到着を伝えるアナウンスが夜に鳴り響く

憧埜

あ、来た

矢吹 響

やっとか

人がほとんど居ない4号車に2人は足を踏み入れた

そして扉が強い音を立てて閉められた

一日目が終わって藤晴高校を後にする

春風と暖かな夕日に照らされる

気温は17℃程

あまりの心地良さに眠ってしまいそうだ

気分もなんだか落ち着いている

矢吹 響

今日暖かいな

憧埜

ちょっと眠くなる

矢吹 響

確かに

矢吹 響

1日目きつかった

憧埜

それな

憧埜

午前練で気抜いてた

矢吹 響

明日は技術練やな

矢吹 響

頑張るしかない

憧埜

頑張ろ

響は表情を曇らせる

矢吹 響

なあ憧埜

憧埜

ん?

矢吹 響

まだ誰にも言うてないんやけどさ

憧埜

うん

矢吹 響

俺のお父さんがまた転勤するらしくて

矢吹 響

転校考えとけって言われた

憧埜

…まじか

何も言えずに黙ってしまう

何を言えばいいか少しもわからなかった

矢吹 響

でもそれが絶対嫌やから

矢吹 響

藤晴に残る条件として

矢吹 響

評定オール5と次の記録会で100m11秒前半だったら残る!

矢吹 響

って思いっきり宣言した

自慢げに話す様子に表情が綻んだ

矢吹 響

自分で言ったけどほぼ不可能っていうか

矢吹 響

でも何とか評定はクリアした

憧埜

すご

矢吹 響

成績は任せて

ため息を零しながら下を向く

矢吹 響

でも11秒前半はかなり厳しい

矢吹 響

正直怖い

いつも楽しそうに笑ってる響が珍しく心許ない顔を覗かせた

矢吹 響

皆と離れたくない

憧埜

響にとっては大事な居場所なのにね

矢吹 響

うん

矢吹 響

やっと見つけた居場所やから

矢吹 響

大切にしたい

憧埜

じゃあ11秒前半で走らないとだ

矢吹 響

もっとハードル下げたらよかった

憧埜

響なら大丈夫だって

矢吹 響

精一杯がんばる

響の顔には再び笑顔が灯った

矢吹 響

なんかいつも俺だけ弱音吐いてるやん

矢吹 響

憧埜の話も教えて

憧埜

突然の言葉にしばらく戸惑ってしまう

憧埜

急すぎる

矢吹 響

折角やし教えてよ

憧埜

えーどうしよかな

真っ先に思いついた選択肢は

適当に流して誤魔化す

2つ目は嘘の秘密を伝える

そして最後に思いついたのは

本当の秘密を打ち明ける

普段ならこの選択肢は瞬く間に消えていくはずだった

けれど

何故かその選択肢が心に拡がってくる

それはきっとここに微かに

されど確かに

希望があるからなんだと思う

正しい選択をしろ

そう自分に言い聞かせる

それでも消えない

矢吹 響

ずっと黙ってるけどどした

憧埜

ちょっとコンビニ寄ろ

矢吹 響

話変えすぎやろ

憧埜

そこで話すから

響は訝しげな表情を浮かべて頷く

矢吹 響

わかった

炭酸飲料とパンを買って店を出た

ここにもあまり人は居なくて比較的静かだった

矢吹 響

うまこれ

憧埜

お前それ好きだよな

矢吹 響

1回食べてみ

響は1つを憧埜に差し出す

憧埜

えうま

矢吹 響

やろ?

遠い踏切の音が聞こえる

矢吹 響

話していいで

憧埜

うん

信じたい

そう強く思った

紘時にさえはっきりと言えなかった秘密

それを打ち明けることが出来るのは

2人を繋ぐものがあったから

憧埜

僕好きな人いる

矢吹 響

えほんまに?

憧埜

うん

矢吹 響

誰?

矢吹 響

俺知ってる?

憧埜

知ってると思うよ

矢吹 響

教えて

憧埜は響に顔を近づけて耳を引っ張る

矢吹 響

痛い痛い

憧埜

あごめん

憧埜

耳貸して

響は不服そうに横を向く

緊張と躊躇いが胸を圧迫する

それでも伝えたかった

そして静かに囁いた

憧埜

矢吹 響

えあの人?

矢吹 響

インハイ出てた

憧埜

…うん

矢吹 響

えーまじか!

矢吹 響

めっちゃ意外

憧埜

予想外の反応に拍子抜けした

矢吹 響

え?

憧埜

いやなんかもっと驚くかと思った

矢吹 響

驚いてる

躊躇っていたことを控えめな声で言う

憧埜

…でも僕男じゃん

矢吹 響

うん

矢吹 響

それだけやん

矢吹 響

何も悪いことしてなくない?

胸を突かれたようにその言葉が響いた

矢吹 響

好きが間違いなわけないやんか

憧埜

縛られていた心が解かれた

矢吹 響

俺は憧埜の事絶対否定しやんよ

誰も本当の僕を知らない

理解してくれるわけない

そう思ってた

自分が間違ってると思う方が楽だった

でも違った

自分をわかってくれる

僕の存在を認めてくれる

そんな人が今目の前に立っている

感情が入り乱れてよくわからなくなった

矢吹 響

泣くなってw

憧埜

…ごめん

響の笑顔はひたすら優しかった

矢吹 響

やっぱり泣いてええよ

矢吹 響

ずっと苦しかったやろ

憧埜

…うん

憧埜

…ありがと

声が出ない程に涙が零れる

響は下を向く憧埜の頭を軽く撫でる

矢吹 響

そんなこと言わんでええから

今日の夜空は僕らを見守ってくれてる

孤独を手放した2人を

昨日までとは違う明るい明日へ

背中を押してくれている

第5話 春暁

いつかのさよならを君に。

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5話時点での登場人物を記載して おきます。 中村憧埜(しょうや) 高橋紘時(ひろと) 清水恵(けい) 宮原零(れい) 高柴澄(とおる) 西埼春紀(はるき) 千田結空(ゆあ) 境稜佑(りょうゆう) 左原廻青(かいせい) 矢吹響(きょう)

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