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5話時点での登場人物を記載して おきます。 中村憧埜(しょうや) 高橋紘時(ひろと) 清水恵(けい) 宮原零(れい) 高柴澄(とおる) 西埼春紀(はるき) 千田結空(ゆあ) 境稜佑(りょうゆう) 左原廻青(かいせい) 矢吹響(きょう)
なぜ好きになったんだと聞かれても
わかるはずがない
気づけばそうなっていたんだから
好きになろうと思って好きになった訳では無い
この感情を抑える方法を探すけど
それも好きになることと同じで嫌いになろうと思って嫌いにはなれない
どうしようもない
立ち入り禁止の屋上の隅でただ1人俯く
すると扉が開いた
零
憧埜
零
憧埜
少し冷たく返事をしてしまう
憧埜
零
憧埜
零
憧埜
零
零
憧埜は首を傾げる
零
零
零
冷汗が体を蝕んでいく
零
零
零
零の勘の鋭さは相変わらずで笑ってしまいそうになるくらいで
思わず口が綻ぶ
憧埜
憧埜
零
深く空気を吸い込む
そしてゆっくりと吐く
手汗がじわじわと滾る
憧埜
再び扉が開いた
紘時
紘時
憧埜
紘時
紘時
憧埜
そう言って階段を急いで下って行った
零
紘時
紘時
零
紘時
零
紘時
靄のような雲が晴れることはなかった
肌寒さが痛く突き刺さる
1年前からずっとへばりつく後悔が足を進ませない
廻青
いつまでも消えることの無い記憶
何度も駆け巡って離れない
泣き崩れる憧埜を前にして何も言えずにいる
理解したい
否定したくない
それでも自然と出てくる言葉はどれも憧埜を傷つけてしまうものばかりだった
もし理解できないまま友達でいたら自分の言葉や行動で
不本意に憧埜を傷つけてしまうんじゃないかと怖くなった
笑って大丈夫って言わせてしまいそうで
どうしようもなく怖かった
廻青
廻青
憧埜
憧埜
憧埜
廻青
憧埜
声が突っ返って出てこない
廻青
廻青
どうすればいいか分からなくて頭が途端に真っ白になった
涙が今更流れる
そしてその涙は風に吹かれてどこかへ消えていった
廻青
その言葉だけを残して立ち去った
季節は少しずつ変わってゆく
今年の春はまだ冬を忘れていない
北風が力強く吹き荒れる
もう1年が終わる
3月の校庭に芽吹く桜が慰めてくれているようでどこか寂しかった
顧問
顧問
顧問
顧問
顧問
全員
部員は各々部室に戻っていく
紘時
紘時
憧埜
紘時
憧埜
紘時
憧埜
紘時
憧埜
憧埜
待ち遠しさと不安が垣間見える
躍る心を落ち着かせるために気を紛らわせるものを探した
何も見つかるはずは無いけれど
藤晴高校との合同練習一日目
全国で名を馳せる強豪校
視界が開けたところでゆっくりと走る1人の姿を見つけた
目が合った瞬間立ち止まって明るく笑ってみせた
矢吹 響
憧埜
暫く会っていなかった響は相も変わらず純粋な笑顔を見せてくれる
矢吹 響
憧埜
透明な青ともいうべき空の下
躍動する身体を最大限に躍動させる
仄かに小さくなった響の背中を見ていつか話してくれた話を思い出した
2人以外誰もいないホーム
柔らかい風が吹く夜にただ2人電車を待っていた
すると数分の沈黙を断つように響は話を切り出す
矢吹 響
憧埜
響の瞳は線路を見つめている
矢吹 響
その時響の寂しげな顔を初めて見た
憧埜
矢吹 響
憧埜
僅かに緊張した空気を飲み込んだ
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
憧埜は目を見てしっかりと頷いている
矢吹 響
響が言いたい言葉が何となく分かる
その気持ちも胸が痛いほどに分かる
恐らくその感情は
憧埜
吐き出すようにそう言った
矢吹 響
教室に入ろうとドアに手をかけた
すると中から自分の名前が聞こえてきた
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
胸が苦しい
上手く息が出来なくなって響はその場で倒れてしまった
先生
先生
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
笑顔取り繕う響が見ていられないくらいに痛々しく見えた
憧埜
悲しさが身体中に湧きだす
矢吹 響
矢吹 響
安堵が顔から滲みだす
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
憧埜
憧埜
矢吹 響
響は涙を浮かべて照れたように笑ってる
電車の到着を伝えるアナウンスが夜に鳴り響く
憧埜
矢吹 響
人がほとんど居ない4号車に2人は足を踏み入れた
そして扉が強い音を立てて閉められた
一日目が終わって藤晴高校を後にする
春風と暖かな夕日に照らされる
気温は17℃程
あまりの心地良さに眠ってしまいそうだ
気分もなんだか落ち着いている
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
響は表情を曇らせる
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
何も言えずに黙ってしまう
何を言えばいいか少しもわからなかった
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
自慢げに話す様子に表情が綻んだ
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
ため息を零しながら下を向く
矢吹 響
矢吹 響
いつも楽しそうに笑ってる響が珍しく心許ない顔を覗かせた
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
響の顔には再び笑顔が灯った
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
突然の言葉にしばらく戸惑ってしまう
憧埜
矢吹 響
憧埜
真っ先に思いついた選択肢は
適当に流して誤魔化す
2つ目は嘘の秘密を伝える
そして最後に思いついたのは
本当の秘密を打ち明ける
普段ならこの選択肢は瞬く間に消えていくはずだった
けれど
何故かその選択肢が心に拡がってくる
それはきっとここに微かに
されど確かに
希望があるからなんだと思う
正しい選択をしろ
そう自分に言い聞かせる
それでも消えない
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
憧埜
響は訝しげな表情を浮かべて頷く
矢吹 響
炭酸飲料とパンを買って店を出た
ここにもあまり人は居なくて比較的静かだった
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
響は1つを憧埜に差し出す
憧埜
矢吹 響
遠い踏切の音が聞こえる
矢吹 響
憧埜
信じたい
そう強く思った
紘時にさえはっきりと言えなかった秘密
それを打ち明けることが出来るのは
2人を繋ぐものがあったから
憧埜
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
憧埜は響に顔を近づけて耳を引っ張る
矢吹 響
憧埜
憧埜
響は不服そうに横を向く
緊張と躊躇いが胸を圧迫する
それでも伝えたかった
そして静かに囁いた
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
予想外の反応に拍子抜けした
矢吹 響
憧埜
矢吹 響
躊躇っていたことを控えめな声で言う
憧埜
矢吹 響
矢吹 響
矢吹 響
胸を突かれたようにその言葉が響いた
矢吹 響
憧埜
縛られていた心が解かれた
矢吹 響
誰も本当の僕を知らない
理解してくれるわけない
そう思ってた
自分が間違ってると思う方が楽だった
でも違った
自分をわかってくれる
僕の存在を認めてくれる
そんな人が今目の前に立っている
感情が入り乱れてよくわからなくなった
矢吹 響
憧埜
響の笑顔はひたすら優しかった
矢吹 響
矢吹 響
憧埜
憧埜
声が出ない程に涙が零れる
響は下を向く憧埜の頭を軽く撫でる
矢吹 響
今日の夜空は僕らを見守ってくれてる
孤独を手放した2人を
昨日までとは違う明るい明日へ
背中を押してくれている
第5話 春暁