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ご本人様とはいっさい関係ございません。ひっそりとお楽しみください。
忙しなく人が行き交う仁川空港のロビーで、ジョングクはジミンを見つけた。
グク
椅子に座り窓の外を眺めるジミンの目の前に立って声をかけると、嬉しくも悲しくもないきょとんとした顔付でジョングクを見上げた。
ジミン
グク
ジミン
昨夜、ジミンとの約一年振りの食事の約束を「空港に行くから」という理由でジョングクは断られそうになっていた。
メンバー全員の年齢が30歳を越えてからは予定を合わせるのも困難になった為、お互い誘いを断ることも少なくない。
けれど「空港に行くから」という理由でジミンが断る場合、いつもジョングクは引き下がらなかった。
ジミンの家の前で待ち伏せし「車出しますから乗ってください」と半ば強引に空港にお供することにしている。
約束を破ってまでジミンが空港で何をするのか訊かなくてもジョングクは知っているからだ。
空港の駐車場に車を停めて直ぐ「お前は待っていて」と同行を拒否される理由も、二時間も駐車場で待っているのに連絡を一つも寄越さない不誠実な態度の理由も知っている。
どれも全てジミンを振り回している一人の男のせいだ。
グク
ジミン
ジミン
ジミンはあの男から連絡が来ると必ず空港まで迎えにやってきて、一人でずっと待っている。けれど男は来ないことの方が多かった。
それを知ったジョングクは必ずジミンを空港まで送り、一人でいつまでも待とうとする背中を見つけに行くようになった。
グク
グク
ジミン
ジミンはやけにすっきりとした表情でそう言うと椅子から立ち上がった。
ジミン
グク
ジミン
ジミン
グク
ジミンがジョングクを空港に置き去りにして、何も言わずにどこかへ行ってしまうことはよくあることだった。
ジョングクは自分が勝手しにていることだから文句は言わないが、こうしていつもジミンの心を揺さぶるような仕返しだけは必ずしている。
ジミン
ジミン
ジミン
グク
グク
ジミン
ジミン
あの人の才能は歌手活動だけでなく、俳優としても徐々に認められるようになっていた。
売れっ子の俳優という立場を手に入れた人間のスケジュールなど、元メンバーは把握できなくなっている。
それなのにジミンは諦めようとはしなかった。ジョングクには見向きもせずに、交信不可能な宇宙人を待っている。
グク
ジミン
ジミン
グク
グク
グク
ジミン
ジミン
ジョングクの揺さぶりは全く効かず、こんなやり方で返り討ちに合う。プロボクサー並みの腕前だ。
何年経ってもジョングクはジミンの心を揺さぶることができなかった。
その結果の現状なのに、ジミンはまるで裏切られたとでもいうような口振りだ。
グク
グク
グク
ジミン
ジミン
グク
グク
笑顔でそう言うとジミンの頬が膨らむ。30歳を過ぎても、この仕草が似合うジミンがジョングクはとても好きで全てを許せた。
ジミン
ジミン
前言撤回。憎まれ口を叩くジミンのことは昔から好きじゃなかったなそういえばとジョングクは思い出す。
グク
グク
ジミン
ジミン
グク
飛行機が次々と離陸し、どこかへ飛び去って行く。こんな小競り合いをしに来たわけじゃないと、ジョングクは咳払いをした。
グク
ジミン
グク
グク
ジミン
ジミン
グク
ジミン
尖った顎をツンと上げて、ジミンは手を振りながら歩き出した。
引き締まった小さい尻を見送りながら、ジョングクは己の粘り強さに心で拍手を贈る。
早速、ジミンと二人で行くならと考えていた場所を確認し準備をはじめた。当日券を確保できる便を調べながらジョングクはにやける口元を手のひらで隠す。
何年振りかも分からないジミンと二人きりの旅行にジョングクは胸が躍り、脳内ではサンバを踊っている愛犬バムの姿も浮かんだ。
しかしふと、ジョングクは調べる手を止める。ジミンが消えた場所を振り返り、ラウンジのある方向ではないと気付いてしまった。
グク
直ぐに電話をかけると、数コールでジミンが出た。苛立つジョングクの耳には上機嫌な高い声が響く。
グク
ジミン
ジミン
ジミン
グク
30歳を過ぎた人間が、空港で出していい音量ではない大声でジョングクは叫んだ。
グク
グク
ジミン
その冗談を聞いたジョングクは言葉を詰まらせた。
ジミン
グク
グク
ジミン
ジミン
そんな言葉を残されてしまえば、ジョングクは黙るしかなかった。
グク
飛行機が滑走路を離れ、飛び立つのをジョングクは眺める。
あと何年、こうしていられるだろうか。ジミンの尻を追いかけて、年に一度だけでもと会いに行く。どの飛行機に乗ったのかさえ分からないというのに。
来年も再来年も続くのかと思うとジョングクは少し泣きたくなった。自分が諦めてもジミンは一人で待つだろうか。諦めたと知って寂しく思ってくれるだろうか。
ナムジュンの言葉は正しいとジョングクは思いたかった。若気の至りは一生ついてまわる。ついてまわれるものなら、ジョングクはそうしていたい。どんな形でもいいからジミンの側で。
ジミンに振られ肩を落としながら駐車場に戻ってきたジョングクは、信じられないものを見た。
テヒョン
派手なアロハシャツにハーフパンツを合わせたサングラスの男が、手を振りながらジョングクに駆け寄ってくる。
テヒョン
グク
ジョングクはあからさまに嫌な顔をしてみせた。
ジミンが今一番会いたがっている男が目の前に立っているからだ。
テヒョン
グク
グク
テヒョン
ジョングクの話には興味がありませんという顔で、テヒョンはジミンの行方を知りたがった。
テヒョン
テヒョン
グク
グク
いい気味だと笑うジョングクにテヒョンは鼻で笑い返した。
テヒョン
テヒョン
グク
グク
グク
テヒョン
ジミンを振り回している自覚があるテヒョンは痛いところを突かれ不貞腐れた。
渡すはずだった土産をポケットから取り出し、ジミンの喜ぶ顔を思い浮かべる。
グク
テヒョン
テヒョン
グク
パンツがテヒョンの指先でクルクルと回っている。
きっとジミニヒョンに似合うだろうと邪な想像を膨らませそうになるが、見覚えのあるタグが目に入り正気に戻ることになった。
グク
テヒョン
グク
テヒョン
テヒョン
パンツを抱き締め、情けない声を上げるテヒョンの姿にジョングクはガッカリする。
恋敵といえども、今も尊敬するヒョンであり親友でもある人だ。情けない姿は見ていられず、ジョングクは目を逸らした。
グク
テヒョン
テヒョン
グク
グク
テヒョン
グク
テヒョン
テヒョンはジョングクの隙をつき胸ポケットから携帯電話を奪い、代わりにパンツを胸ポケットに押し込んだ。
グク
テヒョン
グク
テヒョンが適当に思いついた数字を入力してみると、あっさりとパスワードが解除される。
テヒョン
取り返そうとするジョングクを避け、奪った携帯電話でテヒョンはジミンに素早くメッセージを打った。
チミーとタタがハートを持っているスタンプも送ると、さっそく既読がつく。
グク
グク
メッセージを読んだジョングクは、肩を落としたテヒョンから携帯電話を奪い返す。
ジミンにはクッキーがOKしているスタンプで返事をした。
テヒョン
グク
テヒョン
グク
テヒョン
グク
グク
テヒョン
テヒョン
本当に自分が振られるなんて1ミリも思っていないテヒョンに、絶対に協力なんてしてたまるかとジョングクは思った。
けれども万が一ジミンが振ったなら、その時ジミンの側にいるのは自分でなければならないと思い直す。
グク
テヒョン
車に乗り込むとテヒョンはカーナビに目的地を入力していく。
グク
テヒョン
グク
テヒョン
入力が終わるとテヒョンは助手席の背もたれを倒し、キャップで顔を覆うと数秒で寝息をたてはじめた。
のんきな寝息にジョングクは腹が立った。けれど、旅先で一人ぼっちのジミンが恋人を待つ姿が頭をよぎり、長い溜息をつくと車を発進させた。
いつかジミンが振り向いてくれるかもしれないと健気に頑張っていたあの頃の自分が今の自分を見たら、絶対に泣きべそをかくとジョングクは思った。