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第1話 - あ

2023年06月29日

#恋愛

結城真矢

ミカ

マナミさん、ムツミちゃんも来年、大学受験よね。

マナミ

そうですね。受験勉強で毎日忙しいよね。

ミカ

もう12月だけど、塾とか通ってるの？

マナミ

塾は通っていないよ。ムツミは生徒会長もやっていて

マナミ

役員の仕事は終わったけど、部活もやってたから

マナミ

忙しくて塾に通う余裕が無くて…。

ミカ

生徒会長ねぇ～。ムツミちゃんでもなれるんだww。

マナミ

ムツミでもなれるってどういう意味？

ミカ

だって、ムツミちゃんが通う高校って、地元の公立でしょう？

ミカ

誰でも入れる高校だから、生徒会役員も誰でもやれるんだなって。

マナミ

誰でもなれるって…ムツミは一応、選挙で選ばれて

マナミ

生徒会長になったのよ。それに、公立といっても

マナミ

この辺りでは進学校の部類に入る高校よ。

ミカ

でも、しょせん公立でしょう？

ミカ

収入の低い世帯の子なら公立を選ぶけど、ウチはね

ミカ

主人が高収入だから余裕で私立の高校に入れられたわ。

ミカ

それも県下随一の進学校よ。

マナミ

まぁ、高校名は聞いた事ありますけど。それは良かったわね。

ミカ

マナミさん、シングルマザーなのにパートで良く

ミカ

食べていけるわね？本当はムツミちゃんの学費も

ミカ

厳しいんじゃないの？なんで高校なんて行かせたの？

マナミ

はぁ？高校は行くのが当たり前でしょう。

マナミ

それに進学を諦めさせるほど、ウチは貧乏じゃないわ。

マナミ

一応、元夫にも養育費は貰っているし。

ミカ

あらあら、別れた旦那さんにもしがみついちゃってるんだ。

ミカ

元旦那さんも大変だね、マナミさんに執着されてて。

マナミ

あのさ、さっきから何を言ってるのか全然理解出来ないんだけど。

マナミ

養育費は私じゃなくて、ムツミが貰っているのよ。

マナミ

元夫は養育を放棄した代わりに、養育費を出してるのよ。

マナミ

子供にとっては当然の権利よ。

ミカ

でも元旦那さんの収入に頼っている事は事実よね～。

ミカ

いつまでも自立できなくて、可愛そうな親子ねww。

マナミ

自立できないとか、決めつけないでよ。

マナミ

あなただって、言いたくないけど結婚してから

マナミ

一度も働かないで、私の弟の収入だけが頼りの生活でしょ。

ミカ

だって、彼はエリートだもの。

ミカ

働かなくてもいいから俺と結婚してくれって、プロポーズされたから

ミカ

結婚してあげたのよ。

マナミ

そんな事まで自慢して恥ずかしくないの？

マナミ

弟からは「子供が出来たから責任を取って結婚する。としか聞いてなかったけどね。」

ミカ

そりゃ、お義姉さんに気を使ったのよ。

ミカ

だってお義姉さんは前の旦那さんに、結婚を無理やり迫ったから

ミカ

一度は結婚出来たんでしょう。そんなモテないお義姉さんが

ミカ

可愛そうだから、彼はプロポーズの事を言えなかったのよ。

マナミ

どっから出てきた話かしらないけど、私、

マナミ

元夫に結婚なんて迫ってないわよ。ちゃんとプロポーズされたわ。

マナミ

まさか浮気されるとは思ってなかったけど。

ミカ

お義姉さん、お気の毒～ww。もっと美人なら旦那様も

ミカ

浮気なんてしなかったでしょうにね。その点私は、

ミカ

今も夫に愛されてラブラブよ。

マナミ

はぁ。それが何。

ミカ

ムツミちゃんもマナミさんに似て、地味で固い子だから

ミカ

高校を出たらすぐ働いて貯金に励まないと、

ミカ

将来はお金に困りそうよね。だって、彼氏とか出来なさそうだもん。

マナミ

え？何その理屈。。

マナミ

地味だから彼氏が出来ないって事？

マナミ

それに高校を卒業したら就職するなんて、誰が言ったの？

ミカ

言わなくても分かりますよ。

ミカ

だってお義姉さん、シングルマザーでお金が無いでしょ。

ミカ

だから塾も通わせてあげられないし、大学もお金が掛かるから

ミカ

行ける訳ないでしょ。

マナミ

なんでそう、決めつけるの。

マナミ

お金が無くっても大学は行けるし、奨学金制度もあるでしょ。

マナミ

ムツミも大学には行くつもりよ。だから受験勉強で忙しいの。

ミカ

え～奨学金なんて！娘に借金を背負わせる気？

マナミ

借金って…奨学金を借りて大学に通う人も沢山いるわよ。

マナミ

ひどい偏見だわ。

ミカ

借金は借金よ。そんなの借りたら、ますます縁遠くなるわよ。

ミカ

だって返済するの大変そうじゃない。

マナミ

余計なお世話よ。ムツミに苦労はさせないわ。

マナミ

それよりもメグミちゃんはお勉強は大丈夫なの？

ミカ

メグミは優秀だから、大丈夫よ。

マナミ

ふーん。優秀ね…。

ミカ

それで、本題なんだけど。

マナミ

随分長くて不快な前置きだったわね。

マナミ

どんな用件？

ミカ

来年の2月に、ウチのメグミがお義姉さんの家の近くの

ミカ

大学を何校か受験するの。

マナミ

へえ、そうなの。

ミカ

家と大学を行ったり来たりするのは大変だから、

ミカ

メグミを泊めてもらいたいのよ。

マナミ

うーん。それはちょっと考えさせてほしい。

ミカ

え、なんで？メグミとムツミちゃんは同い年だし、

ミカ

一緒にいても問題ないでしょう。

マナミ

その時期はムツミも受験だし、余計な気を使う事になって

マナミ

ムツミが疲れたらいけないから。

ミカ

なに、その理由。

ミカ

ムツミはマナミさんの姪でもあるのに、冷たいんじゃないの。

マナミ

でも、ムツミとメグミちゃん、小さい時からあんまり

マナミ

仲良くないでしょ？ムツミちゃんはいつもメグミの事を

マナミ

バカにしてくるっていうか、よくからかうから。

マナミ

正直、ムツミはメグミちゃんの事が苦手なのよ。

ミカ

そんなの、お義姉さん達の思い過ごしでしょう。

ミカ

メグミはムツミちゃんと仲良くしたいだけよ。

マナミ

とてもそうは思えないけど…。

ミカ

あ、もしかしたら、ムツミがレベルの高い大学を受験するのが

ミカ

気に入らないんじゃないの？

マナミ

え？何その理屈。。

ミカ

メグミちゃんの事だから、大学っていっても誰でも入れるような

ミカ

無難な大学しか受験しないんでしょ？

マナミ

そんな事はないわよ。まぁ、確かに

マナミ

確実に受かるところしか受験はしないけどね。

ミカ

ほらね、やっぱり。あのね、ムツミちゃんの邪魔はさせないから、

ミカ

娘を泊めてちょうだい。

マナミ

うーん。何日くらい？

ミカ

2週間かな。

マナミ

結構長いわね…。この辺で、そんなに何校も受験するの？

ミカ

全部で4校よ。滑り止めも何校か受けるから。

マナミ

ふーん。じゃあ、門限を守る事と、ムツミに失礼な態度を

マナミ

取らせないって約束してくれるなら、泊めてもいい。

ミカ

本当？ありがとう！

マナミ

2週間だけよ。ルール違反をしたらすぐ帰らせるから。

ミカ

もちろん、礼儀正しく過ごすように伝えておくわ。

ミカ

お義姉さん、本当にありがとね。

マナミ

気が進まないけど…姪の受験の為だからね。

～2月、マナミとメグミのLINE～

マナミ

メグミちゃん、今日の試験はもう終わったよね。

マナミ

門限の20時を過ぎているんだけど、今どこにいるの？

メグミ

ああ、マナミおばちゃん。私、今は繁華街で彼とデート中なの。

マナミ

え？彼氏とデート？門限は20時って言ったよね？

マナミ

まだウチに来て2日目なのに、なんでいきなり門限を破るの。

メグミ

だって、彼氏がどうしても私に会いたいっていうから。

メグミ

試験が終わってすぐに彼と合流したの。

マナミ

受験中なのに、呑気にデートって…。明日も受験でしょう。

マナミ

夜遅くまで遊んでいたら、体に障るわよ？早く帰っておいで。

メグミ

22時までには帰るわよ。

マナミ

それじゃ遅いわよ。まだ高校生なのよ。

マナミ

こっちはメグミちゃんを責任もって預かってるんだから。

マナミ

何かあったら困るのよ。だからもう帰って来なさい！

メグミ

もう、そんなにキレることないじゃない。

メグミ

ママならそんな事で怒らないわ。

マナミ

私はあなたのママじゃないから、同じように甘くは出来ないわ。

マナミ

門限をこれ以上破るのなら、このまま実家に帰ってもらいます。

メグミ

それは困る。じゃあ、今から帰れば良いんでしょう。

マナミ

そうよ。デートなんて受験が終ってからいくらでも出来るでしょう。

メグミ

はーい。

マナミ

気を付けて帰ってくるのよ。それじゃあね。

～翌日、マナミとミカのLINE（受験日当日の昼間）～

ミカ

お義姉さん、昨日メグミを叱ったんだって？

ミカ

受験の合間の息抜きだったのに邪魔されたって、本人が怒っていたわ。

マナミ

門限を守らなかったから、厳しく言って帰ってこさせただけよ。

マナミ

ルール違反を犯したら強制的に実家に帰らせるって約束で

マナミ

ウチに泊めて上げてる事を忘れているみたいだから。

ミカ

でも叱る事ないじゃない。親でもないのに。

マナミ

あんな夜遅くまで出歩いて、なにかあってからじゃ遅いわよ。

マナミ

大事なメグミちゃんが危険な目に遭ってもいいの？

ミカ

それは…。

マナミ

それにムダに疲れて受験に失敗したらどうするの。

マナミ

まだどこも合格していないって聞いたわよ。

ミカ

たまたま、受験した大学の問題のレベルが高すぎたからよ！

ミカ

今日受験しているところが本命なの。

マナミ

でも受験するのは、あと2校だけでしょう？

マナミ

そう聞いていたから、早く帰って休んでもらおうと思って

マナミ

早く帰って来なさいっていったのよ。

ミカ

だからってデートを中断させるなんてかわいそうじゃない。

ミカ

若い子の恋を邪魔しないであげてほしいわ。

マナミ

いや、デートなら今しなくても、あとでゆっくり出来るでしょう。

ミカ

お義姉さんって、本当に色気もロマンも無いわね。

ミカ

お金に余裕が無いと、そこまで心が狭くなるものなのかしら。

マナミ

心が狭いとかじゃなくて、メグミちゃんの心配をして言っただけよ。

マナミ

とにかく、こちらでの受験が終るまではしっかり節度を守ってもらうわ。

ミカ

はいはい。

マナミ

それに、一緒にいるムツミもメグミちゃんのペースに合わせてたら

マナミ

調子が狂っちゃいそうだからね。ウチの子も受験生だってこと

マナミ

忘れないでもらいたいわ。

ミカ

わかったわ。それならメグミをよろしく。

マナミ

何かあったらまた連絡するわ。

～2週間後、マナミとミカのLINE～

ミカ

マナミさん…ウチの子の事なんだけど。

マナミ

どうかしたの、ミカさん。

ミカ

大学、全部落ちたわ…。

マナミ

え、本当？どこも受からなかったの？

ミカ

ええ。全部不合格。

マナミ

まぁ…それは何といって良いのか。大変だったわね。

ミカ

よくも、メグミの足を引っ張ってくれたわね。

マナミ

え？何を言ってるの。私のせいなの？

ミカ

そうよ！メグミに門限を強制したり、デートの邪魔をしたりして

ミカ

あの子の精神状態にダメージを与えたから、受験が上手く行かなかったのよ！

マナミ

待ってよ、そんなの言いがかりよ。

ミカ

いいえ、あなたのせいよ。メグミを預かってくれるっていうから

ミカ

安心して任せていたのに、あの子の努力が全部パァだわ！

マナミ

全部パアって…普段からきちんとお勉強していれば、一つくらいは

マナミ

受かっていたでしょうよ。それが何で私のせいなのよ。

ミカ

ムツミちゃんが大学に行けないからって、嫌がらせしたに違いないわ。

ミカ

どうせムツミちゃんも、どこも受かってないんでしょ。

マナミ

何言ってるの？ムツミは受験した大学を全部合格したわ。

ミカ

へ？

マナミ

メグミちゃんにプレッシャーを与えてはいけないと思って、黙ってたけど、

マナミ

合格したのは全部Sランクの大学よ。

ミカ

ウソ…だって塾にも通えないのにどうやって勉強していたの？

マナミ

家庭教師よ。

ミカ

へ？家庭教師って…。

マナミ

塾に通う暇が無かったから、高2の時から週に何回か家庭教師に

マナミ

来てもらって、個人授業を受けさせていたの。

ミカ

そんなお金がどこから？だってあなた、パートでしょう。

マナミ

面倒だから黙ってたけど、実は私、3年前に起業したの。

マナミ

仕事が軌道に乗るまで大変だったけど、私これでも社長よ。

ミカ

しゃ、社長！？

マナミ

そう。だから家庭教師を雇うのも余裕で出来たわ。

マナミ

母子家庭の私達を随分バカにしてくれたけど、思い知ったでしょう。

ミカ

な、何が。

マナミ

人をバカにすると、足元をすくわれるって事よ。

ミカ

バカにしたつもりは…ただ、ちょっとからかっただけじゃないの。

マナミ

私とムツミにとっては侮辱以外のナニモノでもなかったわ。

マナミ

これからは反省して、来年こそはメグミちゃんが大学に合格出来るよう、

マナミ

きちんとサポートしてあげる事ね！

ミカ

そんな…浪人生活なんて。恥ずかしいわ。

マナミ

それも貴重な経験よ。どうぞ頑張ってね。それじゃ…。

～後日談～

マナミ

その後メグミちゃんは高校は無事卒業したものの、

マナミ

浪人生活が確定し、付き合っていた彼氏にも振られてしまったそうです。

マナミ

まぁ、受験真っ只中の彼女を夜の街に連れ出す彼氏など、

マナミ

姪であるメグミちゃんには害でしかないから、別れて良かったと思います。

マナミ

母親であるミカについては、メグミちゃんの不合格がよほど

マナミ

精神に応えたのか、私達に絡んでくることはめっきり減りました。

マナミ

私の娘、ムツミはというと、志望校に無事合格し、

マナミ

始まったばかりのキャンパスライフをとても楽しんでいます。

マナミ

これからも親子ともども努力を忘れず、明るい将来の為に

マナミ

力を合わせて頑張っていこうと思います。

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結城真矢

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