ガチャリと家のドアが開く
…嫌な、予感がした
桜笑
…何
桜笑
もう、今年は関わらないって言ったのに
首だけで振り返ると彼女は冷たい顔で言う
…ご主人様の仰せですので
参りましょうお嬢様
桜笑
…また約束を破るの?
私に仰られても困ります
早くお車にお乗りください
桜笑
…はぁ
こういうときのお父様は歯止めが効かない
あたしが拒めばどこまでも追いかけてくる
…ついていくしか、なかった
お待ちしておりましたお嬢様
ご主人様とお客様があちらでお待ちです
桜笑
…お客様?
はい、こちらへ
来たか
桜笑
…何ですか
もう少し愛嬌をよく出来ないのか
この先にお客様がいらっしゃるからお前が相手をしろ
桜笑
いきなり言われても困ります
子供…高校生だ
だが父親は社交界に顔が広い…後を継ぐだろうから良く接しろ
桜笑
それより今年中は関わらないという約束はどうなさるのですか
…ハッ、そんなの何もなければの話だ
お客様の父親がお前のこの間の態度を買って出たのだから
うまく商売にこじつけろ
桜笑
…嫌です
桜笑
もうあなたの言いなりでいたくないんです
言うことを聞きなさい
今までも俺の言う通りだったろう
桜笑
っ!
声が出なくなる
あたしは咄嗟に逃げ出した
桜笑
(心の準備をしなくちゃ…)
桜笑
(お父様に歯向かうとまた嫌なことしかない、よね)
桜笑
(…やらなきゃ、いけない…けど───)
…咲絵?
その声に振り返る
桜笑
え…
あー、覚えてない?
桜笑
ううん
顔も声も姿も
変わったところばっかりだけど、やっぱり面影がある
桜笑
────玲
あはは、分かっちゃったか
桜笑
それにしても…随分変わったね
そう?
お父様に何度抗議してぶつかってもうまくいかなくて
お金だけもらって、絶縁したんだ
桜笑
絶縁!?!?
うん
ほら、うちらの家庭はお金なら有り余ってんじゃん
桜笑
まあ…
桜笑
でもそんなの…
だって自分の人生っしょ?
あんな家庭に縛られたくない
おーい、玲〜!
おう、今行く〜!
じゃね咲絵
だって自分の人生っしょ?
桜笑
(あたしの…人生)
桜笑
桜笑
ん?
桜笑
覚えといて
桜笑
ほんとは、あたしの名前…桜のように笑うって、書くんだ
え、漢字?
桜笑
…うん
───そっか
頑張れよ、桜笑
桜笑
うん!
ガチャン
戻ってきたあたしに驚いたお父様を無視していきなりお客様のドアを開く
桜笑
…お待たせしてすみません
桜笑
三日月咲絵と申します
桜笑
そちらのお父様にはお世話になっていると聞きました
桜笑
それで本日は…どのようなご用件でしょうか
相手は延々と沈黙する
桜笑
…どうされましたか?
その後ろ姿に既視感を覚える
桜笑
────っあれ?
椅子を回して振り返った相手を見てハッとする
お前…どうして
桜笑
えええええ、かいちょー?
ああ…学校の資産のことで少しな
生徒会長としても…好実家としても
桜笑
好実ってあの好実だったの!?
別に隠してる訳ではなかったがそんなに有名な訳でもないしな
それで、お前は?
桜笑
───…
桜笑
桜笑
…あたしが、三日月咲絵だよ。
今なら、言える
あたしにはたくさんの人がいてくれてるから
そしてかいちょーだって、こんなことであたしへの態度が変わったりする人じゃない
なぁるほどな
お嬢様だったらって言ったのは、ウソではなかったんだな
笑って悪かった
桜笑
え?
もしも
あたしがお嬢様だったらどーする?
wwwwwww
桜笑
…覚えて、たんだ
勿論だ
…それで、お前に資金の相談をしてもいいのか?
桜笑
───うん
本当は断るつもりでここに来た
だけどかいちょーの相談なら…お父様よりもあたしで応えたい