短い挨拶を交わして歩く

なんとなく一緒に登校するのは 幼馴染だからなのか

それとも家が近くて なりゆきでこうなったのか

今となっては思い出せない

他愛ない会話をするときは つい横顔を見てしまって

表情の変化が面白くて つい見惚れてしまう

思い出したように呟かれた

眼中にはなかったみたいだ

そのクシャッとした笑顔が 私はとても好きだった

チョコレートをあげる口実が これしか無いのは少し嫌だけど

砂糖とミルクでその気持ちも 消えると思ってたの

毎朝始まる惚気話

去年の夏付き合い始めたらしい

あぁ、なんで

なんでこの話に 笑顔で頷いてるんだろう

君とその人が恋に落ちて 想いあった奇跡を

単純に素直に喜べないくせに

君の横で笑って頷いてしまうのは

君の隣に居られなくなるよりは マシだから─？

バレンタイン当日

君の家まで歩いてく

高鳴る鼓動と 紙袋に入れたミルクチョコレート

私服に着替えた私は 少しだけオシャレして

今の彼女を捨てて 私を選んでくれないかなと

叶いもしない 淡い期待を抱きながら

なんで、諦められないのかな なんてね。

君の家の近くの角を曲がると 誰かが君の家の前にいて

誰かと君が 親しげに話してたんだ

会話内容は聞き取れないけれど きっと彼女だと確信した

親しげに話す二人を見て

あぁ、お似合いだなぁ

なんて。

何が幼馴染だ。 何が9年の付き合いだ。

君と釣り合うような 女の子には慣れなかったよ

そう思ったら、何故か泣けてきて

住宅街の隅っこで 声を押し殺して泣いた

君に彼女ができた瞬間に こんな恋諦めてれば良かったかな

勝手に期待したのは私だったのに なんでこんなに痛いのかな

好き“だった”なんて 言いたくなかったのになぁ

これだけ思いが溢れるのに 一秒もかからない

ミルクチョコレートとは裏腹に 私の恋はビターチョコのようで

苦い、苦い大人の味がする

ねぇ、翼。

幸せですか？

このチョコレートは 弟にでも渡しておくよ

だから、明日も

「おはよう」って言って。