次は、四ツ谷。四ツ谷。 お降りの際は・・・
賢人
(四ツ谷・・・)
賢人
(懐かしいなぁ・・・)
プシュー。
賢人
(こんな最終電車の時間に珍しいなぁ)
扉が閉まりまーす。
賢人
(あの老ぼれ大丈夫か?)
賢人
(老ぼれって俺とあんま歳変わらないか・・・)
プシュー。ガタン。
賢人
(結構ギリギリだったなぁ。)
賢人
(ん?)
賢人
(なんで俺を見てるんだろう?)
芳樹
賢人か?
賢人
え?
賢人
(誰だ?見たことはある気がするけど・・・)
賢人
(ダメだ。思い出せない。)
芳樹
俺だよ。芳樹。
賢人
芳樹さん?ですか?
賢人
・・・
芳樹
・・・
賢人
ああああああああ!
賢人
芳樹!!!
芳樹
そんな立ち上がらんでも・・・
賢人
あー。ごめん。
賢人
歳甲斐もなくつい・・・
芳樹
いやぁ。わかる。
芳樹
大学卒業して以来か?
賢人
そうだなぁ。
賢人
会おう会おうって話はしてたけどな。
芳樹
結局合わなかったなぁ。
賢人
いやぁでも死ぬ前に会えてよかったよ。
芳樹
まぁなぁ・・・
賢人
四ツ谷で何してたんだよ?
賢人
こんな時間まで。
芳樹
まぁいろいろ見てたんだよ。
芳樹
ところでお前さんこそ
芳樹
その歳でこんな遅くまで残業か?
賢人
今日が仕事の最終日だったんだよ。
芳樹
その歳で転職か?
賢人
何言ってんだよ?
賢人
定年だよ。定年。
芳樹
そっか。
芳樹
ずっと勤めてたのか?
賢人
大学卒業してからな。
芳樹
え?じゃあ何?
芳樹
あの文房具の会社にずっといたのか?
賢人
そうだな。
賢人
出世もせずに細々とやってたよ。
芳樹
お前確か商品開発だろ?
賢人
そうだけど?
芳樹
結構ヒット商品出してたじゃんか?
賢人
まぁな・・・
芳樹
ん?
芳樹
どうした?
芳樹
なんか訳ありか?
賢人
まぁな。
芳樹
聞くぜ。昔みたいに。
賢人
・・・
賢人
俺みたいなやつは出世に向いてないんだよ
賢人
アイディアはあっても
賢人
立ち回るのが下手だから
賢人
すぐアイディアを盗まれちまう。
賢人
俺を踏み台にして出世した後輩もいたよ。
賢人
気づけば結婚もせず孤独な独身男。
賢人
そしてついに定年。
賢人
誰にも惜しまれず会社を去り
賢人
一人寂しく送別会。
賢人
ただいま誰もいない家に向かって進行中だよ
芳樹
そりゃひでぇなぁ。
芳樹
誰も来てくれなかったのか?
賢人
まぁしょうがないよ。
賢人
部下も特にいなかったし。
賢人
成果として上がってたわけじゃないし。
賢人
そう考えると俺の人生って
賢人
なんだったんだろう?
ガサガサ
賢人
!
賢人
その消しゴム。
芳樹
これか?
芳樹
孫が使ってるらしくてな。
芳樹
この消しゴムは魔法の消しゴムなんだって言って
芳樹
俺の枕元にそっとおいておいてくれてな。
賢人
それ、俺の最後の商品。
芳樹
それにしてもこの消しゴムすごいなぁ。
芳樹
ちょっとの力で綺麗に消えて
芳樹
しかもカスも出ない。
芳樹
どういう技術なんだ?
賢人
企業秘密だよ。
芳樹
なるほど。お前の努力ってやつか。
賢人
なんだよ。急に
芳樹
要するにお前さんはすごいってことだよ。
賢人
そうかなぁ?
芳樹
少なくとも俺の孫に感動を与えてくれた。
芳樹
そして俺はこの消しゴムのおかげで孫との繋がりを保つことができた。
芳樹
本当にありがとう。
賢人
なんか大袈裟だなぁ。
芳樹
そうかもしれんが
芳樹
そう考えたらお前さんがやってきたことは
芳樹
その辺のサラリーマンより価値があると思わんか?
賢人
まぁ確かに・・・
賢人
とはいえ、その唯一の仕事も今日で終わったんだけどね。
賢人
明日から一人寂しい年金暮らし
賢人
この歳になって将来に不安を覚えるとは思わなかったよ。
賢人
ん?
芳樹
どうした?
賢人
電話だ。
芳樹
俺らしかいないし出たら?
賢人
おう。
賢人
(知らない番号だ)
賢人
もしもし?
畑中
あっ。畑中と申します。
畑中
小林賢人さんの携帯番号でしょうか?
賢人
(畑中って)
賢人
(芳樹と同じ苗字)