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ねこねこにゃんこ
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#〔インターネット少年/少女〕
狸野 ゆゆせ
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「……お前らってさ、本当は付き合ってるの?」
その言葉が飛んできたのは、事務所の休憩スペースで、朝比奈ひかりが紙パックのカフェオレを飲んでいたときだった。
朝比奈 ひかり
危うく飲みかけのカフェオレを吹き出しそうになる。 向かいのソファに座っていた月城レイは、スマートフォンから顔を上げた。
月城 レイ
「いや、ずっと気になってたんだよね」
二人の向かいに座っているのは、事務所の先輩VTuberだった。 先輩は面白いものを見つけたような顔で、ひかりとレイを交互に見ている。
「最近、二人でいること多くない?」
朝比奈 ひかり
ひかりは即座に答えた。
「コラボも多いし、事務所でもよく一緒にいるし。配信見てても距離近いし」
月城 レイ
レイも平然と答える。
「息ぴったりだし、会話のテンポもいいし、なんかもう、長年連れ添った夫婦みたいじゃん」
朝比奈 ひかり
ひかりの声が裏返った。 レイが隣で吹き出す。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりが軽く睨むと、レイは悪びれる様子もなく笑い続けた。 先輩は、そんな二人を見てますます楽しそうな顔になる。
「ほら、そういうところ」
朝比奈 ひかり
「お互いの反応を気にしすぎなんだよ」
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりとレイの声が、ほとんど同時に重なった。 一瞬の沈黙。 先輩がゆっくりと口元を押さえる。
「……ほらね?」
朝比奈 ひかり
月城 レイ
「はいはい、同期ねえ」
先輩は、まったく信じていない顔で頷いた。 ひかりはカフェオレのパッケージを握りしめた。 なんだろう。 最近、こういうことが増えた気がする。
視聴者にはからかわれ、事務所のスタッフにはセット扱いされ、とうとう先輩にまで疑われるようになった。 もちろん、レイと一緒にいるのは楽しい。 それは間違いない。 でも、それと付き合っているかどうかは別の話だ。 ……別の話、のはずなのに。
「まあ、いいけどさ」
先輩が足を組み直して、ふと思いついたように言った。
「じゃあ、仮にだけど」
朝比奈 ひかり
「どっちかに恋人ができたら、もう片方はどう思うの?」
ひかりの手が止まった。 レイもスマートフォンを操作する指を止める。
月城 レイ
「いや、だから。ひかりに彼氏ができたら、レイはどう思う?」
先輩は楽しそうにレイを見た。
「逆に、レイに彼女ができたら、ひかりはどうする?」
朝比奈 ひかり
ひかりは言葉に詰まった。 どうする、と言われても。 普通に、おめでとうって言うんじゃないだろうか。 友達に恋人ができたら、応援するのが普通だ。 相手がレイだとしても、同じはず。 ……同じ、はずなのに。
頭の中に、知らない誰かと笑っているレイの姿が浮かんだ。 隣に座って、楽しそうに話している。 今まで自分に向けていた軽口を、その人にも言っている。 深夜に通話して、何気ないことを話して、配信の相談をして。 そういう時間を、レイが自分以外の誰かと過ごす。 想像した瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
月城 レイ
レイの声で、はっと我に返る。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
ひかりは慌てて笑った。
朝比奈 ひかり
自分でも驚くくらい、明るい声だった。 先輩はじっとひかりを見る。
「ほんとに?」
朝比奈 ひかり
「じゃあ、レイは?」
今度はレイに視線が向いた。 レイは、いつもの余裕そうな顔で肩をすくめた。
月城 レイ
「ふうん」
月城 レイ
「いや、ずいぶんあっさりしてるなと思って」
月城 レイ
レイは笑った。 いつも通りの、からかうような笑い方だった。
月城 レイ
その言葉が、ひかりの胸に落ちた。
――俺には関係ない。
当たり前だ。 レイは自分の恋人じゃない。 自分たちは、ただの同期だ。 お互いの恋愛に口を出す権利なんてない。 分かっている。 分かっているのに。 なぜだろう。 今の言葉は、少しだけ寂しかった。
朝比奈 ひかり
ひかりは小さく呟いた。 その声は、自分でも気づかないくらい弱かった。 けれど、レイは聞き逃さなかった。 ちらりと横を見る。 ひかりは、カフェオレに視線を落としていた。 いつもなら、ここで何か冗談を言ってくるはずなのに。 何かがおかしい。 そう思ったものの、レイが口を開く前に、先輩が手を叩いた。
「はいはい、もう分かった」
月城 レイ
レイが聞く。 先輩はにやにやしながら立ち上がった。
「いやあ、面白いもの見せてもらった」
朝比奈 ひかり
ひかりが抗議しても、先輩は笑うばかりだった。
「まあ、二人とも頑張れよ」
朝比奈 ひかり
「恋愛?」
朝比奈 ひかり
今度は二人の声が、ぴったり重なった。 先輩は満足そうに手を振ると、そのまま休憩スペースを出ていった。 残された二人の間に、妙な沈黙が落ちた。 さっきまであんなに賑やかだったのに。 ひかりは紙パックのストローをくわえたまま、ぼんやりとテーブルを見つめていた。 レイはスマートフォンを手にしているものの、画面には何も表示されていない。 先に口を開いたのは、レイだった。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
レイは、ひかりの顔を横目で見た。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
いつものやり取り。 いつもなら、ひかりはすぐに言い返してくる。 でも今日は、ほんの少しだけ反応が遅い。 レイはスマートフォンを置いた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
ひかりの指先が、紙パックの側面をきゅっと押した。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイは、それ以上聞かなかった。 聞けば、きっと何かを誤魔化す。 ひかりはそういう人だ。 自分と同じように、平気な顔をして本音を隠す。 だから、無理に聞き出すつもりはなかった。 けれど。
朝比奈 ひかり
ひかりが、不意に口を開いた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
レイは、思わず目を瞬かせた。 ひかりは、こちらを見ていない。 まっすぐ前を向いたまま、まるで何でもない話をしているような声で続けた。
朝比奈 ひかり
言ってから、ひかりは慌てて首を振った。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
言い訳を重ねるほど、自分でも苦しくなる。 本当は、そんなことが聞きたかったわけじゃない。 本当は。 レイに恋人ができたら、自分はどうなるのか。 それを考えるのが、少し怖かっただけだ。 レイはひかりを見つめていた。 そして、ゆっくり口を開いた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
予想していなかった質問に、ひかりは固まった。
朝比奈 ひかり
何て答えればいいんだろう。 応援する。 今まで通り接する。 もちろん、そう答えるべきだ。 でも、心のどこかでは違うことを考えている。
できれば、今まで通りでいてほしい。 深夜に通話して、くだらない話をして。 何かあったら、一番に相談してほしい。 配信で隣にいてほしい。 その場所を、誰かに渡したくない。 ……どうして?
ひかりは、自分の気持ちに戸惑った。 だって、自分たちは同期なのに。 ただの、仲のいい同期なのに。
朝比奈 ひかり
やっとのことで出てきた言葉は、それだった。 レイは何も言わなかった。 ただ、少しだけ目を伏せた。
月城 レイ
その声が、思ったより優しかったので、ひかりは余計に困ってしまった。 レイは、いつものように笑ってくれればよかったのに。 「何それ」と茶化してくれればよかったのに。 そうしたら、何も考えずに済んだのに。
朝比奈 ひかり
ひかりは、今度こそレイの顔を見た。
朝比奈 ひかり
レイの表情が、ほんのわずかに揺れた。 ほんの一瞬。 見逃してしまいそうなくらい、小さな変化だった。 けれど、ひかりには分かった。 レイはすぐに笑った。
月城 レイ
ひかりの心臓が、どくんと跳ねた。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイは、わざと軽い調子で続けた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
たったそれだけ。 それだけの言葉なのに、ひかりの胸がじんわりと熱くなった。 嬉しい、と思ってしまった。 レイも寂しいと思ってくれる。 自分と話せなくなるのを、嫌だと思ってくれる。
それが、どうしようもなく嬉しかった。 でも同時に、もっと欲張りな気持ちが顔を出す。 ただ寂しいだけじゃなくて。 ほかの誰かのものになってほしくないとか。 これからも一番近くにいたいとか。 そんなことを思ってしまう自分がいた。
朝比奈 ひかり
ひかりは、今度は少しだけ笑えた。
朝比奈 ひかり
レイがこちらを見る。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
レイは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
月城 レイ
朝比奈 ひかり
月城 レイ
そう言って、レイはいつものように笑った。 ひかりは、一拍遅れて頬が熱くなるのを感じた。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
言ってしまってから、ひかりは息を止めた。 ――今、何て言った? レイも、完全に黙っていた。 休憩スペースに、妙な静けさが広がる。 ひかりは慌てて立ち上がった。
朝比奈 ひかり
月城 レイ
朝比奈 ひかり
返事を待たず、ひかりは休憩スペースを出た。 廊下を歩く足が、いつもより少し速い。 心臓がうるさい。 顔が熱い。 さっきの自分の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。 期待しちゃう。 そんなこと、本人に言うつもりなんてなかった。
なのに、どうして。 ひかりは廊下の角を曲がったところで、壁にそっと寄りかかった。
朝比奈 ひかり
小さく呟く。 でも。 口元が、ほんの少しだけ緩んでしまう。 レイが、彼女を作らないと言った。 冗談だと分かっている。
いつものからかいだとも分かっている。 それでも、あの言葉を聞いた瞬間、嬉しかった。 そんな自分が、少しだけ怖かった。
一方、休憩スペースに残ったレイは、しばらく動けずにいた。
月城 レイ
小さく呟いて、片手で顔を覆う。 自分は何をしているんだろう。 いつもの調子でからかっていただけだった。 先輩の質問だって、適当に受け流すつもりだった。 それなのに。
ひかりが「寂しい」と言ったとき。 胸の奥が、どうしようもなく嬉しくなった。 彼女に恋人ができたら寂しい。 それは本当だ。
今までのように自分だけに見せてくれていた笑顔を、別の誰かが当たり前のように見られる。 何気ない電話も、くだらないメッセージも、二人だけの時間も。 その全部が、少しずつ変わってしまうかもしれない。 そう想像するだけで、胸の中が落ち着かなくなる。 ……嫌だな。
レイは思った。 ひかりに恋人ができるのは、嫌だ。 できれば、ずっと今のままでいてほしい。 自分の隣にいて、笑って、怒って、くだらない冗談に付き合ってほしい。 そして。
できることなら、その隣が自分であってほしい。 そこまで考えて、レイは動きを止めた。
月城 レイ
思わず天井を仰ぐ。 今まで、こんなふうに考えたことはなかった。 ひかりは大切な同期だ。 一緒にいると楽で、話しやすくて、気を遣わなくて済む。
それだけだと思っていた。 でも、本当にそれだけなら。
どうして、彼女に恋人ができる未来を想像するだけで、こんなに嫌な気持ちになるのだろう。 どうして、彼女が自分との時間を楽しんでくれると嬉しいのだろう。 どうして、彼女が自分の言葉に照れたり、困ったりする姿を見ると、もっと見たいと思ってしまうのだろう。
答えは、もう分かっているのかもしれない。 でも、その答えを認めるのが、少し怖かった。 だって、認めてしまったら。 もう、今まで通りの「ただの同期」ではいられなくなる気がしたから。
レイはスマートフォンを取り出し、ひかりとのトーク画面を開いた。 何か送ろうと思った。 さっきのことを謝るべきだろうか。 それとも、いつも通りの軽口でも送ればいいのだろうか。 しばらく考えた末、レイは短く打ち込んだ。
月城レイ:さっきの、変に気にすんなよ
送信してから、すぐに後悔した。 これでは、まるで自分が何かを意識しているみたいじゃないか。 いや、実際に意識しているのだけれど。 数分後、返信が届いた。
朝比奈ひかり:気にしてないよ!笑
レイは、その文字をじっと見つめた。 嘘だ。 絶対、気にしている。 でも、きっと自分も同じように見透かされている。
月城レイ:ならいいけど
それだけ送って、スマートフォンを伏せた。 しばらくして、また通知が鳴る。
朝比奈ひかり:でも、また一緒に配信しようね
レイは目を見開いた。 そして、思わず笑ってしまった。
月城 レイ
こんなことを言われたら、期待してしまう。 自分だけが特別だと、思いたくなってしまう。 けれど、今はまだ聞けない。
ひかりが自分をどう思っているのか。 自分にとって、ひかりが何なのか。 その答えを急ぐには、まだ少しだけ勇気が足りなかった。 レイは返信を打ち込む。
月城レイ:当たり前だろ。またやろうな
送信。 それだけで、少しだけ安心した。 今はまだ、同期でいい。 隣にいるのが当たり前で、何でもないことで笑えて、時々こうして胸が苦しくなる。 そんな関係でも、今はいい。 ただ、いつか。
いつか、ひかりが自分のことを「ただの同期」ではない目で見てくれる日が来るのなら。 そのときは、もう冗談で誤魔化したくない。 レイはスマートフォンを手にしたまま、静かに目を閉じた。 ――もし、ひかりに恋人ができたら。 その問いに、もう答えは出ていた。
きっと、嫌だ。 思っていたよりずっと。 そして、その理由にも。 もう、気づき始めていた。
コメント
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おお……!この第9話、めっちゃエモかった〜!!😭💕 先輩の「仮にだけど」質問、めっちゃ核心突いてくるよね……。ひかりが「私、どうしたらいいのかな」って言っちゃうとこ、完全に自分に気づき始めてるやつじゃん!! レイの「しばらく作らないでおこうかな」もずるすぎるし、その後二人とも“期待”って単語にドキドキしてるのが可愛すぎて反則レベル🥺💔 「ただの同期」って言い聞かせてるのに、お互いの反応に一喜一憂してるの尊すぎるよ……。続き気になりすぎる!!