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とある大学の食堂…

レイン

財団に就職すりゃ良いよ。お前なら研究職もいけるだろ。給料も良いしさ。それに皆知り合いみたいなもんだし、すぐなじめるさ。

トルレイ

だから、その…『普通の友達』には、財団に就職したことは言えないんですよね?

レイン

まぁそうなるなぁ。財団関係の話は上手くごまかす必要がある。でも、ちゃんと一人一人に無理のないカバーストーリーが適用されるし、慣れれば何とでもなるよ。どうした、友達が普通就職なのか?

トルレイ

えー…っと…友達じゃなくて…レインさん、あの…ふざけないで聞いて下さいね?

レイン

おん。

トルレイ

…大学で、恋人ができまして

レイン

(パスタを食べる手を止める)

レイン

マジか。おめでとう!いつから?

トルレイ

大学に入ってすぐ知り合ったんですけど、付き合ったのは1年前くらいです

レイン

良いね良いね、青春だな!

レイン

高校時代を思い出すよ。因みに…どんな子?

トルレイ

それ今聞きます?w

レイン

いや、気になるからさ。サークル関係?

トルレイ

いえ、学部の先輩ですね。おとなしいけど面白い人です

レイン

何か受け答えに余裕を感じるな…

トルレイ

レインさんは?

レイン

それ聞くか?ハハw

少し笑った後、すぐ真顔になる

レイン

恋人、一つ上って言ってたよな。…就職決まってるのか

トルレイ

…はい、付き合ったときにはほとんど決まってたみたいで。内定先は一般企業で…

レイン

そうか。恋人が財団以外に就職するなら…関係性はどうあれ、財団の話はそいつには出来ない。家族に隠してる職員も多いけど、少し辛いかもしれないよ

トルレイ

私は、出来ればそういう隠し事とかはしたくないんです

レイン

そうなると…一般就職をするなら、どの時点かは覚えてないけど卒業までには記憶処理をしなきゃいけなくなる。人間関係の変更まではしないと思うが、財団という組織や出会った異常なんかの記憶は上手くカバーされるはずだ

トルレイ

そうですよね…

レイン

…はぁ…

レイン

なんだかんだ10年以上の付き合いだからな。一緒の職場になるもんだと…思ってた。財団に来ないのは、ちょっと寂しいよ

トルレイ

え?レインさん、私はもちろん財団に行きますよ?

レイン

…え?

トルレイ

私が財団に就職するのは大前提です。だから、恋人をどう説得するかを相談しに来たんです…

トルレイ

ほら、その、いっそのこと恋人も一緒に財団に就職してもらおうと思って。彼が今決まっている就職先も研究職なんで、助手とかなら十分できると思いますし、好奇心旺盛だし、その…

レイン

え?!そっちの相談?!

トルレイ

そうです!福利厚生面とか、カップルでの財団就職の前例とか、とりあえずメリットデメリット示して彼氏を説得したいんです!だから何か良い方法は無いかと、そういう相談なんです!

レイン

wwwwwww

レイン

ハハハwwww、悪い悪い、完ッ全に誤解してた!てっきりお前が彼氏に合わせて就職しちゃうのかと。

レイン

そうだな、一緒にこっちに就職する道も当然ある。人事部に資料出せないか聞いてみるよ。後は卒論だけ、って余裕こいてる彼氏には悪いけど、悪い話じゃないからな!ちょっと待ってろ…

レイン

えーとね...

レイン

カップルでの就職例もあるし、最近では就職後にカミングアウトして転職してもらうってパターンも多い。片方が研究職で片方がフロント企業みたいに、家族ぐるみで財団に就職するパターンだって多いから、とにかく事例を用意するよ。

レイン

メリットとしては給料面や福利厚生、他では絶対に出来ないキャリアと、何より知的好奇心の充足。まぁ、ウチの人事部は優秀だから、リスクに見合った対価を確実に提示できると思う

トルレイ

!ありがとうございます!

レイン

ちょっと財団に電話してみるな!

レイン

にしても、そうか。…強くなったな

トルレイ

皆さんのおかげです。それに、私はずっと前から財団で働こうと思っていたので、今更普通就職は考えてないですから

レイン

ずっと前から?そりゃまたどうして?

トルレイ

絶対に記憶処理を受けたくなかったんです。私は、覚えてなきゃいけないので

レイン

…覚えておくって、いったい何を?

トルレイ

レインさんは、私がどうして財団に引き取られたかご存知でしたっけ?

レイン

あまり詳しくは言えないけど、知ってるよ。放送室、だろ

あの一人ぼっちの放送室。私が囚われ続けた異常。 誰もが自分を忘れてしまう、そういう異常。 だけど、私は覚えている。覚えてなきゃいけない。

トルレイ

皆に忘れられていく…そういう異常性です。でも、私はあの人に…全てに忘れられた後のあの人に会っている

レイン

どういうことだ…あっ

トルレイ

…私の身代わりになった人、あの人と出会ったのは、全員に忘れられた後、最後のアナウンスの後なんです。だから、私は、私だけがあの人を覚えているんです

『皆さんがお待ちでした』。そのアナウンスを最後に、放送室のドアが開く。

もう世界の誰一人覚えていない、オレンジ色の服の少しくたびれた男性と私の目が合う。

涙ぐんだ瞳の中に、覚悟の光が宿っている。恐怖にこわばった顔の中に、優しくぎこちない微笑みを残そうと必死になっている。

そして彼は震える手で私の頭を少し撫でて、こう言ったのだ。

???

『よう、お嬢ちゃん』

レイン

…そうか、覚えてたのか。身代わりになったヤツのことを

トルレイ

はい。ちゃんと研究職になれたら…もし許されるなら、私はあのデパートにもう一度だけ行こうと思います。報告と、これからの覚悟の為に。

レイン

協力するよ。きっと喜ぶだろ

レイン

2分だ。アナウンスが始まる前に絶対にデパートを出る。案内だって反対されてたんだ、アイデンティティの問題だからってのと担当研究員が変わってなかったから説得は出来たが、それだけ皆心配してる。

レイン

今回は本当に特別だ。入口だけ。絶対に2分。過ぎたらウチとロウズが本気で連れ出す。解った?

トルレイ

はい。私も、もう二度と忘れられたくは無いので

レイン

よし。言う事は決まったか?じゃぁ…始めよう

彼は今もそこにいるのだろうか。

トルレイ

…覚えていますか?

声が震えた。

トルレイ

ずっと長い間、私はここで迷子になっていて…貴方に助けて貰いました

言わなきゃいけないことがある。

トルレイ

私、それから元気に生きてきました!友達も、恋人もできました!旅行にも行って、大学も卒業して、私、財団の職員になりました!

レイン

30秒だ

トルレイ

私は貴方を覚えています!貴方を覚えたまま、生きていくから!貴方のおかげで、私は、私は!

正式に職員になったあと、まず一番最初にあの報告書とログを見た。 記録の通りなら、きっとここで叫んだことも届いているはずなのだ。 あの孤独な放送室に。

きっと。

レイン

もうすぐ1分だ。急げ

トルレイ

私は、楽しく生きてこれました!ありがとう、ごめんなさい、私は貴方の優しさに甘えます!貴方を覚えて、生きていきます!

叫びががらんとしたデパートに反響した。 レインさんはずっと時計を見つめている。 涙を拭いて、静寂が戻った冷たい廊下の先を見つめる。

レイン

後1分。きっかりで出るからな

返事が返ってこないことも予想していた。

トルレイ

大丈夫です、解ってます。自己満足でも良いんです。私がやりたかっただけ…

???

トルレイ

?!

レイン

???

???

久しぶりだな、お嬢ちゃん

アナウンスが、流れた

この作品はいかがでしたか?

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コメント

5

ユーザー

後編って事は…え、此れで終わり!? 厭此れで終わるのは一寸続きが気に成るって

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