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いじめっ子

ごめーん、手が滑っちゃったあ

放課後、いきなり水をかけられた。

いじめっ子

木下さんにぴったり。だって名前、雫ちゃんだもんね

女子は私をいじめるのが楽しいみたいだ。 男子たちはそれをいつも見て見ぬふりする。

濡れたままで一目散に家に帰った。

二階の自分の部屋に駆け上がり、ジャージに着替えてテレビをつける。 そこには私の推し、『のんたん』が映っていた。

はあ、癒される。のんたんはいつだって可愛いなあ

私の日課は、学校から帰ってすぐにのんたんのライブビデオを観ること。

のんたん

はーい! みんなの癒しの源、のんたんだよー!

自己紹介は何度聞いても飽きない。

のんたん

私の名前、大きな声で呼んでくれるかなー? せーの!

のーんたーん!

のんたん

ありがとー! でもお、のんたんって呼びすぎて、私のフルネーム忘れちゃってないかな? ちょっと確かめたいから、私のフルネームをまた大きな声で呼んでくれるかな? せーの!

さくらざかのぞみー!

のんたんのフルネームを知らないなんて本当のファンとは言えない。

のんたん

だーいせいかーい! ほんとはもーっとお話ししたいけど、お歌も聴いて欲しいから早速歌っちゃいます! それでは聴いてください、ときめきキューピット!

このライブビデオを観るのは実に三十回目。 のんたんはいつだって笑顔を絶やさない。こんな天使が他にいるだろうか。

翌日の夜九時、私は塾帰りの路地裏でのんたんの歌を聴きながら歩いていた。

お嬢ちゃん、こんなところで何してんの。暇だったら俺らと遊ばね?

絶対について行ってはいけない人だ。

え、あ、いや、用事があるので

そんなこと言わないでさ、ほら

男は私の腕を掴んで無理やり連れて行こうとした。

や、やめてください!

涙目で訴えても聞いてくれない、もう無理だと思ったその時。

???

何やってんだゴリラども

フードを目深にかぶった男性のような、女性?

あ、兄貴、これはその、あのですね

男はフードの人を見るや否や私の腕から手を離し、 両手を上げて何事もないように振る舞った。

???

俺の女に何してんだって聞いてんだ、言ってみろよ

すみません、もうしません!

男性は路地裏を猫のように駆けていった。 フードの人は私に近づいてきて、 フードの下から少しだけ覗いている瞳をこちらに向けた。

???

気をつけろよ

声はわざと低く作っているような感じで、 背は私と同じくらいで少し小柄だ。 そしてこの瞳と雰囲気、私はこの人を知っている。

のんたん?

思わず口にしてしまった私の言葉に、 フードの人は去ろうとしていた足をぴたっと止めた。

???

ついてこい

え?

???

いいからついてこい

あ、はい

私たちは会話もないまま歩き続けた。 ひらけた道に出ると、そこには黒いバンが止まっていた。 フードの人が後部座席に乗り込むと、 手招きをして「乗れ」と私に合図を送ってきた。

そこから約二十分ほどで怪しげな豪邸にたどり着いた。 車を降りてそのままついていくと広いリビングに案内される。

フードの人はふかふかのソファーに腰掛けた。

???

どうしてわかった

のんたんとは全く違う姿なのに何故かのんたんだと思ってしまう。

ど、どうしてって、瞳とか雰囲気とか、ってあなた本当にのんたんなんですか?

フードの人は深いため息をしてから部屋を出ていった。 ほったらかしにされること約二十分、 ドアを開けて部屋に入ってきたのは、 間違いなくいつも見ているのんたんだった。

のんたん!

のんたん

これで信じてくれたかな? みんなの癒しの源、のんたんだよー

のんたんはゆっくり私に歩み寄り、両手をぎゅっと握る

のんたん

それで、なんでわかったのかな。私に教えて欲しいなー

いつも見ている笑顔だけど目が笑っていない。

私、のんたんの大ファンで、毎日ライブビデオ見てるし、ライブ会場にも必ず行くし、とにかく大好きなので、わかっちゃったというか

のんたん

そっかあ、今まで気づく人いなかったからびっくりしちゃった。でもお、恥ずかしいから内緒にしてくれるかな?

もちろんです!

のんたん

よかったあ。そうそう、お名前教えてくれる?

木下雫です

のんたん

雫ちゃんかあ、学校はどこなの?

一通り話し終えると、のんたんは時計を見た。

のんたん

あ、もうこんな時間! 今日は楽しかったね、お家まで送るよ

私はお言葉に甘えて家まで送ってもらった。

翌日、先生が転校生を紹介すると言って、 教室に入ってきたのは制服姿ののんたんだった。 教室の外にはカメラが一台待機している。

のんたん

はーい! 転校生の桜坂希です! 一ヶ月間お仕事で体験入学させてもらいました! ちょっとカメラがお邪魔かもしれないけど、みんなと仲良くなれたら嬉しいな

教室中がざわざわしている。

放課後、のんたんは私が帰ろうとする姿を見て真っ先に駆けつけてきた。

のんたん

雫ちゃん、一緒に帰ろ!

私は周りを見た。

いじめっ子

何あれ、仲良しアピールかよ。木下さんも嫌なことするねえ

ああ、嫌な声が聞こえる。

のんたん

雫ちゃんどうしたの? 早く行こ

私たちは外に出るまで一言も喋らなかった。

あの、のんたん……

のんたん

希でいいよ。雫ちゃん、いじめられてるんだね

その言葉は私の胸に一直線に突き刺さった。

のんたん

でも、私がいるから大丈夫だよ。気にしない気にしない!

希ちゃんは私を励まし、 次の仕事があると言ってすぐに行ってしまった。

塾の帰り、路地裏は避けてなるべく明るい道を通って帰っていた。 ふと後ろに気配を感じ、期待を膨らませて振り返った。 でもそこにいたのは希ちゃんではなかった。

いじめっ子

オタクに友達はいらないでしょ?

笑顔を浮かべ意味のわからない理屈で私を突き飛ばしてきた。 後ろは下りの階段、落ちかけた私の体を支えたのは、 フードを目深にかぶった希ちゃんだった。

雫、大丈夫か?

耳元で囁く言葉に私は安心した。相手は希ちゃんだと気づいていないようだ。

ちょっと待ってろ

希ちゃんは私を優しく階段に座らせた後、 逃げようとしていたいじめっ子を捕まえ、 うつ伏せの状態で手を後ろで拘束し、 いじめっ子を地面に押さえつけた。

いじめっ子

ちょ、ちょっとあんたなんなのよ

それはこっちのセリフだ、お前こそ雫に何してる。生意気な口聞けないようにしてやるから、その前にさっさと吐けよ

いじめっ子

関係ないでしょ、あんた誰よ

桜坂希って言ったらわかるだろ

希ちゃんは内緒にしてきた姿をついに晒してしまった。

希ちゃん、もういいから!

私の言葉に反応して希ちゃんは押さえつけるのをやめた。

いじめっ子

アイドルが暴力振るったって暴露してやるから

いじめっ子は逃げていった。

ごめん、希ちゃんの秘密が……

別にいい、暴露して消えるのはあいつだ

希ちゃんは私を家まで送ると、とぼとぼと一人帰っていった。

あの騒動以来いじめはなくなった、 というかいじめっ子が急に転校したのだ。 おかげで学校では平和に過ごせている。

もしかして、希ちゃんなんかした?

のんたん

んー、正確には私じゃなくて親かなあ。色々あって絶縁したけど厄介ごとは嫌いだから

私には気になることが一つだけあった。

アイドルの時と夜の時、どっちが本当の希ちゃん?

希ちゃんは私の質問に一瞬固まったけど、柔らかい笑顔で答えた。

のんたん

どっちも私だよ。だって、一つの姿で居続けるのは誰にとっても苦しいでしょ? たまには息抜き大事だもん

私の推しは、今では最高の友達としてそばにいる。

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