ハラム
ハラム
ハラム
かごを持ちながら、三人に話しかけた。 「何をやっているんだ?」 三人はすぐさまこっちを見て赤面した。 「すみません。迷惑でしたか?」 一人の美女が話してきた。 「いや、迷惑ってほどでは。」 「そうですか。よかったです。」 美しい声だった。 「大丈夫か?彼女。」 俺は首を動かし、地面に座って、泣いてる彼女を指した。 「あぁ須磨さんですか。すみません。彼女不器用なんです。」 「何で皿を割ったんだ?」 「お嫁に行くための特訓です。」 「嫁?」 心臓が跳ねた。 「はい、お嫁に行くための特訓で、皿運びを少々。」 俺は少し、気になり言った。 「あいつだけなのか?」 「違います。私も、そして、まきをさんも。」 俺はさらに心臓が跳ねた。 「みんな、行くのか?」 「はい。」 「相手は?どんなやつなんだ?」 「知りません。全員顔を知りません。誰かも、どんな声なのかも、知りません。ただ知ってるのは名前だけ。」 「だけど、それが私達の定めなのです。」 同じだ。 俺達と同じだ。 顔も知らねぇやつと結婚する。 どんなやつなのかも知らないまま家族になる。 「そうか・・・」 俺はため息と共に声を出していた。 「では、お気をつけて。」 「さようなら。」 ダメだ。 もし帰ったらもう二度と会えないかもしれない。 彼女は背中を向けて・・・ 「おい!」 彼女が振り向いた。 「お前ら!料理はできるのか?」 後ろの二人がこっちを向いた。 「嫁入りすんなら最低限の料理はできないといけないぞ!」 「まぁ、そうですね。」 彼女が言った。 「で?できるのか?」 「私は少し、二人は・・・」 「ちょっと作ってみろ。」 俺はかごから食材を取りだし、渡した。 「え?え!?」 すごい動揺をしていた。 「ほら、準備!」 肩を優しく押した。 彼女は食材をもってとことこと家の中に入ってった。 「ほら、そこの二人も!」 二人は割れた皿を持って、彼女の後を追っていった。 屋根の上の煙突から煙を漂わせ三人の話し声が聞こえた。 「雛鶴さーん!何これ?切ったら目が染みるよ!目が痛い!!!」 「こら!須磨!何これ!真っ黒焦げじゃない!」 「まきをさん、あんま怒らないで。」 「雛鶴さん!ダメよ!そんなんじゃ!」 「ごべんなざぁーい!」 「汚い!」 「ひどっ!」 俺は外で懸垂と、腹筋をしながら待っていた。 「できましたよー。」 可愛らしい声が聞こえた。 「分かった。」 俺は家の中に入った。 「はいどうぞ。」 お盆の上を見た。 「は?」 声を漏らした。 そこには炭があった。 確かにさっき、緑と黒の市松模様の羽織を着た炭売りの少年が来たけど、それをそのまま出す訳じゃないしな。 少しだけ炭をかじってみた。 ガリっと音がなり、口の中に苦味が広がり、吐きそうになった。 細い骨があり、なんとか、これが渡した鮭だと分かった。 不味いぞ。 「おい!お前ら!」 驚いた様子で俺を見た。 「なんだこれは!ふざけんな!」 俺は思ったことを口にした! 「だいたいなんだ!下手って言う次元じゃねぇぞこれ!」 彼女たちはしどろもどろになっている。 俺はもうどうでもよくなり言ってしまった。 「俺が一から教えてやる!」 俺は料理には自信があった。 いつも家族に飯を作ってたからだ。 「え?ホント!?」 おっちょこちょいの彼女が言った。 俺は威勢のいい声で言った。 「あぁ!ホントだ!」 時計をチラリと見た。 時刻が七時を過ぎていた。 「ヤバッ!」 俺はすぐに、かごを持ち、家を出た。 「またここに来る!」 そう言いながら走った。 三人が家の外に出てきて叫んだ。 「すみません!あなたのお名前は!?」 「天元!宇随天元だ!!!」 俺は言った。 「あんたは!?」 三人はおどおどしながら 「私は雛鶴!!」 「あたしはまきを!」 「私は須磨!」 どれも本当に綺麗でいい名前だった。 「じゃあな!」 俺は走った。 家の明かりはすぐに見えなくなった。 家に帰ると、親父が俺を叱った。 遅いだとよ。 知るか、そんなもん。 俺は毎日こいつらの飯を作ってる。 もちろん今日もだ。 兄弟が死ぬたび、米を炊く量がどんどん減って行く。 俺はそれが、寂しくて寂しくて仕方がなかった。 けれど、ふと疑問に思ったことがある。 俺はいつ料理を覚えてたんだ? 親父か? いや違う。 母親? いや、俺が物心つくまえに死んだ。 じゃあいつ? 俺は頭に疑問を浮かべながら料理を作った。 翌日 朝イチに、彼女たちの元へ行った。 戸を開けると三人が川の字で寝ていた。 とても綺麗な寝顔だった。 俺は台所を見た。 昨日の鍋や、箸などが、桶にごちゃごちゃに突っ込んであった。 俺は少し笑い、洗おうとした。 桶に水を張り、皿を洗った。 チラッと窓に目を向けると、白黒の少女の写真が置いてあった。 その目は綺麗で、真ん丸だった。 ズキッ!! 急に頭に衝撃が走った。 痛い!!!痛すぎる!!! あの写真の少女の顔を見たとたんに! 何でだ? どういう事だ? ガヤガヤと話し声が聞こえてきた。 ここはどこだ? 頭に映像が鮮明に浮かび上がる。 「誰だ?お前。」 かすれた声がきこえる。 俺の声じゃない! 「腹減ったのか?」 なんだ?なんなんだ!? お前は誰なんだ? 「天元。大好き。」 赤く頬を染める顔。 そうだ!俺はあの時!!! 「誰だ?お前。」 チラッと顔を見た。 「どした?家出か?」 俺は涙を貯めた目を袖で擦った。 グゥーと腹の虫が鳴った。 「腹減ってるのか?」 俺は首を縦に振った。 「じゃあ来い。」 俺の手を引っ張る彼女。 そうだ。全て思い出した。 これは俺が今まで失くしてた。 いや 忘れようとしていた記憶だ。 それはあまりにも辛い記憶。 そして、初めて俺を助けてくれた、あいつとの日々だ。 彼女の名前は明奈(あきな) 俺の初恋の相手だった。 そして、俺が守りきれなかった唯一の女だった。 祭りの神が奏でたい音 中編 完
コメント
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おもしろかったです!