コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
タァンッ
軽い音が耳の中で反芻される。
この戦場には嫌という程、今もまだ尚響き続けているこの音は、うちの国、W国の拳銃の音。
反動も軽く、威力もそれなりという優れモノだ。 最早、密輸係となった兄さんのお陰で入手することが出来た、この時代を先取る品。
戦場に立つ俺の照準は仲間のコネシマさんを越えた先の、敵兵だったはずだ。
あぁいや、勿論コネシマさんには多少なりとも殺意は持っていたが。
どさり。
膝から崩れ落ちるようにして倒れたコネシマさんに、
自分でも制御が効かなくなるような、色濃い殺意すら覚え、
己のその銃口を先輩に向ける。
嗚呼、嫌だ。殺したくない。
自分でも不思議に思う程の後悔や自責の念が沸いてきて、
それでも、身体は意志を無視して人を殺す為に再びセーフティを外し、照準を覗き込み、
引き金に手を掛けた。
途切れ途切れに俺の名を呼んだあの人が、
柔らかな表情をして、此方を見ている。
何故そんな顔をするんだ。
何故慈愛の目を向けるんだ。
と、そう問い詰めてやりたかった。
確かに昔、そう約束したのは俺だ。
だからといってこれは、些か残酷過ぎるのではないか。
何時もなら避けられたであろう俺の弾が
今はすっかりコネシマさんの腹の中だ。
嫌になるくらいデカい俺の、コネシマさんへの過信。
それが招いた死を、俺は受け入れられるのか。
否。
受け入れられないから今こうして、
倒れた其奴に銃口を向けているのだ。
今倒れているのは自身の、
一生涯の標的であり、
人生の先輩であり、
命の恩人とも呼べる、 その人だ。
あの日、もし俺をこんな戦場に連れてこなければ。
なんて、らしくもなくそんなタラレバを頭の中で呟いてみる。
それに意味が無いことは分かりきっていた。
死にかけで音なんて差程出もしない喉で、未だ尚、
コネシマ
コネシマ
なんてほざくものだから。
銃口を周りの敵兵に向けて撃つ。
恐らくここにはもう敵兵は来ないだろう。
だって戦争は終わったのだから。
再びその人に近寄り、銃口を向けた。
ショッピ
ショッピ
自分の招いた死が、こんなにも自分を苦しめるとは思わなかった。
知らず知らずの内に大粒の水滴が頬を伝う。
自分を見詰める澄み切った空色が。
太陽のようなその金色が、
今は嫌に眩しく思えた。
ああ、なるほど。
心が痛む、って言うのはこういう事なのか。
俺はこの人から何もかもを教わった。
戦い方も、殺し方も、生き方さえ。
最初に世界の素晴らしさを俺に教えたのはこの人だった。
そんな人を俺が殺した。
その事実が堪らなく怖い。
いっそ過去にでも戻ってやり直したい気分だった。
過去の自分にでも教えてやれば、なにか現状は変わったろうか。
はくはく、と最早息を吐き出すだけの口から読み取れたのは、 最後まで此奴には敵わない、ってことだ。
俺はこの人を何時までも越えられないのだろう。
死人を忘れるのは、まず顔かららしい。
俺はこの印象的な顔を一生忘れられないだろう。
忘れることなんて出来ない。
此奴は俺の中で、一生忘れられない程に濃く残る記憶で、
何より、
この人は史上最悪のクソ野郎だから。
濁った目を閉じて
普段なら想像すら付かないような優しげな顔で永久に眠る、
冷たくなったその人のドックタグを握り締めた。
脈を確認して、事実が、現実がやっと追い付いてきた。
そう思ったら、また殺意が沸いてくる。
コネシマ
コネシマさんは確かに死に際、そう言った。
俺はこれから先、この罪を背負っていかなくてはならない。
死にたい気分ですらあった。
けれどもそれは目の前で死にやがった此奴が、許してはくれないだろう。
会いに行ったとして、途中で追い返されるのがオチか。
そんなことを考えてる自分に、なんだか段々笑えてきた。
未だにコネシマが自身を大切に思っていることを信じているのだ。
普通なら殺されたヤツが?そんな事ないだろ、って自分を一蹴するが、
あの人は大概イカれている。
思いかねないな、と思いつつ、また悲しくなった。
死ぬことは許されない。
今までの罪を覆すような、
重くて、絡み付いてくるような、
厳重な鎖を、十字架を、
俺に背負わせた罪は、
きっとこんなものよりずっと、ずっと重いぞ、コネシマ
いつか、絶対
ショッピ
ショッピ
願うことならば、
最後にもう一度だけ
「ショッピくん」
と、そう呼んでほしかった。
快活で、煩くなるほどの
アンタの声で。