夏苗
お父さん、助けて
藤次郎
どうした?
夏苗
帰れないの
藤次郎
帰れない?どうしてだ
夏苗
車が落ちちゃったんだ。脇走りすぎたみたい。
藤次郎
落ちた?どこだ。今行く
夏苗
竹屋マートがある、向こうの山
藤次郎
お前、山から落ちたのか!?
夏苗
うん、雪崩が起きたの
藤次郎
今、お父さん行くから待ってろ!!
夏苗
夏苗
お父さん、明日お母さんの誕生日なの覚えてる?
藤次郎
お前、そんなこと言ってる場合か!!
夏苗
何急いでるの?
ねぇお父さん…お母さんとなんで仲良くしてくれないの?私いつも嫌な気持ちなんだ
ねぇお父さん…お母さんとなんで仲良くしてくれないの?私いつも嫌な気持ちなんだ
藤次郎
お前…なにいってるんだ?
夏苗
そろそろいい加減にしてよ。
お母さんをもう苦しめないで!!
お母さんをもう苦しめないで!!
藤次郎には、このセリフを見覚えがあった
藤次郎
おい、ふざけるのもいい加減に
夏苗
そんなお父さん大嫌いだ
藤次郎
嫌いでいいよ…。今行くからな
藤次郎は車を走らせた。
藤次郎
うわ、凄い雪崩だ
その山は上の雪の層が一気に崩れ、あったはずの民家なども屋根だけが見え隠れしていた。
藤次郎
夏苗!!返事しろ!!!
藤次郎
おーい!!!!!
どれだけ呼んでも返事はない。
藤次郎
絶対見つけるからな
藤次郎は必死に雪を掻き分けた。
シャベルなどを持ってくるんだったと後悔する。
どんどん指先の感覚を失い、赤く染まっていった。
藤次郎
夏苗!!!!
どこだよ!!!!
どこだよ!!!!
凍えた風が大きく吹いた。
上から地鳴りのような音が響く。
雪崩だ。
それと同時に指になにか触れた。
藤次郎
夏苗…?
雪から手だけが出ていた。
これだけじゃ夏苗の手かはわからないが、俺は握った。
藤次郎
大丈夫だ
藤次郎
きっと
雪崩が俺たちを襲った。
俺は気を失った。
藤次郎
……ぅ、
香恵子
お父さん、よかった…
俺の妻の香恵子は、 俺を見て泣き出した。
藤次郎
香、恵子…、あ、ぁ
夏苗…は?
夏苗…は?
香恵子
…夏苗は、ダメだった
藤次郎
ぁ…嘘だ…ろ
俺も涙が溢れ出した。
泣いたのはいつぶりだろうか。
娘を失う悲しみは大きかった。
あれから葬式も終えて、しばらく経った。
香恵子
お父さん。
スマホ、直ったみたいだから。ほら
スマホ、直ったみたいだから。ほら
香恵子は俺にスマホを差し出した。
雪崩に巻き込まれたせいで故障してきたが、修理が終わったようだ。
藤次郎
ありがとう。
LINEを立ち上げる。
藤次郎
夏、苗…?
あの日の、続きのメッセージがあったようだ。
夏苗
冷たい事言ってごめんね
夏苗
でも、私が困った時に
いつも駆け出してきてくれるの
本当に嬉しい
いつも駆け出してきてくれるの
本当に嬉しい
夏苗
いつも素直になれなくて、反抗ばっかりでごめんね
夏苗
お父さんの手は
やっぱり大きいなぁ…
やっぱり大きいなぁ…
それは夏苗が5歳の頃に言った言葉だった。







