黒木くんに文通が知られてから2日後、 放課後に図書室に訪れた私は本棚の前に立っていた。
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______________________________ 学校の図書室の本じゃ、他の人も読むことあるよな。 ごめん。俺、スマホ持ってないんだ。 もし誰かに知られるのが嫌だったら、もうやめたほうがいいのかも しれない。 ______________________________
本を読んで胸が締め付けられる。
佐藤くんはもう文通をやめていいと思っているのだ。
以前は、 「君と話したいし、君のこともっと知りたい」 ていっていたくせに。
今更そんな弱気になって。 それほどもう私に興味ないのかな…?
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それでも私は______。
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思わず声が漏れた。
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佇む私の隣で、本棚を整理する図書委員の男子がいた。
ふと、図書委員の男子の上履きに書いてある名前が目に入った。
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そのに文字に心臓が強く脈を打つ。
そこには
『佐藤』
と書かれていた。
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本棚を見つめる視線の高さは私とそこまで変わらず、 分厚い黒縁の眼鏡越しに窺える円らな瞳は涼しげな色がある。
黒にやや紫色がかった無造作な髪や薄い唇が真面目そうなイメージを 作り上げ、どことなく近寄りがたい。
上履きのつま先部分が緑色で、3年生ということが判明した。
佐藤くん、いや佐藤先輩と呼ぶべきか。 図書委員なら私が『こころ』を読んでいることを知っていてもおかしくない。
かなり有力な線だ。
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だが、本の整理が終わったのか佐藤先輩は過ぎ去っていった。
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私は佐藤先輩の事を思い浮かべながら、本の話題を 出してみようかと更にペンを走らせる。
私にとってメリットが少ない文通だけど
………………それでも私は佐藤くんと文通がしたかった。
______________________________ 今のところ、私はまだ続けたい。 もし今後辞めたくなったら、その時はまた言うね。 佐藤くんは『こころ』好きなの? 好きな人と結婚しても、結局後悔が消えないまま 自殺しちゃうって、 私はいい気持ちしないな。 ______________________________
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rnがこちらに向けたディスプレイには 最近女子高校生の間で話題になっているリップの画像があった。
ティントタイプなのにベタつかない優秀なプチプラコスメ とCMで謳われているもので私もよく知っていた。
しかしrnにはマットな発色リップよりも 潤いがあるタイプのリップが似合うのではないかと薄々感じた。
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あぁ…怖ぇ… この前裏で散々言ってたくせに表では笑顔貼り付けて振る舞う。
人間ってそんなもんなんだ。
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rnと隣にいるだけで平気で嘘付かれることに悲観する。 まぁでも私だって人間関係こじらせたくないから本音を飲み込むんだけどね笑
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一切悪気なく笑顔で言うrn。
周りの空気読め。
明らかに空気がピリッと凍りついた。
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余計なこと言わないでよ…。
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絶対3人とも思ってる。 「rnさんじゃなくてあんたがデパコス好きなんだ?笑」て。
好きなことはクラスメイトおろか、rnにだって 言ってない。
私にお菓子作りや裁縫といった趣味、 可愛いコスメを頻繁にチェックしてるなんて誰も思ってないだろう。
“可愛い”はrnのものだ。
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rnは空気を読まず、人の気にしてる部分を悪気なく言ってくるから 恐ろしい。
私の劣等感を、いや劣等感を抱いてることすら知らずに 土足で踏み込んでくる。
私がrnほど可愛かったらきっと好きなものも“好き!”て 胸張って言えたんだろうな…。
______________________________ 文通を続けたいって言ってくれて本当にありがとう。 そうか? 「先生」は、ずっと胸にあった苦しみをようやく話すことが できたんだから最期は幸せだ。 ______________________________
その手紙を読んで自然と首を傾けてしまった。
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私には理解できなかった。
遺された奥さんがとても可哀そうだし、Kへの 罪悪感に苛まれるくらいなら初めから人を出し抜かなければ良かったのだ。
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そこで気づいた。
本好き以外で、特異な角度から本を読む人がいるだろうか。 本に興味がなければ独自に物語を噛み砕いたりしない。
つまり______ 佐藤くん=図書委員の佐藤先輩 である線はかなり有力だと言えないか…?
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だがいつものカウンターには先輩はいない。 それもそうだ。貸し出しカウンターは当番制。 いつもいるとは限らない。
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第一印象で怪しまれたらお終いだ。
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いきなり無愛想な低音ボイスが耳に入る。
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彼は『こころ』が並んでいる列の本をとった。
貸し出しカウンター当番ではない日に図書室に来るのは何故か。 本が好きなのかそれとも、手紙が……………
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次いつ会えるかわからない。今こそチャンスなのだ。
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佐藤先輩を直視できない。 怖くて俯きながら小声で訊いた。
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あぁ…。やっぱ怪しまれた、笑
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かなり無理のある質問すぎる。
苦しい、苦しすぎる。
ほら、佐藤先輩も目を顰めてるよ…。
でも…、 『こころ』て答えて欲しい…。
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世の中うまくいかない。 佐藤先輩は嫌悪オーラたっぷりと出しながら眼鏡をあげた。
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眉間に皺を寄せた先輩はついに私の言葉を無視して去っていった。
仕方ないが突っぱねられたのはショックだ。
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コメント
7件
佐藤くん気になります!!!! めっちゃ面白くて大好きです!続き待ってます!!!!