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2019/06/20
あの日から、リンは僕の部屋にいる。 彼女の小さな存在は 狭い空間に今までなかった温かさをもたらした。 言葉少なげな彼女との時間は 静かで どこか満たされていた。 僕は、彼女の好きな絵本を何度も読み聞かせ 簡単な食事を作り 隣でただ彼女が遊ぶ様子を眺めていた。 リンは、僕の目をじっと見つめることがある。 その瞳の奥には、まだ幼さの残る無垢さと 時折見せる陰りのようなものが共存している。 彼女が何を見て、何を感じてきたのか 想像することしかできない。 ただ その小さな身体が背負ってきたであろう重さに、胸が締め付けられるような思いがする。 僕の部屋でのリンとの触れ合いは、ごく自然なものだった。 絵本を一緒に見るとき、遊んでいるとき、眠るとき。 まるで朝露が薄いヴェールをそっと濡らすように微かで、けれど確かに存在を主張していた。 無垢な白に広がる淡い色は まだ何も知らない世界への扉が 静かに ほんの少しだけ 開かれたことを示唆しているようだった。 それは 熟れていない果実が 内側からそっと蜜を滲ませ始めた そんな微かな変化にも似ていた。