先程から念頭にあった疑問を投げる。
保安官
ここには色んな国の書物があるんですよね?
書士官
大体の国の言語書物は揃ってると思うよ!
保安官
『英語』と呼ばれる言語の書物はありませんか?
書士官
保安官
書士官
目線を色んな方向に向けながら復唱し 片手で鼻の下に指を添えて考えている書士官が口を開いた。
書士官
保安官
やはり…先程の2人同様書士官もそれらの言語は知らないようだった。 それ故に、ますますカミサマ?の奴が 私に何をしたか気になって仕方がない…💢
カ●サマ
だーっとれ記憶の中の悪魔の手先💢💢
書士官
保安官
地下牢とかそういう?
「あ…」 そう言い残して書庫棚から1冊の厚手の読み物を取り出し… 私の前でそれを開いた。
ダンジョン… かつてこの世界に訪れた異邦の英傑達や、生前類まれなる功績を残した偉人が眠る墓所。
元々その多くは、単なる墓所として存在していたものの、100年単位の時間経過によって内部に発生した魔力が踏破困難なダンジョンと呼ばれる迷宮へと変貌するそうだ。
尚、その内部には構造不明な未知の品々も眠り…それらを持ち帰ることが…一流の戦士か否かでもあるとも記されている。
書士官
当時帝国の調査団に同伴した達人冒険者数名の証言を編纂したページです。
周囲は空気が氷結する程の災害級の魔力放出が起こる氷点下という気候にも関わらず
内部は溶岩の流れる川を始め、立ち入りに困難を極める灼熱の通路…
また、温暖地体に群生する植物や昆虫などが数多く存在する異常な空間が広がっていたと記録されています。
生憎、内部の調査は強力な炎属性の精霊による妨害を受けて深部へ到達する事は出来なかったものの
どの言語にも類似しない文体が使用された壁面の一部を持ち帰る事に成功しました。
ただ、形状の異質さから解析を試みた学者たちは匙を投げる程で、一説によると『神や悪魔の文字』だと黙されるそうです。
異質な形状に、神や悪魔の言葉。 先程英文を見せた際2人も困り果てた顔をしていたのを思い返す…
保安官
書士官
ただ…魔力によって形成された空間であると同時に、内部には強力な魔獣やモンスターが発生する為余程腕に自信がなければ立ち入ることは禁止されています。
現に、先代のハイネリウス陛下も精鋭部隊500名と共に国内のダンジョンを制覇するため出陣され…
戻られた時には500名の兵士がたった数人に満たない人数での生還となりました。
ご先代様も、ダンジョン内で遭遇した魔獣による深手を負っての生還です…
500人がたったの数人!? その言葉からも、ダンジョンと呼ばれる領域がいかに危険なのかが伝わってくる
保安官
戦場よりも苛烈ですね…
書士官
保安官
書士官
保安官
え、えぇと…!
ぐ、軍人だった父からそんな話を聞いて!!
書士官
なんだそういう事か!
でもその通り
生還率1割以下…
生き残れるのは100人に1人とも言われる程中は危険に満ち溢れてる。
だから間違っても中に行こうなんて思っちゃダメだよ?
保安官
エヘ、エヘヘヘ〜
というか500人が数人になって帰還…? その規模の部隊なら もっと速い段階で撤退する 判断下すものじゃないのか先代国王!? どんな意志で出陣したかは分からないが 普通そんなになる前に逃げるだろ!!
と思ったが… ここは客観的に かつ冷静に情報分析だ。
考えられる可能性は二つ
一つ目 その先代国王とやらが戦いのABCを知らない勇敢と書いて「バカ」と読ませるタイプの人間だった可能性。 この場合この国の軍事組織、つまりハイネリウス軍が戦術という概念をもたない、あるいは軽視 戦争においては力技(物量戦)で凌いできた疑いがあるということ…
二つ目 戦闘指揮は取れていたものの… それを上回る脅威によって壊滅的被害を被った可能性。 こっちの場合、強国の軍隊すら返り討ちにしてしまう何かがあるということ…
どっちだろう… カマをかけてみよう…
保安官
御先代様はあまり戦いに慣れてない人だったんでしょうか?
書士官
御先代陛下は魔人と呼ばれる恐ろしい敵を一人で撃ち倒す程勇敢な上に
御存命だった頃敵軍からは
『戦征公』と恐れられる程の名将だったよ!
保安官
戦いにおいて 異名を持つとは優れた戦士や名将の証… そんな指揮官が率いる部隊 弱いわけが無い… そんな部隊すらもダンジョンという領域は再起不能にする… 先程思い浮かべた2つの可能性、答えは後者だったようだ。
であれば興味本位で赴くなど自殺行為 出向くべきでは無い… その未知の領域 恐怖と共に興味は湧くが 王立書庫の書士官を記憶を持ってしても アルファベットを使用した言葉が この王国には無いということが 判明しただけでも儲けモノだ。
「グゥゥウ🌀!!」
書士官
保安官
昨日から何も食べてなかったからか 腹の虫に景気よく鳴かれてしまった。
使用人エレノア
使用人ミランダ
保安官
書士官さんもいかがですか?
書士官
さっき君の口から聞いた言語見つかるかもしれないからね。
保安官
お手伝いありがとうございました!
2人と書庫を後に 空腹を満たすべく 一度自室に戻る
その後、廊下で少しトラブルに苛まれる事となった…
書庫からの帰り道 何度も空腹を訴えるなき虫が 私の腹部の中で駄々をこねており… なる度に気恥しいモノを 堪えることになる。
保安官
使用人エレノア
ほらも〜少し
がーんばれ!がーんばれ!
使用人ミランダ
お部屋戻ったら急いで支度しましょう!
そうして廊下を歩いてると、反対側から3名の若手兵士たちが兜を脇に抱えた姿で歩いてきた。 身なりから察するに恐らく城内を守護する衛兵だろう… そのうちの一人が私を見ると奇妙なものを見るように眉をひそめてきた。
衛兵
なんでこんなところに子どもいるんだ?
誰かの娘とかか?
その声に他の2人が足を止めて私の方を見る。 その表情からは落胆を覚える物が読めた。
衛兵2
なら知らなくても仕方ないか…
衛兵3
『王国衛兵ーハイガードー』の間で時の人となってる転生英雄様のご登場だよ…
衛兵
ふざけろなんの冗談だそれ!
衛兵3
おいおい…!
本当でも言って良いことと悪いことあるぞ〜
衛兵
へへ…
保安官
身に覚えのある光景だ。 戦闘任務に参加する機会が少なく
他の兵士が戦地へ出向く中 訓練漬けになっていると あのように不平不満を口にしてしまう 兵士は一定数いる。
そんなやり取りにエレノアさんと ミランダさんが嫌なものを見る目で 兵士達を一瞥する。
使用人エレノア
感じ悪くない?
使用人ミランダ
気にしちゃダメよおチビちゃん
使用人エレノア
保安官
あいにく2人は兵士では無いから あの手の不満に共感する事は難しい。 「はい…」とは言ったが 私には彼等の苛立ちが痛い程解る… 「自分達も仲間のために戦いたい…」 士気が高いからこそ… 王城ほどの内地での警備任務というのは 合わない者には耐え難い苦痛となる。 「内地の護りが磐石だからこそ… 前線の味方は安心して目の前の敵と戦える」 若輩でその事に気づけないうちは 本当に心苦しい… 無論衛兵として選ばれる若手は一般兵よりも能力的に優れる… 特級の教育で衛兵としての気構えも学ぶが若手とは目に見える結果を求めだがる傾向がある。 そこで戦友が手柄を上げたなんて 話を聞かされた日には… 最早拷問以外の何者でもない…
脇をとおりすぎようとした時、彼等は一段と声を大きくしてきた。
衛兵
散々期待させといて、いざ飛んできたのがあんなガキとか…!
マクスウェル様もとんだ災難だよなぁ〜!
衛兵3
あのチビ城で面倒見るんだってよ
衛兵
なんだそれ!
城は孤児院じゃねぇぞ〜
衛兵2
見ろよあのドレス
これみよがしにあんな小綺麗な格好してらぁ〜
保安官
『熟練の将校が来ると聞いて 実際きたのは何の心得もない ただの老いぼれ…』 今の私は正しくこれ… 実力のある人材を求める現場にとって これ程邪魔な存在はない…
加えて、私は… カミサマと取引し… 自ら望んできた… だからこそ彼等の不平不満を 受け止める義務がある… 『反論してはいけない…』 これは私が甘んじて 受け入れるべき批難だ…
とうとう我慢の限界を迎え 肩を震わせたエレノアさんが…
使用人エレノア
あんた達さっきからなんなの!
使用人ミランダ
いい加減になさい馬鹿じゃないの!!!
そうするとひとりの兵士が 眉間に皺を寄せる
衛兵
いいか俺たちはな!
直後、私たちの後方から 白銀の鎧に身を包んだ人物が通り過ぎ 3人の兵士を拳で打ちのめしていく。 うち1人の胸倉を掴みながら 片腕で持ち上げた。
???
陛下のご意向に意見する気か…
純銀を思わせるホワイトシルバーのフルプレートメイルを身にまとい… 金の紋章が刻まれた黒いマントを背に流す… 体格は細身なのだろうが 立ち振る舞いは体幹を備えた者が 身につける出で立ちをしていた。
衛兵
衛兵2
リーンフリート騎士長!!
拳を食らって地面に転がる1人が 恐ろしいものに遭遇したように上ずった声を挙げた。
リーンフリート
転生者殿が城にご滞在されるというのは元より取り決められていたこと!
『期待外れだったからほっぽり出せ』等誇り高いハイガードにあるまじき愚言!
恥と知れ!!
保安官
一瞬、その横顔が見える… 同時に自らの目を疑った… リーンフリートと呼ばれた その青年騎士…
その顔がかつての私の部下である 保安隊の若手ジョンソンこと…
『ジョンソン・フォーチュナー』
そのものだったからだ…