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あれは、一昨年の夏のことだった。
僕が、一万人に一人かかるかかからないかの病におかされていたとき。
その時の僕は完全に自暴自棄になっていて、何事にもやる気がわかなかった。
ある日
燐
かなた
かなた
笑いながら頬をかく。
この人が、一ヶ月後に燐の彼氏となる、水戸かなただった。
燐
かなた
かなた
燐
かなた
そう言って握手を求める。
かなたの要望に応えながら、馴れ馴れしい人だな、と思っていた。
それから、僕たちは仲良くなる。
水戸かなた17歳。
もともと三中に通っており、今は私立の男子校に通う。
僕も、出身は三中だった。
ということは、先輩と後輩の関係に当たる。
かなた
かなた
燐
かなた
燐
かなた
かなた
燐
かなた
燐
他愛のないことで笑い合える。
今のこの関係が、とても好きだった。
だから、このほわほわとした気持ちが恋心だと気づいても、決して言わなかった。
言えば関係は崩れてしまうから。
自分が我慢してでも、ずっと一緒にいたかった。
しかし、そう簡単に進まない。
燐の病気は運良く治り、退院することになってしまった。
かなた
かなた
燐
かなた
かなた
燐
燐
燐
かなた
あ、断られた。
ほら、だから言いたくなかったんだよ。
だって、泣いてしまうじゃないか。
かなた
かなた
燐
かなた
かなたに手をとられる。
かなたの手は、暖かかった。
かなた
かなた
燐
燐
両想いだなんて思いもしてなかったから、あのときは本当にビックリした。
照れるなぁ、何て言いながら笑ったかなたを、僕は泣き笑いしながら見つめてたっけ。
この一年後、かなたは死ぬ。
病気が、急激に悪化して。
前日に、また明日ね、何て言っておきながら。
僕をおいて、死んだ。
燐
かなたなんて嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ!
かなたなんて…
燐
かなた
燐
かなたは僕のワガママに弱い。
僕に許してもらえるまで、僕と一緒にいればいいんだ。
絶対に、許してやらないけど。
燐がかなたと話している最中、突然、 床が揺れ始めた。
燐
多分震度4位はあっただろう。多分。
揺られてバランスを崩した棚が、燐めがけて倒れる。
かなた
かなたが手を伸ばすもすり抜け、燐は棚の下敷きになる。
燐
僕の背中を、思い切り棚が打ち付けた。
視界が霞む。
叫ぶかなたを最後に、完全に意識が途絶えた。
かなた
かなた
触れていたはずなのに。
今は何故か、触れることができない。
そうやって、彼女が死んでいく様を、眺めていればいいさ。
今のお前では、あまりにも無力すぎるからな。
りんご様の声が響く。
かなた
いくら叫んでも聞こえない。
…
聞こえないなら、大きくすればいいじゃないか。
かなた
かなた
俺、声だけには自信あったんだ。
叫ぶ度に地響きがひどくなる。
しばらくして、燐が選んだであろうシンプルなカーペットに、血が滲み出す。
かなた
が、
それとほぼ同時に、救急隊員の方々が入ってきた。
救急隊員A
救急隊員B
届いた。
俺の、声が。
俺には届かない、手が、燐に届いた。
かなた
かなた
今誰かが俺の顔を見ていたとすれば、情けないと笑うだろう。
けどそんなの、どうでもよかった。
今は、今は燐が助かったことだげ、十分だ。
そう、かなたが思った瞬間。
かなたの体は、見えなくなった。