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あれは、一昨年の夏のことだった。

僕が、一万人に一人かかるかかからないかの病におかされていたとき。

その時の僕は完全に自暴自棄になっていて、何事にもやる気がわかなかった。

ある日

あ…

かなた

あれ?ごめん、今ぶつかった?

かなた

あはは、俺、目、見えなくて…

笑いながら頬をかく。

この人が、一ヶ月後に燐の彼氏となる、水戸かなただった。

い、いえ、こちらこそすみません…

かなた

いやいや、そんなにかしこまらなくてもいいよ。

かなた

俺、水戸かなた。君は?

久瀬燐…

かなた

燐ちゃんか、よろしく!

そう言って握手を求める。

かなたの要望に応えながら、馴れ馴れしい人だな、と思っていた。

それから、僕たちは仲良くなる。

水戸かなた17歳。

もともと三中に通っており、今は私立の男子校に通う。

僕も、出身は三中だった。

ということは、先輩と後輩の関係に当たる。

かなた

え、燐ちゃんって俺の一個下なの?!

かなた

声が大人びてるから、大学生とかかと…

失礼ですね、僕はそんなに年食ってないです。

かなた

あはは、ごめんなぁ。

…あと、ちゃんは余計です。燐、で結構です。

かなた

あぁ、そう?じゃあ、燐だ。

かなた

俺のことも、かなたでいいよ。

先輩にため口を聞けと?

かなた

本人が許可しましたから。

では、かなた。

他愛のないことで笑い合える。

今のこの関係が、とても好きだった。

だから、このほわほわとした気持ちが恋心だと気づいても、決して言わなかった。

言えば関係は崩れてしまうから。

自分が我慢してでも、ずっと一緒にいたかった。

しかし、そう簡単に進まない。

燐の病気は運良く治り、退院することになってしまった。

かなた

燐、退院するんだって?

かなた

よかった、病気、なおったんだ。

…うん。

かなた

どうした?燐。

かなた

嬉しくなさそうだな。

…っ、だって…!

退院したら、かなたに、会えなくなっちゃう…!

かなたも、一緒に来てよぉ…

かなた

…ごめん、それは、無理だ。

あ、断られた。

ほら、だから言いたくなかったんだよ。

だって、泣いてしまうじゃないか。

かなた

燐。

かなた

こっち向いて?

やだ…

かなた

燐?

かなたに手をとられる。

かなたの手は、暖かかった。

かなた

好きです、久瀬燐さん。

かなた

だから、また、お見舞いに来てくれたりしますか…?

…っ!

はい…!

両想いだなんて思いもしてなかったから、あのときは本当にビックリした。

照れるなぁ、何て言いながら笑ったかなたを、僕は泣き笑いしながら見つめてたっけ。

この一年後、かなたは死ぬ。

病気が、急激に悪化して。

前日に、また明日ね、何て言っておきながら。

僕をおいて、死んだ。

…何で…

かなたなんて嫌いだ。

嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ!

かなたなんて…

僕はまだ、許してないからね。

かなた

ごめんな、燐。

ダメ。許さない。

かなたは僕のワガママに弱い。

僕に許してもらえるまで、僕と一緒にいればいいんだ。

絶対に、許してやらないけど。

燐がかなたと話している最中、突然、 床が揺れ始めた。

えっ、ちょっと、地震?!

多分震度4位はあっただろう。多分。

揺られてバランスを崩した棚が、燐めがけて倒れる。

かなた

燐!!!

かなたが手を伸ばすもすり抜け、燐は棚の下敷きになる。

い…

僕の背中を、思い切り棚が打ち付けた。

視界が霞む。

叫ぶかなたを最後に、完全に意識が途絶えた。

かなた

燐っ、燐、燐!

かなた

なんで…!

触れていたはずなのに。

今は何故か、触れることができない。

そうやって、彼女が死んでいく様を、眺めていればいいさ。

今のお前では、あまりにも無力すぎるからな。

りんご様の声が響く。

かなた

燐、死なないで…!

いくら叫んでも聞こえない。

聞こえないなら、大きくすればいいじゃないか。

かなた

う、うぁあぁぁあああぁあぁぁあ!

かなた

誰かぁぁぁああああああぁ!

俺、声だけには自信あったんだ。

叫ぶ度に地響きがひどくなる。

しばらくして、燐が選んだであろうシンプルなカーペットに、血が滲み出す。

かなた

まずい…っ!

が、

それとほぼ同時に、救急隊員の方々が入ってきた。

救急隊員A

君、大丈夫?!

救急隊員B

まずい、意識がないぞ!早く棚をどけろ!

届いた。

俺の、声が。

俺には届かない、手が、燐に届いた。

かなた

かなた

ありがとうっ…!

今誰かが俺の顔を見ていたとすれば、情けないと笑うだろう。

けどそんなの、どうでもよかった。

今は、今は燐が助かったことだげ、十分だ。

そう、かなたが思った瞬間。

かなたの体は、見えなくなった。

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