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こはく
218
#星野アイ
き ゆ
32
#🐢投稿
もにもに🌀🫧
448
531
昼休み。 一年生の教室は、いつも通り賑やかだった。 けれど、その喧騒の中で、物怪瑠衣はひとり机に伏せていた。
瑠衣
気持ちが悪い。 朝からずっと、胃のあたりが落ち着かなかった。 原因は分かっている。 ここ最近、同じクラスの数人から嫌がらせを受けていた。 最初は些細なことだった。 机の中の教科書がなくなる。 聞こえるように悪口を言われる。 わざと肩をぶつけられる。 それだけなら、我慢できると思っていた。 けれど、日を追うごとに状況は悪くなっていった。 誰かに相談すればいい。 そう思うことは何度もあった。 でも、もし相談したことが知られたら。 今よりもっと酷くなるかもしれない。 そう考えると、誰にも言い出せなかった。
瑠衣
喉の奥がひくりと動く。 瑠衣はゆっくりと顔を上げた。
瑠衣
誰に聞かせるでもなく呟き、机に手をついて立ち上がる。 足元が少しふらついた。 けれど、気のせいだと思うことにした。 今はとにかく、この気持ち悪さをどうにかしたかった。 廊下に出て、保健室を目指す。 一歩進むたびに、吐き気が込み上げてくる。
早く。 早く着いて。 そう願いながら、ようやく保健室の前にたどり着いた。 その瞬間だった。
瑠衣
耐えきれなかった。 入口の前で吐いてしまう。
瑠衣
苦しい。 目の前がぐらぐらと揺れていた。 そのとき。
仁
低い声がした。 びくりと肩が跳ねる。 保健室の扉から出てきたのは、ひとりの男子生徒だった。 青い髪に鋭い目つき。 制服の袖には、保健委員の腕章がついている。 二年生の司波仁。 無口で無愛想。冷たいことで有名な先輩だ。 瑠衣も名前だけは知っていた。 そして、その仁のブレザーの裾が汚れてしまっていた。
瑠衣
瑠衣の顔から血の気が引く。
瑠衣
慌てて頭を下げる。
瑠衣
どうしよう。 どうしよう。 よりによって、この人に。 絶対に怒られる。 嫌な顔をされる。 そう思うと、余計に息が詰まった。
瑠衣
仁
瑠衣
仁
瑠衣
思わず顔を上げた。 仁は眉ひとつ動かしていなかった。 怒っているようにも見えない。 ただ、瑠衣の顔をじっと見ている。
仁
瑠衣
仁
その問いかけに、瑠衣は答えようとした。
瑠衣
一歩、足を動かす。 けれど。 視界が大きく揺れた。
瑠衣
身体が傾く。 床が近づいてくる。 倒れる。 そう思った瞬間、腕を掴まれた。
仁
仁だった。
瑠衣
仁
静かな声。 仁は瑠衣の身体を支えながら、ゆっくりとその場にしゃがませた。
仁
瑠衣
仁
瑠衣
仁
瑠衣
仁
瑠衣
仁
仁
知っている。 そう言いたかったけれど、声が出なかった。 仁は保健室の先生を呼びに行き、瑠衣が倒れないようにそばで支えていた。 やがて先生が戻ってくると、仁は手際よく状況を説明した。
仁
保健医
先生に支えられながら、瑠衣は保健室のベッドへ移動した。 仁は汚れた袖を気にする様子もなく、入口の片付けを始めている。
保健医
仁
保健医
仁
淡々とした声だった。 瑠衣はベッドの上から、その背中を見つめていた。 どうして。 どうして怒らないんだろう。 あんなに汚してしまったのに。
瑠衣
小さく声をかける。 仁が振り返った。
仁
瑠衣
仁
瑠衣
仁は少しだけ目を細めた。
仁
瑠衣
仁
瑠衣は言葉を失った。 仁はそれ以上何も言わず、先生に呼ばれて保健室を出ていった。 ……と思ったら、数分後。 仁が戻ってきた。 手には新しいタオルと水がある。
仁
瑠衣
仁
瑠衣
瑠衣がタオルを受け取ると、仁は近くの椅子に腰を下ろした。
瑠衣
仁
瑠衣
仁
あまりにも自然に言われて、瑠衣は目を丸くした。
瑠衣
仁
瑠衣
少しだけ迷ってから、瑠衣は口を開いた。
瑠衣
仁
瑠衣
仁
そっけない返事。 けれど、怒っているわけではなさそうだった。 瑠衣は小さく笑った。
瑠衣
仁は返事をしなかった。 ただ、瑠衣の顔色をもう一度確認してから、静かに言った。
仁
瑠衣
仁
瑠衣
その日の帰り際。 先生に付き添われて教室へ戻る前、瑠衣は保健室の入口を振り返った。 そこには、先ほどと同じように書類を整理している仁の姿があった。
瑠衣
仁が顔を上げる。
瑠衣
仁
瑠衣
仁
たったそれだけ。 それだけなのに。 瑠衣は、少しだけ笑った。 まだ、学校が怖いことに変わりはない。 明日もきっと、嫌なことがある。 それでも。 もう一度、あの人に会いたい。 そう思った。 このときの瑠衣は、まだ知らない。 あの日、汚れた制服の袖を気にすることなく差し伸べられた手が。 いつか自分にとって、何よりも大切なものになることを。 ―――まだ、知らない。
Yellow Geranium −予期せぬ出会い−
コメント
1件
いやあ、もう、じんわり沁みました……。 保健室の前で吐いちゃう瑠衣さん、本当にしんどそうで胸が締め付けられました。そんな時に出てきた仁くんの「謝らなくていい」「服は洗えば済む」って言葉、何気ないけどすごく温かかったです。無愛想だけど、ちゃんと相手の体調を優先するところ、理想の保健委員すぎる。 最後に「もう一度、あの人に会いたい」と思えるようになった瑠衣さんの気持ち、分かりますよ。あの差し伸べられた手が、いつか大切なものになる予感……続きが気になります!