テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
テントの外では 爽が火の番をしていた
焚き火の炎が風に揺られ ゆらりと身をくねらせる
─────パチッ
木が爆ぜた音が、静寂の中に溶けていく
火の粉が、空へ、空へ……
─────まるで 小さな祈りのように舞い上がって、消えた
俺はテントの幕をそっとめくり 一歩、踏み出す
─────パキッ
足元の木の枝が小さく鳴った、その瞬間
焚き火の向こうで 爽がはっと、顔を上げた
視線が重なる
一泊の間を置いて 爽の瞳に安堵の色がぱっと滲んだ
声にならない声を押し殺しながら 爽は勢い良く立ち上がり駆け寄ると────
─────ぎゅうっ
引きちぎられそうな程 強く、強く抱き締められた
苦しくなるほどの温度…
胸に、腕に、背に… 爽の震えが伝わってきた
湿った音が耳元で落ちる
じわり、と 腰周りの布地が温かく濡れていく
その腕に、更に力が籠る
………罪悪と、ちょっとの幸福
心配をかけて 涙を流させてしまった“罪悪感”と…
こんなにも 自身を想ってくれる存在がいるという
胸の奥に広がる、優しい幸福感…
この世界に、まだ“温もり”がある事を 俺は確かに感じていた
爽の肩が、震えている
─────でも 俺にしがみつく腕は、離れない
……むしろ、もっと強く…………
解けそうな不安を 必死に縫い止めようとしていた
俺は、何も言わずにその背を抱き返した
ゆっくりと、優しく …だけど逃がさないように……
火の粉がまた、空へ舞う
冷たい夜気の中で
その熱だけが 確かに俺たちを包んでいた
言葉は要らなかった
息遣いと、体温と、震えと 滲んでいく涙が───全てを語ってくれる
……俺は、まだ 誰かの為に生きていていいのかもしれない
─────そんな想いが ふっと心を揺らした
焚き火の灯りが 俺たちの影をそっと重ねて
その夜は、静かに続いていった
─────そういえば…
村に預けたあの2人…… どこかで……