岬
次はシャツのボタン、閉めて
努
うん
岬
遅い。もっと早く
努
ご、ごめん…
岬
じゃあ、次はネクタイも
努
分かった
カーテンの閉まった薄暗い部屋
男の学生服を着た男女が向かい合っている
努
そんなにじっと見られたら緊張する
岬
努に拒否する権利はないよね?
努
うん
努
べつに、嫌なわけではないから
努
できたよ
岬
上手。やっぱり努はネクタイ結びが上手い
努
岬ちゃんは制服がよく似合うね
岬
男物なのに?
努
うん。格好いい
岬
そんなこと言うの、努だけだよ
岬
好きだからズボンを履いて
岬
髪を短くして、男の格好をする
岬
みんな私が女っぽくしてないことに不満なんだって
岬
なんでだろうね
努
それは、岬ちゃんが綺麗だからだよ
努
みんな羨ましいんだよ
岬
ふふ。そうかもね
岬
私がいかにも女の子って顔してるのに
岬
男の子の格好をしてるから
岬
みんな、私を自分の思うように従わせたいんだ
努
でもそんなの、岬ちゃんは納得しないもんね
努
岬ちゃんは支配する側だから
岬
そうだよ
岬
だから努
努
何?
岬
靴下、履かせて
努
もちろんだよ
努
僕は岬ちゃんに支配されることが嬉しい
岬
変な幼馴染
努
お互い様でしょ
岬
努、こっちに来て
努
うん?ん──!?
岬は努のネクタイを引っ張ると
そのまま強引にキスをした
岬
ご褒美
努
嬉しいよ。ありがとう
岬
(嬉しそうな顔…)
岬
(でもごめんね、努)
岬
(努に制服を着せてもらうこの主従関係)
岬
(正直私は、この関係にどこか飽きを感じてるんだ)
担任
ちょっと岬、こっちに来い
岬
なんですか
担任
この間も注意したよな
担任
ちゃんとスカートを履いてきなさい
岬
私、校則はやぶっていません
岬
スカートとズボン
岬
どっちを選ぼうと自由なはずですけど
担任
確かに校則はそうかもしれんが
担任
私が担任になった以上、それはダメだ
岬
なんでですか?
担任
なんでって…
担任
君が1人そういうことをするだけで
担任
ほかの人が真似てきたら…
岬
別に問題ないと思いますが
岬
自由なんですし
担任
だから世間的に…!
岬
失礼しまーす
担任
あ、こら!
友達
また担任に注意されてたの?
岬
まーね
友達
私もやっぱりもったいないと思うけどな
友達
岬はスカートを履くべきだよ
岬
またその話?
岬
別にいいじゃん
岬
私は好きでこの格好してるんだし
友達
でもせっかく綺麗な顔なんだからさ
岬
(顔とか関係ないじゃん)
岬
(私は自分の気持ちに素直でいることが大事なんだから)
岬
ごめん、私用事あるから
岬
先に帰るね
友達
あ、岬!
同級生
何あの態度。いい気になって
同級生
輪を乱してることに無自覚だよね
同級生
先生や先輩にも目をつけられてるのに
友達
まー、それが岬だからね
友達
でも本当に問題なのは
友達
それでも岬を慕っている後輩がいるってこと
友達
男子にも人気があるのは確かだし
同級生
みんな見た目が大事ってことだね
後輩A
あ、岬先輩だ!
後輩A
今日もカッコイイなぁ
後輩B
うんうん
後輩B
でも私はどちらかというと
後輩B
可愛いって言葉のほうが合うと思う
後輩A
あー、その意見も分かるかも
岬
(ああやって思ってくれる子もいる)
岬
(みんながそうなればいいのに)
岬
(いちいち人のこと口出ししてさ)
岬
(私をどうしたいって言うの)
慶一郎
ねえ
岬
え?
上履きから靴に履き替えていると
岬の前に1人の男子生徒が現れた
慶一郎
ちょっと時間ある?
岬
あなた、誰?
慶一郎
3年の慶一郎
岬
先輩ですか。で、何でしょう?
慶一郎
ちょっとここじゃ気まずいから
慶一郎
人が少ないところに行きたい
慶一郎
来て
岬
(何この人。やけに自信満々)
岬
(努とは正反対だな)
岬
話って何ですか?
慶一郎
単刀直入にいう
慶一郎
俺と付き合ってよ
岬
無理
慶一郎
そんな、秒で振らなくても
岬
だって私、あなたのこと知らないし
慶一郎
そんなの、これから知っていけばいいだろ?
岬
そんなの必要ない
慶一郎
待てって
岬
放し…!!
立ち去ろうとする岬の腕をつかんで
そのまま強引にキスをした
岬
何すんのっ!
慶一郎
俺は君を絶対に手に入れる
岬
放せっ…
岬
(振りほどけない)
岬
(これが男の人の力?)
慶一郎
男の格好をしていても
慶一郎
お前はただの女だってことだ
岬
私は別に、自分が女だということを
岬
否定したことなんてない
岬
自分が女性なのは知ってます
慶一郎
なら、俺に従え
岬
ふざけっ…
再びされる、強引なキス
どうあがいても、岬の力では慶一郎には敵わなかった
岬
(どうしてだろう…)
岬
(私、ずっと支配されるのは嫌だったはずなのに)
岬
(この強引さにどこか惹かれてる)
岬
(最近努との関係に飽きを感じていたのは)
岬
(こういう強引さだったのかも)
慶一郎
お前は俺のものだ
岬
…は、い
見つめ合う2人
その光景を陰から眺めている
1人の男の子がいた
努
…………