古瀬 明莉
しょうへいくん、事件よ!!
事務所のドアを勢いよく開けたのは、探偵・古瀬明莉。
ポニーテールを揺らしながら、カバンを放り投げ、デスクに突進してきた。
井倉 渉平
…またコンビニでプリンが消えたとか、そういう事件ですか?
助手の井倉渉平は書類に目を通しながら、慣れたように冷静に言った。
古瀬 明莉
違うわよ。今回はガチの事件!とある高校の屋根で“幽霊が出る”って話!
井倉 渉平
幽霊…?
古瀬 明莉
そう!しかもその幽霊、“プリンが好きだった女生徒の霊”なんだって!
井倉 渉平
やっぱプリン絡んでるんじゃないですか
明莉と渉平は、依頼主である女子高生・上澤真帆に案内され、問題の高校へと向かった。
上澤 真帆
夜になると、屋上の柵の向こう側に女の子が立ってて…それで、泣いてるんです。“プリンが…プリンが…”って…
古瀬 明莉
その幽霊、わたしと気が合いそうね…
と明莉。
井倉 渉平
やめてください。あんまり感情移入しないでください
調査は夜に行われた。校舎の裏口からこっそり入り、屋上へと向かう。
古瀬 明莉
うう…怖いねぇ、しょうへいくん…ほら、手、握っていい?
井倉 渉平
いやです
風が吹き抜ける屋上。明莉が懐中電灯を照らすと、柵の向こうに確かに誰かの影が──
古瀬 明莉
し、しょうへいくん…あれ…
その時、影がこちらを振り向いた。
古瀬 明莉
うわあああああああ!!
明莉が叫んで後ずさり、渉平に突っ込んで二人で盛大に転んだ。
井倉 渉平
落ち着いてくださいってば!あれ、生きてますよ!
結果から言うと、幽霊の正体は生徒会長の山宮さんだった。
彼女は、亡くなった親友が好きだったプリンを毎晩供えに来ていたのだ。
山宮 久美
友達、病気で入院してて…卒業前に一緒にプリン食べようって約束してたんです…
古瀬 明莉
…そっか。だから、“プリンが”って…
明莉はそっとポケットから、自分の買い置きのプリンを差し出した。
古瀬 明莉
これ、よかったら一緒に食べない?
その夜、明莉・渉平・上澤・山宮の4人は、屋上で静かにプリンを食べた。
井倉 渉平
明莉さん、なんで事件の真相わかったんですか?
古瀬 明莉
ふふん、女の勘よ!
井倉 渉平
絶対ちがうでしょ
古瀬 明莉
プリンの匂いがしたのよ!そこに気づけるかが名探偵かどうかの分かれ目なの!
井倉 渉平
いや、名探偵だったらまず霊だって思わないでしょ…
古瀬 明莉
なにそれ、ひどい!じゃあ、しょうへいくんがやればいいじゃない!
井倉 渉平
じゃあ助手の交代を希望します
古瀬 明莉
やーだー!絶対やだー!!
月夜の屋上で、プリンの甘い匂いが優しく香った。
それは、ちょっとヘンテコな探偵と助手の、小さな優しい事件の結末だった。






