───翌日、仕事終わり。
太宰治
お待たせ
波紅〇〇
全然待ってないよ
正面玄関の隅っこで太宰さんを待つと、 数分してやって来る。
時刻は夜中の十二時半。
波紅〇〇
遅くなっちゃったね
太宰治
まあ良いじゃないか、之は之で
太宰治
私は夜が好きなんだ
波紅〇〇
そうなの?
太宰治
あぁ
太宰治
マフィアの時間だ、其れに───
「人目につかず君に逢える」
波紅〇〇
!
柔らかく細められた左目に吸い込まれそうになる。
呆然と紅茶色の瞳を見ていると 太宰さんは私の手を引いて進んだ。
太宰治
今日はね、夜景を見ようと思って
波紅〇〇
夜景?
太宰治
何時もバーじゃ変わり映えしないだろう?
太宰治
偶には、ね
波紅〇〇
私はバーで太宰さんと飲むのも好き
太宰治
でも君、彼等の話をしては泣いてばかりだろう
波紅〇〇
其れは…ごめん
太宰治
はは、善いんだよ
ゆったりとヨコハマの街を太宰さんの隣で歩く。
夜のポートマフィア本部ビル付近は、 人通りが少なくて良い。
波紅〇〇
そういえば私と会う時何時も歩きだよね
波紅〇〇
云えば車が出るんじゃ?
太宰治
君は車が良い?
波紅〇〇
いや、私自身歩くのは好きなんだけど
波紅〇〇
理由があるのかなって
太宰治
そうだねぇ…
太宰治
君と二人きりが好いからかな
波紅〇〇
え、?
太宰治
君との時間を他の誰にも邪魔されたくないんだ
太宰治
誰にも
そう繰り返す太宰さんの瞳には、 光が無いように見えた。
今日の太宰さんは、何だか何時もより甘ったるい。