ニセ家族

これは、小学生の俺の弟が体験した話

弟はその日、学校が終わって1度家に帰ってから

仲の良い友達と一緒に近くの公園で遊ぶことにした

夕方になってかくれんぼをしていたら

珍しいことに、

父、母、俺

の家族全員が揃ってその公園まで迎えに来た

それが弟は結構嬉しかったらしく

かくれんぼを途中で切り上げて

友達に一声かけて俺らと一緒に家に帰った

家に着いて宿題を始めると、

これまた珍しく俺が弟の宿題を見てやった

宿題をやってる間も

ゲームの話とか学校の話とかで盛り上がったりして

機嫌の良い俺はずっと弟のそばに居た

やがて夕食の時間がきて

母が一階のダイニングから声を張り上げた

俺たちは二階の部屋だったので、

大声で返事して下に降りた

なんでもない日なのに夕食はご馳走で

弟が大好きなハンバーグとかが並んでいた

さらに、普段無口で厳しい父が

とか言ってたりして

弟にかなり気を配っていた

そんな中、いつも見てるアニメの時間になり

弟がテレビを付けた

すると、なぜかそのチャンネルは砂嵐で

他のチャンネルに変えても全部ザーザー言うばかりだった

すると突然母がリモコンを取り上げて、

テレビを消した

その顔がニコニコしてたので

ちょっと不気味だった

夕食も終わると

なぜか3人ともニコニコしながら

とそれぞれ弟にとって魅力的な提案をしたんだが

そこで弟はイタズラを考えた

俺の弟は、

優しくされるとイジワルしたくなる

とかいう悪ガキで

トイレに行ってくると言って帰ってこないという

まぁ弟らしい発想だった

ウチのトイレは鍵を掛けるとノブが動かなくなるという仕組みで

ドアを開けたまま鍵を掛けてそのまま閉めると

トイレが開かずの間になってしまうのだ

この家に越してきたばかりは弟がよくイタズラして

頻繁に10円玉を鍵穴に突っ込んで開けるという事がよくあった

で、弟はその方法でトイレの鍵を閉めて開かずの間にし

自分は物陰に隠れて

呼びに来た家族を脅かそうとしていた

らしい…

｢らしい｣っていうのは

実は弟は公園で友達と別れた後、

行方が分からなくなっていたのだ

弟はかくれんぼ中に突然帰ると言ってさっさと帰ってしまったので

誰かが迎えに来たかどうかは誰も見てなかったらしい

日が暮れてもなんの連絡もない弟を俺たちは心配して

警察に捜索願を出して

町内のスピーカーでも呼び掛けてもらった

父親は弟の友達の家に電話を掛けてたけど

あんな取り乱した父親は初めて見たし

母親なんかは早々泣き崩れていた

俺はというと

弟が遊んでいたという公園の周りで聞き込みをして探し回っていた

まじで終わったかと思った…

一方弟は、

トイレの近くの物陰に隠れている時に

自分を探しているという町内放送を聞いたようだ

自分は今家族と一緒に家に居るのに

なんで自分が探されて居るんだろうか

何がなんだかわからず困惑していると

突然ダイニングの扉が勢いよく開かれて

3人がぞろぞろとトイレの前に歩いてきて

またさっきみたいに

と声を掛けた

そのトーンがさっきと全く同じだったらしく

弟はただならぬものを感じてその様子をこっそり見ていた

すると3人はまた、

と言いながら

トイレのノブをガチャガチャ言わせ初め

そのうちドアを叩き初めて

ついにはドアをぶち破りそうな勢いのすごい音が鳴り響いた

弟はもうそこでガクブルで

見つかったら殺されると思ったらしい

しばらくすごい音が響き続けると

ついにドアが破られてしまい

嫌な静寂が流れた

やがて、その家族っぽい奴等どもはまた

と繰り返しながら二階の俺たちの部屋に上がって行った

弟は逃げ出すならここしかないと思い

物陰から飛び出して靴も履かずに全力疾走で家を飛び出た

無我夢中で走って着いた先は

さっきかくれんぼをしていた公園だった

公園にはまだパトカーが止まっており

聞き込みをしていた警察官に泣きついたらしい

その連絡を受けて

近くにいた俺が駆けつけ

無事に弟は見つかった

その時に弟が警察に話した内容をこうしてまとめている訳だが

当然警察は信じないし

別に弟は見つかったし

プチ家出として片付けられてしまった

だが、それから家に帰ってくるなり

真剣な顔でテレビのチャンネルを回し始める弟を見ると

とてもでまかせとは思えない…