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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

屋上の扉を開くと、フェンスの向こう側に由佳里は立っていた

上原 勇也

───平澤!!

由佳里

由佳里

上原くん…

上原 勇也

頼む!

上原 勇也

やめてくれ…っ!

由佳里

………

上原 勇也

ごめん…ごめんっ…平澤

上原 勇也

俺は…お前のことを助けてやれなかった

上原 勇也

お前が、こんなことをしてしまうまで、俺はっ…!!

上原 勇也

だから…だから…っ

上原 勇也

最後ぐらい、俺にお前を助けさせてくれよ!!!

上原 勇也

お願いだから…平澤…っ!!

涙が溢れ出る

由佳里

……ダメだよ、上原くん

上原 勇也

…え?

由佳里

ワタシの手を見て…

由佳里

穢れと、血で染まったこの手を…

上原 勇也

あ…!

由佳里

ワタシは…もう戻れない

由佳里

ワタシにはもう、失うものなんて何もないから

冷たくなった風が、由佳里の髪をすくいあげて過ぎ去っていった

上原 勇也

…そんなことない

上原 勇也

俺がいる

上原 勇也

俺が、お前をそこから助け出して、お前のために生きる

上原 勇也

だから平澤、お前も…

上原 勇也

俺のために生きてくれ…!!

由佳里

………

上原 勇也

俺、学校辞めて働くから!

上原 勇也

どこか、二人で人里離れた地で自給自足生活したっていい!

上原 勇也

なんにしても、生きてはいける!!

上原 勇也

だから、お願いだ…

上原 勇也

死なないでくれっ…!!

由佳里

………

フェンスの向こう側で、由佳里は勇也を振り返った

平澤 由佳里

ありがとう…上原くん

上原 勇也

平澤…!!

平澤 由佳里

不思議だね…

平澤 由佳里

あなたの言葉で、こんなにも心が満たされていく…

上原 勇也

平澤…早く、こっちに──

平澤 由佳里

でもね、やっぱり上原くんは間違ってるよ

上原 勇也

なん…で…

平澤 由佳里

私に、生きる希望を持たせるなんて…

平澤 由佳里

そんなの、許さないっ…

由佳里の頬を、一粒の涙が伝い落ちた

平澤 由佳里

だからね…

平澤 由佳里

これは…罰なの

上原 勇也

ひら…さわ…

勇也が最後に目にしたのは

哀しく微笑む、由佳里の笑顔だった

上原 勇也

やめろぉ───っ!!!

地面を踏み蹴り、由佳里は体を投げ出した

上原 勇也

うわぁぁぁぁ───っ!!!

…グシャアッ!!

上原 勇也

あ…

上原 勇也

あああ…あっあああっ…!!

上原 勇也

これが…

上原 勇也

これがっ…俺への罰だってのか…っ?!

上原 勇也

なぁっ…平澤ぁっ…!!

上原 勇也

どうしてだよ…

上原 勇也

どうしてなんだよぉぉっ…!!!

8年後

生徒たち

ザワザワ…ガヤガヤ…

女子生徒

あーっ!

女子生徒

おっはよー!先生っ!!

女子生徒

先生、おはよーっ!!

 

おっ、おはよ!

 

今日も元気だなー!お前ら!

女子生徒

もっちろん!

女子生徒

先生がこの学校に赴任してきてから、すっごく学校内が明るくなったんだもんねー!

 

そっか!

 

嬉しいこと言ってくれるじゃないかーっ(笑)

樋口

………

 

あっ、樋口…

 

おはよう!樋口!!

樋口

あっ…

樋口

あの…おはようございますっ…

 

来てくれたんだな、樋口

樋口

…はい

女子生徒

樋口さんが学校に来るなんて、本当にすごいよね

女子生徒

…そうだよね

女子生徒

いじめを受けて、長い間登校拒否してた樋口さんが…ね

女子生徒

きっと、先生のおかげだよね

女子生徒

だって先生、毎日樋口さんの家に通っては説得してたみたいだし…

女子生徒

それに樋口さんをいじめてた人たちも、先生の熱血ぶりにとうとう負けちゃったみたいだしね(笑)

女子生徒

本当、こんな先生って初めてだよね!

女子生徒

うん、不思議な人だよね…

女子生徒

上原先生って…

杉浦 祥子

こんにちは、上原先生

上原 勇也

あ…

上原 勇也

杉浦先生も、ここでお昼ですか?

杉浦 祥子

ええ

杉浦 祥子

いつも上原先生が眺めてるこの屋上の景色を、私も眺めたくて…

勇也はフッと笑って言った

上原 勇也

…そんな、いい景色なんかじゃないですよ

杉浦 祥子

杉浦 祥子

上原先生がこの学校に赴任して以来、なんだか生徒たちの雰囲気も明るくなったんですよ

杉浦 祥子

名前が変わる前のこの学校は…

杉浦 祥子

イジメが横行していて、中には自殺した生徒もいたって話でしたから…

杉浦 祥子

それに…外部から侵入した強盗が、一晩でひとクラスの生徒全員を惨殺した事件…

杉浦 祥子

8年経った今でも、犯人は捕まってないんですよね

上原 勇也

………

杉浦 祥子

そんな学校がこうして生まれ変わることができたのも…

杉浦 祥子

きっと、上原先生の力なんだって思うんですよね…私

上原 勇也

………

上原 勇也

俺に、そんな力なんてありませんよ

上原 勇也

俺はただ…

上原 勇也

やり遂げられなかったことを、今度こそやり遂げたいんです

杉浦 祥子

やり遂げられなかったこと…?

上原 勇也

ええ

上原 勇也

俺が高校生の頃、同じクラスに一人の優しい女の子がいたんです

上原 勇也

その子は、イジメに対して果敢に立ち向かった…

上原 勇也

自分の、正しい選択を信じて…

上原 勇也

そんな強い彼女のこと、俺は今でも尊敬してるんです

杉浦 祥子

…それが、今の恋人だったりするんですか…?

上原 勇也

…そうだといいんですけどねぇ

上原 勇也

俺、こっぴどくフラれちゃいましたから!(笑)

杉浦 祥子

やり遂げられなかったことって、それですか(笑)

杉浦 祥子

でも、本当に上原先生ってすごいですよ

杉浦 祥子

今の時代、社会問題の一部であるイジメに関して…

杉浦 祥子

学校内での問題解決はもちろん、個人でセミナー講師や、イジメを無くすための署名活動までされてるんですもの

杉浦 祥子

誰でもできることじゃないですよ…

上原 勇也

そんな…

杉浦 祥子

それに…私、噂で耳にしちゃったんですけど

杉浦 祥子

上原先生のお父さんは失職したのを苦にして自死されて…

杉浦 祥子

お母さんは、何年も前から行方知れず…なんですよね…

上原 勇也

………

杉浦 祥子

そんな壮絶な過去があるのに、教員を志してその夢を叶えてみせた上原先生のこと…

杉浦 祥子

私は、すごく尊敬します

上原 勇也

杉浦先生…

杉浦 祥子

あっ…すみません!

杉浦 祥子

ご両親のことまで、出過ぎたことを言ってしまって…!

上原 勇也

…いえ、いいんですよ

上原 勇也

俺…

上原 勇也

この世界で、理不尽に誰かが傷つくことが許せないんです

上原 勇也

一人一人が、自分の意思で正しい選択をして…

上原 勇也

『生きててよかった』って…

上原 勇也

そう思える、そんな社会を作り上げていく人間の中の一人になれたらいいな…って思うんですよ

杉浦 祥子

杉浦 祥子

ねぇ、上原先生…

上原 勇也

はい?

杉浦 祥子

あの惨殺事件の被害者の生徒の中に、一人だけ生存者がいたってニュースで見た記憶があるんです

杉浦 祥子

それで、私…思ったんです

杉浦 祥子

その生存者って、もしかして上原先生のことなんじゃないかな?って…

上原 勇也

………

杉浦 祥子

先生は1年生の時に中退したから無関係だって言ってましたけど…

上原 勇也

…気になります?

そう言って、ズイッと顔を祥子に近付けた

杉浦 祥子

(ドキッ)そ、それって…?

上原 勇也

それは…

上原 勇也

──秘密です

杉浦 祥子

ええっ?!

杉浦 祥子

ど、どういう意味なんです?!それって…

上原 勇也

…あははは!

勇也は笑って、空を見上げて太陽の光を眩しそうに見つめた

残された俺にできることは、今でも君から受けた罰を忘れないこと

そして君の意志を継ぎ、正しい選択をして生きていくこと

それが、最後に哀しく微笑んだ君の魂を、救ってやれる方法だと思うから…

END

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72

コメント

4

ユーザー

最後まで読んでくれてありがとうございました♡毎回くれるコメントも、すごく嬉しかったです(//∇//)実は最初はね、勇也くんにも裏切られてバッドエンドにする予定だったんですが、さすがに救いが無さすぎるのでやめましたw

ユーザー

めっちゃよかったです!

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