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チュンチュン..
暖炉の火は、もう落ち着いている。 残った熱だけが、部屋に薄く漂っていた。
叶多
叶多
叶多
消えそうなくらいか細い声で名前を口にする。
叶多
叶多
叶多
腕から、抜けようとした瞬間。
ぎゅっ
背中に、力がかかる。 強くはないが確かに引き戻された。
瑠伽
叶多
どくん.. どくん..
叶多
朝日がカーテンから2人を照らす。
叶多
叶多
叶多
叶多
叶多
瑠伽
低く、まだ眠りの膜をまとった声。 瑠伽がゆっくりと目を開け、腕の中の叶多を見る。その視線は問い詰めるでもなく、探るでもなく、ただそこに在ることを確かめるようだった。
瑠伽
そう言って、腕の力がほんの少しだけ緩んだ。 逃がすためじゃなく息がしやすいように..
叶多
叶多
瑠伽
コク コク..
瑠伽
瑠伽
ぎゅう..
瑠伽
叶多
瑠伽
あくびを大きくして体を伸ばしながら横を通り過ぎる瑠伽を横目に叶多はキッチンに立つと、少しだけ現実に戻された気がした。 ポットの湯気、カップに触れる指先の熱。 どれもいつもと同じはずなのに、胸の奥だけが追いついていない。
叶多
叶多
叶多
ポットを置き、ふと振り返る。 ベッドルームにも、リビングにも、瑠伽の姿がない。
叶多
手にはコーヒー2つ。 どこへ行ったら良いのかと迷った矢先。
🎻*¨*•.¸¸♪
空気を切り裂くような、細く澄んだ音。 窓の向こう、バルコニーの方からヴァイオリンの旋律が流れ込んでくる。
☕コト..
叶多はそっとカップを置き、バルコニーへ近づく。
🎻*¨*•.¸¸♪
そこには、背中を朝日に預けた瑠伽がいた。 シャツの隙間を抜ける風、弓を引く腕のしなやかさ。誰かに聴かせるためというより、自分を整えるための演奏だった。
叶多
瑠伽がふと振り返り、叶多に気付く。 演奏は終わり、弓を下ろして何も言わずに微笑む。
コテージでの思い出も去る事ながら、車は街外れで静かに止まった。 観光地でもない、ただの交差点。ここで降りる理由があるわけじゃない。ただ、ここが限界だった。
叶多
瑠伽は車を停めて叶多と向き合う。
瑠伽
瑠伽はポケットからスマホを取り出す。 何度も使われた形跡のない、軽すぎる端末。
瑠伽
叶多
瑠伽
お互い連絡先は知らなかったが、改めて言われると刺さるものがある。
瑠伽
叶多
瑠伽
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
胸の奥に残ったのは、待つと口にしてしまった自分と、来ると信じてしまった未来。 それが、こんなにも苦しいなんて、 この時はまだ知らなかった。
カランカラン..
叶多
待つ、という言葉は簡単だった。 口にした瞬間は、強い決意みたいに聞こえたのに。
コポコポコポ..
常連の顔、聞き慣れた注文、カップに落ちる音。
客
客
客
叶多
あの人は今、どこで息をしているんだろう。 朝はちゃんと食べているだろうか。 音を出しているだろうか..
叶多
夜、海の音を聞くと、あの日の最後のバルコニーの旋律が蘇る。 音が記憶になって、記憶が希望になって、 それでも時々、希望は刃物みたいに胸を刺す。
叶多
待つことは、信じ続けることじゃない。 疑いながら、それでも捨てないことだと..叶多はこの時間で知った。
事務所の会議室は、音が死ぬほど静かだった。 防音が効きすぎていて、ここではヴァイオリンを想像することすら場違いに感じる。
瑠伽
瑠伽は椅子に深く座らず、背筋を伸ばしたまま正面の机を見ていた。 向かいには、マネージャーと見覚えのない法務担当。全員がもう結論を知っている顔をしている。
瑠伽
瑠伽
一瞬だけ、誰かが息を吸う音がした。 引き留めの言葉は出てこない。 無断離脱の時点で、もう戻れないことは全員が理解している。
マネージャー
瑠伽は頷き、恐ろしいくらい落ち着いて話始める。
瑠伽
法務担当
瑠伽
マネージャー
法務担当
瑠伽
瑠伽
マネージャー
瑠伽
マネージャー
瑠伽
瑠伽
瑠伽
マネージャー
瑠伽
誰も、それ以上踏み込まなかった。
✍シュッ、シュッ..
瑠伽の要望と事務所の折り合いのつく訂正された書類にサインをするペンの音が、やけに大きく響く。 名前を書くたびに、世界からひとつずつ切り離されていく感覚。
瑠伽
最後のページにサインを終えた時、瑠伽は不思議と後悔をしていなかった。
マネージャー
瑠伽
夜はいつも、同じ音で始まる。 パソコンの起動音と、冷えた部屋の静けさ。
カチカチ.. カチ..カチ..
瑠伽は名前のないフォルダを開く。 日付だけが並ぶ、無機質な一覧。
瑠伽
事務所から渡された条件は明確だった。 匿名。 実績は残らない。 拍手も、名前を呼ばれることもない。
瑠伽
それでいいと思えたのは.. 叶多の顔が、はっきり浮かぶからだ。
🎻*¨*•.¸¸♪
ヴァイオリンを奏でる。誰に聴かせるでもない音。 それでも、弓を置く瞬間だけはいつも同じ旋律に戻ってしまう。
瑠伽
窓の外は静かで、誰も自分を知らない街。
瑠伽
楽譜を閉じケースを撫でる。 そこにはもう、舞台の匂いはない。 代わりに生活の重さがある。
瑠伽
瑠伽
瑠伽は時計を見る。日付が変わる。 約束まで、また1日。
カフェでは忙しさに救われる。 言われた注文を覚え、笑って、動いていれば、考えなくて済む時間が増える。
叶多
叶多
それでもふとした隙間に、音が落ちてくる。
客
叶多は曖昧に頷いた。 知らない曲。知らないはずの音。
トクン.. トクン..
叶多
その夜、店を閉めた後、椅子を片付ける手が止まった。
叶多
小さく呟いて、笑う。日常になった待ち続ける日々の中、誰もいない店内に自分の声だけが残る。
叶多
叶多
その時、ラジオのスイッチが入りっぱなしだった事に気付く。
🎻*¨*•.¸¸♪
スピーカーから流れてきたのは、静かな旋律。
叶多
一音目で、息が止まる。 理由はわからない。 でも、身体が先に知っていた。
叶多
叶多は、その曲が終わるまで動けなかった。 曲が終わり、ラジオは何事もなかったように沈黙する。
次の日、いつも通りの始まりだった。 ふとカレンダーを見ると瑠伽と最後に会ってから半年経っていた。
叶多
常連のお客さんも来てくれて、いつもと同じくらい忙しかった。 都合よく考える暇を敢えて作らせないみたいに。
客
叶多
客
叶多
客
叶多
客
叶多
叶多
客
叶多
叶多
客
叶多
閉店の札を裏返す。 カウンターを拭いて、マシンの電源を落とす。
叶多
叶多
エプロンを外して深く息を吐いた。
叶多
誰に言うでもなく呟いて、店の外に出る。
叶多
鍵を締めようとしたら手から鍵が落ちてしまう。 それを自分より早く拾い上げた人がいた。
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
ぎゅうっ..
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽