同僚のリア充はリア充らしくリア充してくるっていうのに私は仕事。
えへへ♪

em
機嫌良さそうやね。

んふーっ♪だって、仕事が終わったらemさんとご飯ですもん♪

俄然!やる気も出るってもんすよ!

em
そんな、おっさんとご飯行くの楽しみにしてくれるなんて……

em
なんだか胸が痛むわ。罪悪感で。

どうして罪悪感なんですかっw

初めは大人で知的で仕事が出来る尊敬する上司だった。
しばらくしてそれは幻想で、彼は結構おっちょこちょいだし、天然だし、意外と口悪いって知ったけど……でもそれがとても魅力的だった。
上司と部下の関係を壊したくなくて、告白するかしばらく悩んでた
それでも勇気を出して告白しようとしたら……同時に告白してた。
私なんて部下の一人と思われてるって思ってたのにemさんも好意的に思ってくれてたみたいで……お互い頭を下げて「好きです付き合ってください」ってかなりシュールだったなあ
それから3ヶ月、時間をかけてお付き合いして……今年初めてのクリスマス!
残念ながらお互い仕事になっちゃったけど、emさんがきちんとディナー予約してくれてたから嬉しくてたまらないっ!
今は偶然エレベーターに乗り合わせて、部署に帰るところだ。
ちょっとエレベーターって苦手なんだけど……好きな人と一緒ならなんでも乗り越えられるよねっ
em
あと三時間の辛抱やね。

色んなお店知ってるemさんオススメの店なんですよね、私、期待しちゃいますよ~♪

em
わあお、おっさんプレッシャーやわ……!苦手な食べ物とかなかったよね?

ええ、特に。

em
良かった。それなら頑張れそうやわ。……って、料理作ってくれるのはシェフなんだけどねw

ふふふ!そうですね!シェフに頑張ってもらわないと!

em
いやー、楽しみになってきたな!

emさんって普段料理するんですか?

em
ええまあ、独り暮らしが長いからね、それなりには。

わああ、私、あんまりレパートリーないから……今度、emさんに教えて欲しいです!

em
そんなそんな、わびしいおっさんの漢飯やで?参考にならへんよ。

ええー……私はemさんのご飯食べたいんですけど……

em
目当てはそれかw

えへへ、ばれちゃいました?

今日、めっちゃ寒かったですよね!布団が中々離してくれなくて……危うく遅刻するところでしたよー。

em
分かる、すげー寒かった。年になるとね、関節が痛むんよw

まだemさんは若いでしょw朝何時に起きるんですか?

em
んー、大体いつも5時くらいかな。

ごじ!?ごじって5時ですか!?早起き……すごいですね!

em
別にすごくはないよー、ふっつーに寝坊しかける日もあるし。

やああ……無理です、私低血圧なんで……早起きとか無理です……尊敬しちゃいます。

em
いやいやいや……!なんか暑くなってきたなー、あー顔が熱い!

あの……emさん……

em
うん……僕も気付いたよ

エレベーター……動いてなくないですか?

em
………………。

em
だねえ。

おそるおそる二人で見上げると、7階のランプが点いたまま、静寂のエレベーター。
行き先ボタンを何度押してもウンともスンとも言わない。
これって……

em
まさか……閉じ込められた?

しかしほんの数分、オフィスを離れるだけのはずだった。
em
非常電話があるはずや。

さっきの緩い話し方から一転して仕事モードでハキハキしたemさん。
私は一抹の不安から、恐怖で動けなくなってしまった。
em
もしもし、はい、はい……はい、閉じ込められたみたいなんです。

…………っ!

em
ええ、ナンバーは……

em
はい、……ええっ!時間が掛かる!?

~~~っっ!

em
こちらは連絡手段がなくて……はい、外の者も気づいてると思いますけど……はい、……はい、分かりました。

em
ええ……非常に言いにくいんやけども……

em
対応できるスタッフがクリスマス休暇で……臨時スタッフも別の対応してて時間掛かるって……

……っemさん、わたし、わたひっ……

em
……?

em
……!

em
もしかして君、閉所恐怖症か!

~~~っ!(コクコクコク!)

em
うわあ、ツラいやろ……!まず、座れるか?よろけたら危ないからな。

揺れる、揺れて怖いです……っ

em
大丈夫、俺の手を掴んで……そう、絶対離さないから。

慎重に座ったつもりでもパニックの私は半ば膝から崩れ落ちるようにして床に座った。
狭いところが苦手だ、昔嫌なことがあって怖くて震える。
emさんわたひ、わたしこわくてっ……ごめんなさいごめんなさい……!

em
いいよ、いいよ。怖いよな、泣いてもええよ。

em
今、涙我慢して余計にパニックやろ?

(コクコクコク!)

em
涙見られたくなかったらこうして……おっさんの胸で申し訳ないけど、これで見えないから安心してな。

ぐす、ぐすっ……ぐすん……

そんな私の頭を優しく、一定のリズムでemさんはポン、ポンと撫でてくれた。
em
可哀想になあ、まさかこうなるって思わへんよなあ。

em
参考にならんと思うけど、僕が前に同じことなった時は案外早く解放してもらえたんよ。

em
今回もそうなって欲しいって……強く思うわ。

em
関係ない話して気を紛れさせようか?そんな余裕ない?

いえ、ぐすっ……お願いします、自分の状況を理解すると気が狂いそうで……っ

em
ん、分かった。

em
パニックなりそうになったらいつでも言うんやで?

はい……ぐす、ぐすっ

em
昔なー、友達とチキン買いに行って食べてたらさ、

em
友達がほとんど俺のチキン食べてしもたんよ。

em
友達、1本しか買ってないのに5本くらい手元に骨あって

em
あん時は仰天したよ。

ふ、ふふっ……

em
別の友達の話やけどね

em
俺、すっごい気に入ってるコーヒーがあって友達と飲みに行ったら

em
友達、目の前でコーヒーに砂糖ガッサー入れて

em
そん時は面食らったけどそういう楽しみ方もあるんやなって勉強になったわ。

うふふっ……

em
そんで、また違う友達の話やけども

em
車でご飯食べに行く途中、電子タバコ吸ってたら

em
「濡れた犬の匂いがする」って言われて紙タバコに変えたんよ。

em
センスある友達やけども、タバコから洗ってない犬の匂いがする!って真顔で言われた時には返事に迷ったよ。

あははっ……

em
ふふ、笑ってくれて嬉しいよ。

ありがとうございます……

でも私……

emさんの話も聞きたいです。

em
?

emさんがお話ししてくれるお友達の話も好きなんです

でも、私……emさん自身の話も聞きたいんです。

嫌、だったらすみません。

em
いやいや、嫌ではないけど……

em
多分つまらないよ?俺、多才じゃないしお滑りマンだし。

面白いとかそうじゃなくて……もっとあなたのことを知りたいんです。

こんな状況でグズグズに泣きながら言うの……変ですかね?

em
……。

em
大分、変やね。

em
だけど俺も一緒やから。

em
たくさん話すようにする。

ありがとうございます……

ずっと聞いていたいです。

em
それじゃ、僕がコケた自転車片そうとして職質された時の……

!?

em
おん?

em
動き出した?まだ一時間経ってないのに……

あわっあわわわわっ

em
お、おお?もしかしてエレベーターが動くことで閉じ込められていたことを再認識してしもた?

(コクコクコク!コクコクコク!)

em
それじゃ……ちょっとだけ放心してもらおうかな?

emさんは私の背中に腕を回し、フワリと抱き締めると耳元で飛びきり優しい声で囁いた。
em
俺なんかでも選んでくれてありがとう……君のことが、大好きです。

………………。

本当に放心してしまった私は気がついたら1階で扉が開いた。
後からemさんに聞いた話によると、クリスマス休暇中のスタッフが家が近いからと、工具を持って駆けつけてくれたらしい。
結局、せっかくのディナーも放心したまま味が分からなかったけれど……またいつでも行こうとemさんは笑ってくれた。
一言では言い表せられない、複雑なクリスマスだった。
あの日からエレベーターがトラウマになるかと思いきや、最後のemさんの言葉を思い出すことで放心して無になれる……