ひな
pixivに投稿した のだかぶ『俺のもの』
あの人の言葉が、行動が、熱情となりて俺の胸をジリジリと焦がす。
最初は、理不尽なヤキを入れられる事もあって、兄貴とは、ただ恐怖の象徴でしかなかった。
兄貴分でなければ、決して、好き好んで自ら近づきたくはない存在だった。
けれど、その全てが俺のためだと知った時、一際大きく鼓動が俺の胸を叩いた。
つき合う道理なんてないのに、俺の個人的な復讐に何も言わずにつき合ってくれた。
自分の持つ技巧を、惜し気もなく教え、与えてくれた。
時には、鉄火場から逃げそうになる心を叱咤され、立ち向かう事で活路を切り開く事を学び、未熟さ故に、死の淵に引き摺り込まれそうになれば、何度も救い上げてくれた。
されど、言葉では何一つ語りもしない。
しかし、言葉では語らなくとも、兄貴の背中から伝わる声なき言葉が、何時しか一つの灯りとなりて、俺の心に熱情という名の火を灯らせていた。
気づいた時には手遅れで、胸を埋め尽くす、熱情が、今にも俺を窒息させにかかる。
そして、とうとう、その熱情が許容量を越え、溢れだした。
熱情が胸を焦がし、轟く鼓動が囃したてる。鼓動が、熱が、俺が止まることを良しとしないのならば、残る道は、突き進む事で、活路を開くしか他ない。
俺は熱情に身を焼かれながら、路地裏で、寂しげに煙草の煙を燻らす、兄貴の背中に、想いの限りに抱きついた。
「俺、兄貴の事が「華太!」」
兄貴の鋭い声が、俺を制止する。
「分かっとんのか、お前。その言葉を口にすれば、なかった事には出来ねぇぞ」
兄貴の口から問われるは、覚悟の有無。
「分かってます!でも、俺は兄貴が、野田の兄貴が好きなんです!」
そんなのは愚問だ。疾の昔に、俺の覚悟は決まっている。貴方を好きになった瞬間から。
「・・・言質をとった野田」
兄貴の腰に回していた腕を引かれ、野田の兄貴に正面から抱きすくめられる。
「これでもう、お前は俺のもんだ。もう、どこにも逃がしはしねぇ」
「兄貴こそいいんですか?」
「ああ?」
「兄貴だって、俺のもんですからね。今更、撤回なんてさせませんから」
「生意気な口な野田」
まるで、噛みつくかのように唇を奪われる。
唇を通して伝わる互いの熱情が一つに混ざり合う。
俺は遂に手に入れた。
俺という代価を払って。
兄貴という存在を、この手に。
例え、この先、何があったとしても俺は兄貴を誰にも渡しはしない。
だって、兄貴は俺のものなのだから。
そして、俺もまた、兄貴のもの。
おわり