演説場にて
あかり
私の父は教会の神父でした。
あかり
小さいけど、週末には沢山の人達が来てくれて。私もそんな父の仕事を毎日手伝いながら、父の背中を見て来ました
あかり
貧しいけど幸せな日々だったんです。でも...
雷鳴が鳴る土砂降りの教会の門が けたたましく開く
お兄ちゃん
オヤジィ、まだこんなシケた教会なんざやってんのかよ!!
お兄ちゃん
世の中は金だぜ。
お兄ちゃん
信仰なんかで金は動かねえんだよ。
父
黙らないか、教会の場で。
何をしに来た。
何をしに来た。
父
お前とは縁を切った筈だ!此処にお前のものなど何も無い。
父
出て行きなさい。
お兄ちゃん
オレもこんなシケた場所なんかに用はねえんだがよォ...
お兄ちゃん
土地には用があんだわ。もう此処、アンタのもんじゃねえから。
バシッ、と土地の所有者証明書を出して
お兄ちゃん
てな訳で今日から此処は教会じゃなくてオレの経営するキャバクラにすっからよ。出てってくんねえか?
父
貴様っ...なにを勝手なっ
お兄ちゃん
勝手じゃねえよ共同名義だろ?此処の借金はオレが払い終えてんだ。
お兄ちゃん
つまりオレのもんって事だなァ?
父
それは...っ
あかり
お兄ちゃんっっ!!?やめてよっっっ
あかり
此処はお父さんが大事に守って来た土地なんだよ!!?
あかり
お兄ちゃんが戻って来た時のために、お兄ちゃんのために共同名義にしてたんだよ!!!
あかり
お兄ちゃんだってそのために神父さんの学校にーーー
お兄ちゃん
うるせえんだよ!!!
あかり
きゃっ!
父
あかり!!
お兄ちゃん
世の中は金だ。金なんだ。金がなきゃ何も守れやしない。
お兄ちゃん
てめえらが信仰する神様がお袋を救ってくれたのかよ!!!あァ?
あかり
やめてお兄ちゃんッ、お母さんの事は家族みんなで話したじゃない!!お母さんだって治療しないで家族と一緒に居る道を選んだんだよっっ!!?
お兄ちゃん
違うね。お袋は知っていたんだ。ウチに金が無い事を。
お兄ちゃん
自分の治療費を負担させたら、家族に迷惑が掛かるって事を。だから伏せたのさ、最期まで。自分の病気に掛かる費用と家族を天秤にして。
あかり
そんなことお母さんはっっ
お兄ちゃん
望んでなかったってか!?あァ!?てめえの命に掛かる事を、家族と天秤にしてなかったってのか!!?
父
...っ
お兄ちゃん
なァ。何なんだよ信仰って。てめえらが守って来た信仰は、一体何を救ってくれたんだ?
お兄ちゃん
何人救ったんだ?あ?オヤジ、てめえの言葉に何人救われた?
お兄ちゃん
病気のお袋1人救えないでッ、何が信仰だ、何が救いだっっ。他人の罪を聞いて聞いて、だがてめえの罪とは向き合いもしねえ!!!!他人の不幸を救おうとする癖に、てめえらの肉親は救おうともしねえ!!!
お兄ちゃん
うんざりなんだよっっ、こんなくだらねえコト!
お兄ちゃん
結局は誰かを救っても、そいつが自分を救ってくれるわけじゃねえ。金がなきゃ結局てめえらは救えねえんだ!!!!他人なんか救ってる暇があんなら、なんでお袋は救わなかったんだァ!!!!
父
...
あかり
お兄ちゃん...
お兄ちゃん
オレに力が無かったからだ。お袋を救えなかったのは。
お兄ちゃん
あの時のオレに力があれば。
お兄ちゃん
金があれば。きっとお袋は救えたんだ...
お兄ちゃん
オレは神は信じねえよ。祈らねえ。
お兄ちゃん
オレが信じてるのは、現実的に何かを救う力を持つ金だけだ。話は終わりだ、とっとと出て行きな。
お兄ちゃん
こんな、大切なもんも救えねえ教会....無くなっちまえ。やれ。
黒と白の服を着た仮面被りの男達が玄関から一斉に入って来て教会の設備を壊し始める
あかり
やめてお兄ちゃん!!!いやぁぁぁぁぁぁぁっっーーーーーー
あかり
...その後、父は倒れました。晩年まで父はうわ言のように、すまなかった...すまなかった...と
あかり
私はあの教典を今でも忘れません。
鳴り止まぬ歓声、ギャラリーの群れから1人の男性がギャラリーから歩き去って行く。
お兄ちゃん
くだらねえんだよ...ったく...まったくよ...
その彼の服は黒い神父服。その手には、ある名前の聖典が持たれていた。
オーメンヴェイル







