真奈美
ねぇ、怖い体験したわ
朱理
なになに
真奈美
この前さ、お父さんとお母さんの友達がいっぱいうちに集まってバーベキューしてたんだけど
朱理
いいな、楽しそう
真奈美
うんまぁ楽しかったけどね
真奈美
夕方過ぎから集まって、火起こしして肉焼いて、お酒も飲んでさ
真奈美
私も肉食べながらあっという間に24時近くになってたんだけど
朱理
うん
真奈美
わいわい騒いでた中のひとりの女の人がさ、ビールが入ったカップを口につけたままピタって止まったの
朱理
急に?
真奈美
急に
真奈美
うちって道路に面した家なんだけど、ど田舎だから街灯もあんま無くて、近所の家とかもみんな離れてて
真奈美
田んぼとか畑とか挟みつつポツポツ建ってる感じなんだよね
真奈美
ただ、うちにはめちゃくちゃご近所さんがいてさ。道を挟んだ会い向かいに一軒建ってるの。ほんと目の前
朱理
うん
真奈美
でさ、ビール口につけたまま止まった女の人は、その会い向かいの家をずーっと見てるわけ
朱理
雲行きが怪しくなってきた
真奈美
みんなわいわいしてたから気にも留めてない人がほとんどだったんだけど
真奈美
何人か「あれ?」って異変に気付いてその女の人のこと見てたらさ
真奈美
急ににっこりわらって、「あ、こんばんわー!」ってお辞儀したんだよね
朱理
えっ
真奈美
みんなが一斉に振り向いて、女の人が挨拶した方を見たんだけど
真奈美
真っ暗な道と、電気の付いてない会い向かいの家があるだけでさ
真奈美
もちろん人とかも何もいないの
朱理
…………
真奈美
みんなぎこちない感じで笑いながら、「ちょっとー!誰に挨拶してんの?」って言ったらさ。その女の人、
真奈美
「え?おばあさんにだけど……」って
朱理
待ってこわい
真奈美
その女の人が言うには、真っ暗な道をひとりで歩いてるおばあさんが視界に入って
真奈美
「こんな時間に変だなぁ」って見つめてたら、そのおばあさんがペコッて会釈してくれたから
真奈美
「ああ、向かいの家のおばあさんか」って思って挨拶したって言うの
朱理
……うん
真奈美
けどその場にいた何人かは、女の人がどっか見つめてる時から視線の先を追ってたし、
真奈美
振り向いたりしてたのにおばあさんの姿を見た人なんて誰もいないしさ
朱理
だって「こんばんわー!」って言った時は、女の人にはおばあさんがバッチリ見えてたってことでしょ?
真奈美
そう
真奈美
誰も見てないのに、その女の人だけは絶対いたって言うの
真奈美
そうやって話してる間におばあさんのこと見えなくなったから、「多分向かいの家のおばあさんだったんだよ」って
朱理
それ私も思った
朱理
向かいの家の人なんじゃないの?
真奈美
そう思うじゃん?
真奈美
私たち家族、みんな怖くて言えなかったんだけどさ
朱理
うん
真奈美
向かいの家に一人で住んでたおばあさん、先月亡くなったんだよね
朱理
…………
真奈美
空き家なの。完全に。
朱理
…………
真奈美
…………
朱理
もう真奈美んち行けない
真奈美
むしろ今から来いよ。
怖くなってきちゃったから。
怖くなってきちゃったから。