紬
捨て犬みたいな目つきだって言われたこともあるけど、あたしは全然気にしなかった でもある日、その男の人、急にいなくなったの どこかへ引っ越しちゃったみたい そしたら、別の女の人に変わっちゃってたの その人もね、いつも不機嫌そうな顔してて、あたしのことなんか見向きもしなくて、 ただね、たまーに、ほんとにごくたまーに、笑いかけてくれることがあったんだ それが嬉しくてね だからかなぁ、すごく悲しかったなぁ……
うふふ、おかしいよね ねぇ、なんでそんな悲しいことばかり起こると思う? それはね、みんなが望んでいないからだよ みんなが望むことが起こればいいのにって願っているからだよ じゃあ、どうすれば望み通りの世界ができるの? 君ならできるかもしれない だって、君は特別だもの 特別な人間がいるとすれば、それは君のような人間のことだ 君は何をすべきだと思う? ぼくはね、何もしない方がいいんじゃないかなって思う 何かするたびに傷つくなんてバカらしいじゃない それに、傷ついたとしても、痛みを感じなければいいんだよ 痛くないフリをするんだ そうすれば、いつか本当に忘れてしまうだろう ほら、見てごらん 君の目の前にいるのは誰だい? これはぼくじゃない
