月音
私は、ただ無言で、表情も変えず戦場に立つ。私専用のナイフを持って。
無言なのは心を落ち着かせる為だ。これはゾムさんに教えて貰ったコツ。それでも、私の手の震えは止まらない。
私は「死ぬ」という現実に恐怖を考え、震えが止まらない右手を左手で無理やり鎮める。
_今日は遂にX軍との戦い。鈴菜さん達wrwrd軍、日常軍が滅びる戦争だ。勿論、自分が死ぬ事くらい知ってる。だからこそ怖い。死ぬから。でも、私が恐れている事はもう一つあった。
それは、神代家の人を殺す事。鈴菜さんの過去からして、多分、神代家の人を殺す事は避けられないだろう。
今回は珍しく、私達から攻めに行く。此方の兵士が、ロボロさんの指示と同時に攻める。行かなくちゃ、駄目なんだよね。
鶯
月音
「なんでこんなことになってしまったんだろう」 そんな気持ちを何処かに捨てて、私は戦場に足を踏み入れた。
1匹、2匹、3匹。次々と人が死んでいく。段々と私の軍服に血が付く。でももう、そんな血は「汚い」としか思えなくなった。
無双してる事に気が付いて、後ろを振り向く。辺りは血溜り。死体が数え切れないほど転がっていて、唖然とする。
私は後ろを振り返ったまま、後ろにナイフを降る。後ろから「ザシュッ」という慣れた音が聞こえる。
月音
月音
私は少し俯いて、また先を進んだ。
月音
月音
_何時間経ったのか、そんな時に、遂に恐れていた事が起きた。
神代家の受け継ぎ者。名も知らない受け継ぎ者。世界を救った受け継ぎ者の1人。会いたくなかった。殺したくなかった。それでも、今、生き残る術は……
月音
鈴菜さん達に迷惑をかけたくない。 海月とまた話したい。 鶯とまた昼寝したい。 また神代家として生きたい。 私は……生きたい。
梓希
月音
梓希
梓希さんは困惑とした表情で私を見つめる。当たり前…か。そんなの、信じてもらわなくていい。どうせ、どっちかが死ぬだけなんだから。
月音
梓希
月音
私は涙を流して、困惑した梓希さんに剣を降る。私の涙が、地面の血溜まりに落ちたと同時、目の前からは「ザクッ」という音が聞こえる。
月音
梓希
???
月音
???
鶯
X軍幹部
僕が罪を犯したことは言われなくても知ってる。全員が襲って来て、この体の反発か、どうしてもナイフを降ってしまう。
鶯
気が薄くなったからか、僕の後ろに一瞬で回られる。受け身も何も取っておらず、相手も流石に動きは早い。「死ぬ」という文字が濃く脳内に表れ、完全にそれを受け入れた。
キイイイイイン
甲高い、ナイフとナイフが重なった音が聞こえる。いくつ経っても痛みは来ない。さっきの人以外の気配が一瞬感じて、ハッとして瞼を開ける。
鶯
???
鶯
鶯
ぴくと
戦闘中というのに、僕の方に振り返って笑顔を見せるぴくとさんに唖然となる。ぴくとさんが「よいしょ」と小さく言った瞬間に目の前の相手は真っ二つ。僕が苦戦していたのが馬鹿と思えるほど。
鶯
ぴくと
鶯
1ヶ月以上経っても治らなかった海月お兄ちゃんの傷を、短時間で治すなんて信じられない。それでも、今僕が自然としていた事は
鶯
頭を深く下げ、流れそうな涙を堪え、僕は深く感謝を告げる。
ぴくと
鶯
ぴくと
そう言われた瞬間、自分のモヤが消えたような気がした。もしかしたら、僕達は救われるかもしれない。もしくは、悪い方へと進むかもしれない。そんな人生が、尊く見えた。
ぴくと
X軍兵士
鶯
ぴくとさんと僕はハイタッチをし、兵士が攻めてくると同時にナイフを降った。
月音
鈴菜
月音
私を守って被害を受けた鈴菜さんに寄り、能力で回復を使おうとするが、その前に鈴菜さんは何かの液体を飲み、回復をする。あんなに深く刺さったのに、何故痛みを感じない…?
月音
鈴菜
月音
私は深々と頭を下げると、鈴菜さんの後ろから兵士が攻めてきている事に気が付いて、急いで伝えるが、そもそも知っていたようで慣れた手付きでその人にナイフを降る。
兵士は早くて見えなかった鈴菜さんのナイフ1発で体が切れる。鈴菜さんはその兵士の生首を梓希さんに見せ付けるように梓希さんに向き合う。
鈴菜
梓希
鈴菜
鈴菜
梓希
鈴菜
鈴菜
何もかもを知ったかのように鈴菜さんはにやりと微笑む。梓希さんは「ふーん」と一言言い、人差し指を1本あげてこう言った。
梓希
鈴菜
梓希
梓希
その一言だけで、私達を試しているという緊張感が迫りくる。鈴菜さんの方をちらりと見れば、そちらも少し緊張した模様。それ以前に、こんな所に来るなんて嫌なはずなのに。
月音
そう思いながら私は梓希さんに戦闘態勢をとる。相手の前とは思えない程おっとりとした口調で仲間を呼ぶ。
確か、この人は向葵(アオイ)さん。軍の中でも厳しいが、その分向葵さんの指導は上手く、指導を受けた人は戦力が前より上がったと言われている。
=殺すと不味い。それに、相手は強い。怖いなーと思いつつも、鈴菜さんとなら大丈夫な気も。
向葵
梓希
向葵
向葵さんはそう言って、少し変わった形の剣を構える。もし、足でまといになるとしたら私だ。心臓の鳴りを落ち着かせるように私は胸に手を置いて、大きく呼吸をした。
ぴくと
鶯
兵士に囲まれているせいであまり身動きが取れない上、一人一人の兵士がそこそこ強い軍の幹部レベルに強い。
そして、鶯は普通よりかは強いが、流石に俺より戦力は弱い。それに、恐怖心もあって俺が援護しなきゃちょっと不味い。
X軍兵士
ぴくと
俺のこの世界の能力、「時間停止」。魔力の減りが半端無くて、無理をすれば何とか5分を保てるくらい。そんな短い時間でも使えば、俺は当分寝たきりか死に一直線。
そんな事は分かっているが、この状況はどうしようもない。10秒くらいなら大丈夫だろう。俺は銃弾をセットして時間停止をした。
X軍兵士
ぴくと
目の前の兵士と鶯は石のように固まり、動かなくなる。それと同時に、俺の視界はぐにゃりとなり、 倒れかける。早く、済ませなきゃ。
1発、2発、3発…銃弾を1人づつ打っていく。時間停止が終われば止まった銃弾が動き出して死ぬという仕組みだ。周りの敵はほとんど打ち終わり、ぼーっとした頭を抑えて時間停止を解除する。
ぴくと
鶯
X軍兵士
困惑気味な鶯を連れて、俺は一目散に逃げる。建物の裏に隠れ、何とか息を整える。それでもやはり、ぼやけた視界は戻らない。鶯と少し離れ、背に向けて耐えきれなくなった吐き気を解消する。
ぴくと
鶯
ぴくと
そうやって笑いながら何とか誤魔化す。吐いたことで、少し反転した視界が元に戻った。気を取り直して戦闘に再参加しなければ。そう思った瞬間、後ろから声が聞こえる。
X軍兵士
そう言われ、嫌な予感がして周りを見る。後ろも前も囲まれていることに今更気付き、冷や汗をかく。狭い場所の為、完全不利。鶯を逃がして俺だけ犠牲として戦う?そんな事を考えていると、上から物音がした。
X軍兵士
X軍兵士
X軍兵士
X軍兵士
何が起きたかも分からず、俺は唖然とする。上から物音ががした時には、真上に煙玉が投げられていて、俺が必死に鶯を探していたら浮く感覚がした。気付いたら軍の屋上。
後ろから鶯では無い、俺と鶯を呼ぶ声が聞こえる。その声には聞き覚えがあり、鶯は咄嗟に後ろを振り返った。
鶯
海月
鶯
感動の再開(?)を迎えた2人はお互い抱きつき合う。鶯は大泣きして、海月はそんな鶯に困っているのか、はたまた安心しているのか、読み切れない位の表情を見せて鶯の背中を擦る。
いいよね、こういう感動系は。 俺なんか感動系してみようと思ったらクッッッソ気まずい空気になったから、もう俺は一生感動系の登場は辞めようと思えるのに。なんて憧れてる場合じゃないか。
ぴくと
海月
ぴくと
海月
鶯
ぴくと
鶯
ぴくと
なんて、余裕すぎる会話をしている場合では無いんだよね。俺は少し大きめの欠伸を一つし終わると、建物から戦場へと降りた。
月音
梓希
梓希
梓希
そう叫ぶと同時に梓希さんは更に勢いを増す。強過ぎて、私の力では何とかする事が出来ないと分かる人が大半だろう。
何故、私は憧れた人と戦っている?何故こんな結末を迎えた?そんな疑問が私の心を締め付ける。
月音
そう、小さく呟いた声は、誰にも聞かれることの無く、静かに消え去った。
鈴菜
向葵
鈴菜
鈴菜
向葵
鈴菜
向葵さんの早すぎる身体能力に私は反応が遅れ、腹部を蹴られ、飛ばされる。何とか地面に足が着き、地面に留まることは出来たが、更なる攻撃に私はただ避けるばかり。
鈴菜
鈴菜
向葵
12時の鐘が鳴り響き、それと同時に私の力は徐々に上がり、破壊衝動が込み上げてくる。
この現象は私、朱音家の証。赤い満月の日の12時には、どうしてもこうなってしまう。この力は明らかに強くなるが、破壊衝動を抑えようとしても、抑えきれなくなるのがデメリット。
ナイフを強く握りしめ、向葵さんを見詰める。殺さない程度だからね。そう自分の心に語り掛け、私は足に力を入れた。
月音
梓希
お互い睨み合う中、私は何時までも考えていた。「どうしてこうなってしまったのだろう」と。
梓希
月音
梓希
月音
そうだ。私は、神代家なんだ。 梓希さんの言葉に私は気付き、ナイフを強く握り締める。今の気持ちなら、梓希さんに勝てる気がする。
月音
梓希
梓希
月音
梓希さんは負けを認め、その場に倒れる。私も、勝てたという安心感に負け、その場に座り込む。
「勝てた」とは言えど、梓希さんは強過ぎる。降参と言いかけた時に梓希さんが言った。言えばお愛顧。勝った事は変わらないが、勝てた感覚はしない。
月音
梓希
月音
梓希
月音
梓希さんは、警戒している…とは言えないが、私を見つめ、何か考えている様子。私はもう1度問おうと口を開けた時、梓希さんが私の方を向き、話し始める。
梓希
月音
梓希
梓希
月音
そういうと、梓希さんは私の背後に回ってナイフを私の首に当てる。裏切ったかと考えたが、すぐにナイフを手放した。
梓希
月音
梓希
月音
梓希
そういうと梓希さんは向葵さんの方に駆け寄る。戦闘に夢中になっていたせいで気付かなかったが、向葵さんも、鈴菜さんもボロボロだった。私は鈴菜さんに駆け寄る。
月音
鈴菜
月音
今更だが、鈴菜さんの髪の色は赤色、目は青色だった。私が止めた瞬間、少し苦しみ始める。だが、少し苦しんだ所で髪の色が戻り、私の方を見る。
……少し後から気付いた形にはなってしまったが、成程、あの殺人衝動か……今回は概念的にこの世界に鈴菜さんが居るせいか、私には無かったのだが、自分でアレを抑え込めるとは。すごいな、なんて1人感心してた。
鈴菜
月音
月音
鈴菜
「骨折れてるじゃないですか…」と呆れ半分に言えば「大丈夫大丈夫!」とアホレベルの天然な人がニカッと微笑む。本当、何があればこんな笑顔ばかり作れるのかと疑問に思える。
向葵
梓希
向葵
梓希
向葵
向葵
鈴菜
そう言って、お互いにグータッチを交わす。こんな安心していいのか、悪いのか。今は分からないが、とりあえず今は勝てた事に喜びを感じよう。そう考えた。
向葵
鈴菜
月音
梓希
月音
とりあえず、事態は収まった、最悪の事態を超えた。そう考えるだけで、自然と笑みが零れる。軽く呼吸をして、私は梓希さんの後を追った。
ザシュッ
ぴくと
鶯
海月
ぴくと
海月
ぴくと
海月
鶯
と、呑気に笑っているぴくとさんの真っ白なシャツは血で赤く染まり、所々白が見えるだけのシャツと化していた。
軽々と殺していくぴくとさんの姿は、慣れたかのような手捌きをしていた。こう考えると、本当に僕達が住んでいた世界は幸せな世界なんだなと実感出来た。
ぴくと
鶯
海月
ぴくと
ぴくとさんは小さく微笑んで鈴菜さんらしき人物に駆け寄る。ぴくとさんが「鈴菜〜!」と声を掛ければ、相手はぴくとさんの方を振り向く。振り向いた少女は輝くように笑顔だった。
鈴菜
ぴくと
鈴菜
ぴくと
鈴菜
ぴくと
鈴菜
鈴菜さんは煽るようにぴくとさんにピースを見せつける。そんな様子を見つめるぴくとさんは黙って鈴菜さんの腹を蹴る。あぁ、イラつかせたなと僕は目を逸らす。
たまたま目を逸らした方向には、僕達に駆け寄る月音お姉ちゃんと敵…?が居た。でも、あのお姉ちゃんが許すくらいの人なら、そう思い僕は安心する。
全てを説明してもらい、僕達の戦争は「同盟」という形で終わる。どうも、X軍の総統は意外にもお人好しらしい。僕は海月お兄ちゃんが差し伸べてくれた手を取り、ひっそりと安堵の笑みを浮かべた。
コメント
2件
よくやった2人とも……良かった……月音ちゃん大丈夫だった……現代人には重荷すぎます…… 主人公組よくぞ来た……敵軍が強い……() これを見るとほんとにみんな優しい子たちなんやなって痛感してます……みんなええ子やぁ……