コウ
よう!久しぶりだな!
コウ
お前と離婚してから、もう1年になるっけな?
コウ
懐かしいな!
リツ
え?コウ?
リツ
今さら何の用なの?
コウ
なんだよ~冷たいなあ
コウ
せっかく連絡してあげたのに不親切だなあ~
コウ
お前ってそんな女だったっけな〜
リツ
慰謝料も踏み倒して、不倫相手と駆け落ちしたくせに
リツ
今まで音信不通だったのに、どういう気で連絡してきたのよ
コウ
不倫とか汚い言葉を使うなよ~
コウ
もう終わったことだし、お前も一人で寂しいんじゃないか?
リツ
ほんと余計なお世話ね!
リツ
私はサヤと2人で生きてるから寂しくなんてないわよ!
コウ
そんなこと言うなよ~
コウ
今日はお前に話したいことがあって連絡したんだ
リツ
アンタとなんて話すことはないわ!
リツ
時間の無駄だから
コウ
ちょっと待ってくれ!
コウ
実は俺、駆け落ちした恋人に脅されてるんだ
リツ
は?どういう意味?
コウ
実は恋人の親がヤクザで子分に女を紹介しろと言われてるんだ
リツ
ヤクザ!?
リツ
アンタの不倫相手、ヤクザの子なの!?
コウ
そうなんだ
コウ
紹介できねえと俺は恋人に捨てられ殺されるかもしれない
リツ
へえー
リツ
私には関係ないことだね、じゃあ!
コウ
ちょちょちょ!ちょっと待ってくれ!!
コウ
実は俺にいい考えがあるんだ!
リツ
は?時間の無駄だからいちいち突っかからないでよ
コウ
ヤクザに紹介する相手を考えたんだが
コウ
サヤを紹介するのはどうだ?
リツ
は?
リツ
ほんとで…何言ってんの?
コウ
サヤはもう高校卒業だろ?
コウ
18歳になって成人したんだから自由の身だろ?
リツ
ほんとに言ってることが信じられない
リツ
いくら離婚している間柄とはいえ、自分の娘だよ?
コウ
これはサヤの将来のことを思って言ってるんだ!
コウ
今は相手がいないだろうから紹介するのにもってこいだと思ったんだ
リツ
ふざけないでよ!
リツ
サヤの権利を無視して好き勝手言うなんて
リツ
第一、ヤクザの相手なんて聞いただけで恐ろしいわ!
コウ
大丈夫だよ、裕福な生活は送れるし
コウ
お前にヤクザの嫁になれって言ってるんじゃないんだから
リツ
絶対に認めません!
リツ
アンタの保身のために家族を売るようなことはしません!
コウ
おい!俺だって家族じゃねえか!?
リツ
私たちを裏切った人間なんてもう家族じゃありません!
コウ
そう言うなよ~
コウ
サヤにも直接聞きたいんだから会わせてくれないか?
リツ
嫌に決まってるでしょ!?
リツ
アンタの不倫のせいで私以上にサヤはどれだけ苦しんだか
リツ
あの子のことを思うならそっとしといてあげて
コウ
それはお前が決めるなよ!
コウ
本人に聞いてみないと分からないじゃねえか!
コウ
意外にヤクザの女になりたいとか言うかもしれないぜ
リツ
やめてよ!汚らわしい
リツ
お願いだからこれ以上私たちに関わらないでよ!
コウ
じゃあ、明日家に行くから話だけでも聞いてくれよ
リツ
お断りします!!
コウ
クソっ!!
コウ
俺は絶対にあきらめないからな!
コウ
絶対にサヤを手に入れてやる!!
~3日後~
コウ
おい、リツ!どういうことだ?
コウ
お前らの住んでたアパート、空室だったぞ?
コウ
一体どこ行ったんだ!?
リツ
だいぶ前に引っ越したわよ
コウ
どこに行ったんだよ!
リツ
教えるわけないでしょ?
コウ
いいじゃねえか、教えてくれたって!
コウ
俺たち家族だろう?
リツ
不倫して家族を裏切った人がよく言えたもんね
コウ
相変わらずお前は、愛想がないなあ
コウ
俺がせっかく来てやったのに、無駄足だったじゃねえか
リツ
アンタみたいに狂った人間の考えは理解に苦しむのよ
リツ
サヤのことを本気で思うのなら、アンタが姿を見せないのが賢明ね
コウ
それはサヤじゃなくお前の勝手な思いだろう?
コウ
俺はサヤに会って連れて帰り、将来の保証もしてやれるんだぜ
リツ
何が保証よ!
リツ
アンタにサヤを預けた時点で、保証はゼロなのよ
リツ
サヤには指一本触れさせないからね!
コウ
何だよケチいなあ!
コウ
サヤだってお前に抑圧されてパパに会いたいって思ってんじゃねえか?
リツ
バカ言わないで!!
リツ
もう話は済んだんだから、不倫相手のところに帰りなさいよ
コウ
そういえば明日はサヤの卒業式なんだってなあ?
コウ
高校の前を通ったら案内が出てたぜ!
リツ
アンタには関係のない話でしょ!?
コウ
まあそういうなよ
コウ
俺だってサヤの父親だ
コウ
愛娘の晴れ舞台ぐらい見てみたいもんだぜ!
リツ
サヤはママだけに来てほしいって言ってるけど?
リツ
何度も言うけどアンタは私たちを裏切った人間なの
リツ
悪いことは言わないから、もう私とサヤのことは諦めて
コウ
こんなとこで諦められるかよ!
コウ
こうなったらやるしかないな!
~卒業式当日~
コウ
来たぜ~!
コウ
卒業式を見に来てやったぜ~
リツ
ちょっと!アンタ本気?
コウ
母親が倒れて卒業式に参加できないから娘を連れてこい
コウ
って理事長に伝えたぜ
リツ
いい加減バカはよして!!
リツ
そんなウソついて娘の晴れ舞台を台無しにする気?
コウ
別にそんなことどうだっていい!
コウ
サヤの身柄さえ確保できれば文句はねえんだ!
リツ
アンタのやっていることは誘拐よ!
リツ
警察にも学校にも連絡するから
コウ
勝手にしろ
コウ
もうサヤが目の前まで来てんだ
コウ
お前が足止めさせてもその頃には俺は逃げ切ってるんだぜ!
リツ
逃げ切れると思うなよ!!
リツ
待ってなさい!とっ捕まえてやるから!
~その直後~
リツ
サヤ!大丈夫!?ケガはない?
リツ
今まだ学校にいるの!?
サヤ
もう式典会場に向かっているけど…
サヤ
ママ、何かあったの?
サヤ
ママが見に来るのまだ後よね?
リツ
あ~、良かった…
リツ
でっきりパパがもう卒業式に来たかと...
サヤ
やっぱりパパ来てたんだ
リツ
知ってたの?
サヤ
うん、昨日友だちに、校門のところにサヤのパパがいるって言われた
サヤ
ママが言ってたようにどうせ私のこと探しに来たんでしょ?
リツ
全部筒抜けだったのね
リツ
あの人は先生を騙してあなたを拉致しようとしているの
リツ
だからあなたに連絡して先手を打ったのよ!
サヤ
心配しなくて大丈夫だよ!ママ
サヤ
実はパパのことだろうと思って、備えはしているから
リツ
そうよね…さすがサヤ
リツ
取り敢えず何かあったら私にすぐ連絡するのよ!
サヤ
分かった!
サヤ
ありがとうねママ
~15分後~
コウ
おい!
コウ
お前、警察に通報したのか!?
リツ
通報したのは私じゃないけど…
コウ
嘘ついてんじゃねえ!
コウ
じゃあ何で高校に着いて、すぐ警察が来るんだ?
コウ
しかも肝心のサヤが居ねえじゃねえか!
リツ
アンタにサヤを渡すもんか!
リツ
先生たちもサヤを守ろうと必死なのよ!
コウ
はあ?どういうことだよ!?
コウ
応接室に隠れているから身動きがとれねえじゃねえか!
リツ
早く出てきたらどう?
リツ
アンタはもう随分と前からマークされていたらしいわよ?
リツ
もう逮捕令状も出てるって
コウ
へ?
リツ
学校側もアンタがサヤを連れ去りに来るんじゃないかと警戒してたの
リツ
1か月くらい前からね
コウ
何の話だ?
コウ
俺がサヤに会いに来たのは今日が初めてだぞ
リツ
ほんとにそうかしら
リツ
1か月前からほぼ毎日、高校の前をうろついていたようね
コウ
勝手に判断してんじゃねえぞ!
コウ
ただ俺はウォーキングをしていただけで、
コウ
たまたま散歩コースがサヤの高校の前だったってことだって…
リツ
すぐバレるようなウソついてんじゃないよ!
リツ
アンタの住んでるところは横浜でしょ?
コウ
え?
リツ
なのに散歩とかよく言えたもんね
コウ
ちょ…どうして…?
リツ
駆け落ちした後、不倫相手と横浜に住んでたんでしょ?
コウ
何でそこまで知ってんだよ…
リツ
アンタの不倫相手の親は、サヤの高校の理事長よ
コウ
へ?
リツ
その不倫相手は、理事長の娘でサヤの学校の元教師
リツ
そのことを学校側に告発したのは、サヤだったらしいじゃない
コウ
そうだ…
コウ
あいつのせいで俺たちは不幸になったんだ
リツ
そして理事長は娘を懲戒解雇し、親子関係も絶縁した
リツ
行き場を失ったあなたたちは駆け落ちし、横浜に移り住んだ
コウ
なんでお前がそんなことを…?
リツ
知ってるわよ
リツ
理事長があなたたちの動向を陰で監視してたんだから
コウ
ウソだろ…
コウ
親が理事長なんて聞かされてねえぞ
コウ
ずっとヤクザだって言われてたんだ
リツ
アンタもずいぶんとコケにされたようね
リツ
不倫相手に有り金を全て取られ、働いているガールズバーの資金に回された
リツ
更には若い従業員の女の子が欲しくて、アンタに要求した
コウ
それは…
リツ
だから相手もヤクザだと偽って、アンタを騙そうとしたんでしょ?
リツ
そしてアンタも自分の娘を差し出して、手打ちにしようとした
コウ
そんな…
コウ
俺が騙されていただと!?
コウ
ふざけんじゃねえぞ!
リツ
1か月前からサヤを探して、校門をうろついていたんでしょ?
リツ
それが理事長の耳に入り、すぐに面が割れたそうよ
コウ
ちがう!あれはサヤの姿が見たくて…
リツ
さっきと言っていること、違うよ?
リツ
不倫相手の要望に応じるため、娘の拉致を画策したんでしょ?
リツ
それが理事長には既に勘づかれていて
リツ
あなたは高校の中では、要注意人物として警察も認知済みなのよ
コウ
俺の身は潔白だって!
コウ
うろついてたのが俺だって確認したのか!?
リツ
ええ、すぐ分かったわ
リツ
あなたのことはサヤの友だちが見てたらしいですもの
リツ
一度うちに来てあなたの顔を見たこともある子たちがね?
コウ
え?
リツ
サヤはそのことを私にも教えてくれた
リツ
私はアンタからサヤを守ろうと思い、学校に注意するよう伝えたのよ!
コウ
ふざけるな!!
コウ
俺はサヤの父親なんだぞ!
コウ
俺にだってサヤ会う権利はあるはずだ!
リツ
今のアンタには娘の気持ちなんて分かるはずもないわ
リツ
サヤは不倫のことで私が苦しめられていたことを恨んでるもの
リツ
だからそんな優しい愛娘に指一本触れさせない
リツ
例えアンタが血が繋がっていようともね!
コウ
ちょ、ちょっと待ってくれよ!
コウ
結局、サヤには会えなかったじゃねえか!
コウ
卒業式だってのに教員も生徒もどこ行きやがったんだ?
リツ
卒業式の会場は市民ホールよ
リツ
アンタがもし他の生徒にも危害を加えることを危惧した理事長が
リツ
先手を打ってくださったのよ
コウ
来た意味ねえじゃねえかよ~!
コウ
なぁ…
コウ
会えなかったんだし、諦めるから警察になんとか言ってもらえないか?
リツ
嫌だね
リツ
そのまま捕まって反省したらどう?
コウ
嫌に決まってるだろ!
リツ
じゃあ、私たちには近づかないでね
リツ
永遠にさようなら
コウ
おい!リツ!見逃さないでくれ
コウ
助けてくれ~
~後日談~
リツ
応接室に立てこもったコウは泣く泣く出頭、
リツ
何の成果もあげることができず、不法侵入罪で逮捕されてしまいました。
リツ
更には不倫相手のオープンしたガールズバーには
リツ
未成年を不法に雇っている疑いが浮上し、警察がガサ入れ
リツ
それが事実だと判明し、不倫相手も逮捕されてしまったようです。
リツ
色々ありましたが、迷惑人間が居なくなったことで
リツ
私も理事長も安堵しています。
リツ
理事長の機転により、別会場で執り行われた卒業式は大成功。
リツ
保護者席から見る娘の凛とした姿に感動が止まりません。
リツ
娘のほうが私より大人になったことを実感しながら
リツ
巣立っていく娘を、そっと見守っていこうと思います。







