彼女こそが、「赤い扉の透子さん」に間違いない
透子
ふーん……ほうほう
彼女は後ろ手で扉を閉めると、私の全身をくまなく見定める
その表情は、ニヤニヤとした笑みに覆われている
透子
傷か、なるほどな
透子
貴様、それが嫌でここに来たってわけだ
私
え、え?
透子
――背中に三つ、腹部に五つ、前髪に隠れた額に四つ、鎖骨の下に六つ、おっと踵には無数の……画鋲痕か――これでようやく折り返しというところだが、続きに聞くかね?
彼女は、私が負った傷をその数まで正確に把握していた
あの僅かな時間で、しかも服の上からだ
私
ど――どうして、それを
透子
愚問だな
透子
この世界は――透明人間の世界は、わたしのテリトリーなんだよ
透子
即ち、"この空間ではわたしこそ神なのだ"
透子
証拠の一つでも見せてやろうか?
透子さんが指をパチン、と鳴らした瞬間、体が軽くなった――それまで全身を苛んでいた苦痛が、嘘のように消えてしまったのだ
背中の鋭い痛みも、腹部の鈍い痛みも、鎖骨のじんじんする痛みも、踵のずきずきする痛みも、すべてなくなってしまった
もはや体の一部となっていた「痛み」が消えてしまったことに困惑し、私は言葉を失った
私
(でも……ああ、「どこも痛くない」って、こういう感じなんだ……)
唐突に訪れた解放感を、どう受け止めていいのか分からなかった
ただただ楽になったのが嬉しくて、涙が勝手に零れてきた
透子
泣くな泣くな、みっともない
透子
女が泣いていいのはな、男を私利私欲に使うときだけだぞ
私
ど、どうして……
嬉しさと同時に懐疑心も湧き上がってきた
どうして彼女が私の傷を治してくれるのか
その行為に一体どんなメリットがあるというのだろう
透子さんは質問に答えない
代わりに、尊大な口調で言う
透子
さ、気は済んだかね?
透子
"じゃあそろそろ帰ってもらおうか"
私
……え?
予想もしなかった一言に、私はますます混乱してしまうのだった
そもそも私が透子さんのもとを訪れたのは、傷だらけの現実に耐えられなかったからだ
どうにもならない現実から逃れたくて、透子さんと自分を入れ替えてもらおうと思った
確かに透子さんの不思議な力で全身の傷が消え去り、それだけでだいぶ生きずらさは払拭された
だが、根本的な問題が解決したわけではない――現実の世界に戻ればクラスメイトがいるし、家に帰れば親がいる
傷が消えても、その原因までは消えない
透子
ふん
透子
このわたしが、十三怪談の透子さんが、どうしてそこまでしてやらなくちゃいけない?
透子
さっきのは、貴様の無謀に敬意を表しただけだ
私
け……敬意?
透子
そうだ
透子
あそこまで露骨に警告してやったのに。そのことごとくを無視した貴様の無謀に対する、ささやかな敬意だ
透子
それ以上でもなければそれ以下でもない
主
はーい
主
一旦ここで切るー
主
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主
バイバーイ!