わたしと利音は 男女の双子
お母さん
お母さん
そう言われて
育ったのに……
お母さん
美音
お母さん
利音
美音
美音
美音
わたしのコップはピンク
利音のコップは水色
お母さん
美音
美音
わたし達は分けられる
性別という名の
記号によって
美音
利音
美音
利音
美音
美音
利音
利音
利音
美音
美音
お揃いだけど
同じじゃない
わたしと利音の服は
いつも、形が違う
美音
美音
利音
美音
美音
利音
美音
利音
利音
利音
利音
美音
わたしは机に目を向ける
水色のペンケース
青い消しゴム
車の絵のエンピツ
美音
美音
利音
わたしと利音は
いつも互いの持ち物を 交換していた
お母さんには内緒で
それはきっと、優しい嘘
わたし達だけの秘密
お母さん
お母さん
お母さん
美音
美音
中学生になる前
わたしと利音の部屋は 別々になった
美音
女の子と男の子
記号の差は
日増しに大きくなる
美音
美音
髪の硬さ
身体の丸み
声の高さ
わたしと利音の差は
増してゆくばかり
美音
利音
利音と顔を合わせるのは ご飯の時
美音
利音
美音
お母さん
美音
利音
利音といると楽しくて
ほんの少しだけ
……苦しい
帰りは雨が降った
美音
ザアザアと視界を遮る 雨を見て思う
美音
美音
利音と交換できなかった
ピンクの傘が嫌で
持ってこなかった
美音
美音
利音になりたかった
男の子になりたかった
雨は全てを洗い流すと 言うけれど
わたしの悩みを
洗い流してはくれなくて
美音
利音と同じになれなくて
男の子になれなくて
素直じゃなくて
優しくなくて
こんな自分、大嫌い
利音
美音
利音
美音
利音
利音
美音
利音は笑顔がかわいい
利音は、素直で
利音は……優しい
美音
美音
利音
美音
頭のてっぺんから つま先まで
性別も中身も
全部、全部、全部
わたしは利音に なりたかった
利音
利音
美音
利音
利音
美音
利音
利音
美音
利音
利音
利音
美音
美音
利音
利音
上手くいくかは分からない
いつかは解ける魔法だろう
美音
それでもいい
いつの日か その嘘を
本物に変えてしてしまえば いいのだから
#TELLER文芸部
コメント
6件
「記号」の解釈が素敵でした。 枷を取り払う魔法があくまでも仮初のものあることを暗示させるとともに、それに縋るしか自分らしく生きられない儚さが感じられます。
古典の「とりかへばや物語」を彷彿とさせる、二人の苦悩がひしひしと伝わってくる作品でした。 自分らしく生きることのできる環境、境遇に住む事が出来たら楽なのでしょうが、みんながみんなそんな風に恵まれてるわけでもないわけで… 二人の魔法ができるだけ長く続くことを祈ります。