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未宝岳の雪崩から10ヶ月後
雪を被った八ヶ岳の麓の高原に立つ『国立天文台 野辺山』では、敷地内に並んだ大小様々なパラボラアンテナが満天の星を仰いでいた
さらにその奥に聳え立つ巨大なパラボラアンテナが、低い音を立てながらゆっくりと動き、その場にある建物の屋上に設置された銀色のドームから、一本のレーザー光が夜空に伸びていく
観測棟の2階にある観測室では、1人残った研究員の女性がモニターを見ながらコーヒーを飲んでいた
すると突然、部屋の照明が消えた
女性
女性は室内を振り返った。 誰かが電気を消したのかと思ったが、真っ暗になって部屋は機器の動作音の音が聞こえるだけで、人の気配はない
女性はスマホをとってライトをつけると、立ち上がって入り口に向かった。 周囲をライトで照らす。すると、壁の前に上着のフードを被った人物が立っていた
女性
ライトで照らされたフードの人物は眩しげに手をかざすと、すぐに逃げ出した。 狭い通路に置かれた機器を倒しながら走っていく。女性もライトで照らしながら追いかけた
フードの人物が曲がった先は行き止まりだ
足元が暗くて躓きそうになった女性は、つんのめりながら角から飛び出して、正面をライトで照らした。すると、引き返してきたフードの人物が走ってきて、女性に体当たりした
女性
悲鳴をあげた女性は壁に叩きつけられて、壁にかけてあった鍵が落ちた。 真っ暗な中、フードの人物が駆けて行く足音が響く。 尻餅をついた女性のそばには、ウサギのキーホールダーにつけられた2本の鍵が落ちていた
2台の覆面パトカーが『国立天文台 野辺山』の観測棟の前で急停止した
前の車から降りてきた上原由衣は、観測棟から出てきた女性に近づき、警察手帳を見せた
上原由衣
男性
手を挙げた守衛は、女性に付き添う中年の男、越智豊を見た
男性
温厚そうな顔立ちをした越智がメガネ越しに見ると、女性は不安げな顔をあげた
女性
澤田凪
大和敢助
遅れて車から出てきた大和敢助は、カツカツと杖をついて由衣の前に出ると、ぶっきらぼうな口調で女性にたずねた
もう1人、同じ車から出てきた澤田凪は、由衣の横につき大和とは正反対の軽々しい口調で女性に話しかけた
女性は大和の凄みのある顔と凪の威圧感ある笑顔を見て、思わず目を逸らす
色黒で無精髭を生やした大和の左目には大きな2本の傷が刻まれていたのだ。 髪色が一部だけ白がかっている凪の右目は雪のような白色だった
2人とも雪崩事故の後遺症により、凪は右目を大和は左目を失い、お互いに足りない部分を補い合って仕事をしていた。 大和に関しては左足も不自由だった。それをいつもそばにいる凪がサポートしていた
女性
女性が答えた途端、大和たちの背後からゴウンっと地響きのような音がした
大和、由衣、凪が振り返ると、夜空を仰ぐ巨大なパラボラアンテナがゆっくりと動いている
男性
越智の言葉を背に受けながら、大和と凪は巨大なパラボラアンテナを見上げた。 その途端、凪の右目と大和の左目の傷がズキンッ!とうずく
凪は右目を大和は疼く左目を手で覆った。 光を失った目の奥がズキズキと酷く痛む。 杖を落とした大和は、その場にうずくまった。 凪はくわえていたスティックキャンディを落とし、その場にうずくまった
上原由衣
駆け寄った由衣が2人の丸まった背中に手を添える
上原由衣
大和敢助
澤田凪
2人は低い声でうめいた
目の奥の痛みは側頭部にまで広がり、頭が割れるように痛い。 この痛みは何だ。今頃になってどうしてこんなに痛む。 10ヶ月前の雪崩事故で負傷した目がこれほど痛むのは、初めてのことだった