かえる
『雨の日にね。』
雨が降っていました。ポツリ・ポツリと雨が降っていました。
テントウ虫は、雨が苦手でした。羽がぬれると、飛べなくなってしまうからです。そのためテントウ虫は、こんな雨の日には葉っぱの裏に隠れて、ひっそり・ヒソヒソしているのでした。
「まだ、やまないのかしら…。まだ、やまないのかしら…。」
ときどき、葉っぱのはしっこから顔をのぞかせて、さっきからずっと降り続く雨を見ています。
しばらく経っても、まだまだ雨はやみそうにありません。それどころか、土の上には小さなみずたまりが一つ二つとできていきます。
「こまったわぁ。」
「何が困ったの?」
テントウ虫がつぶやいた独り言に、返事があります。そのことにテントウ虫はおどろきました。
「せっかく雨が降っているのに、何を困っているの?」
そうたずねる相手は、アマガエルでした。
アマガエルは、ピョン・ピョン・ルン・ルン
飛びはねて、楽しそうに雨をあびています。
「だって、羽がぬれてしまうと、飛べなくなってしまうんだもの。」
テントウ虫は、少しムッとして答えます。
アマガエルはそれを聞くと、1つ首をひねって話します。
「ピチャンって、雨が池に落ちるとさ、すっごくイイ音がするんだ。ピチャン・チャ・ピチャンって、まるで音楽さ。ボクらは、その音楽に合わせて歌っておどるんだ。カエルはみんなみんな、雨が大好きなのさ。」
「楽しそうね…。ワタシは、すきじゃないわ、雨なんて。」
「じゃあ、何が好きなのさ?」
アマガエルは、ちょっとイヤな気持ちになりましたが、テントウ虫に聞きました。
「そうね、ポカポカのお天道様に、きれいな
お花畑。それに、青いお空が好き。お腹いっぱいミツを吸ったら、のんびり花びらの上で休むの。そして、青い空に羽を広げて、丸い大きなお天道様に向かって飛ぶのよ。」
「ふぅん。」
アマガエルは、少しずつ弱まってきた雨を見ながら言いました。
「ボクらとは、まったく違うんだね。」
「そうね、まったく違うわね。」
テントウ虫は、あまりに考え方が違うので、少しおかしくなってクスっと笑いました。それを見たアマガエルもハハッと笑いました。
それから2匹は話をしましたが、好きなモノも好きなコトもどれもこれも正反対の物ばかりでした。それでも2匹は楽しかったのです。知らないことをたくさん聞けて、楽しかったのです。
そうしているうちに、しだいに雨は上がっていきました。空は少しずつ黒い雲が消えて、青い部分が見えてきました。
「はれてきたね。」
「そうね。」
アマガエルはそろそろ池へと帰らないといけませんでしたり体がかわくと生きていられなくなるからです。
「ボク、もう行かなきゃ。」
アマガエルがそう言った時でした。
「見て、あれ!」
テントウ虫ざ見上げた先を、アマガエルも見上げました。
「わぁ!!」
そこには、大きな虹がかかっていました。
「きれいだね。ボク、虹は好きだよ!」
「美しいわね。ワタシも、虹は好きだわ!」
はじめて、2匹は同じ好きなモノを見つけたのです。
そのまま2匹は、虹が消えるまでずうっと
黙って見続けていました。
「そろそろ、ワタシも行くわ」
虹が消えると、テントウ虫は言いました。
「お天道様のところへ。」
「じゃあ、ボクはお池へ。」
アマガエルも言いました。
「また、会えるかしら?」
「きっと、また会えるよ!」
おたがいに、顔を見合わせて言いました。
「雨の日にね。」
「雨の日にね。」
2匹はそう言うと、それぞれの方向へ行ってしまいました。
空から雲が1つも見えなくなったころ、
だれもいなくなった葉っぱの上から、しずく
が1つ落ちました。ピン・ピトンとおちました。
2匹は、ともだち。また会えますね。次の雨の日も、その次の雨の日にも。