鯨 の 子

人と喋ることが苦手だ。

声を発するのが苦手だ。

感情を出すのが苦手だ。

だから

ｸｼﾞﾗ 鯨のように ──

深く、暗い深海へと沈んでいくのだ。

どうしよう。

物凄く関わりたくない。

こんなピュアな不良もいるんだ。

（ プイッ

生まれて初めて

男の人に、可愛いと思ってしまった。

..と、思ってた矢先

" 関わりたくない "

そう思ってるはずなのに。

グイッ（ 引

もうダメ。

怒る気にもなれない。

そっちから聞いた癖に、興味0なのね。

ちょっと

ほんのちょっとだけ

人という生き物を、好きになれた。

海なんて遠い、東京の片隅で

1人の少女が、密かに呟いた。

その日から、彼が私の " ヒーロー " だった。

嘘が下手な君

冗談でも、嬉しかったの。

でも

ちょっと、救われたの。

それから4年──

いつの間にか会う機会も減り

私たちは、完全に別の道を歩んだ。

唯一名前を聞いたのは

新聞紙に大きく記載されている

彼の姿だった。

髪も、雰囲気も変わっていたけど

その目は、確かに彼だった。

｢ 止まらぬ暴走！六波羅単代、抗争激化 ｣

新聞の大見出し記事と共に

〇〇 △△ - 23歳 班目 獅音 - 22歳 ‪✕‬‪✕‬ ◇◇ - 24歳 ・ ・ ・

嘘つき。

先輩命令とか言っちゃってさ

ずっと、同い年だったじゃん。笑

口を、目を

何回も瞬きして、確かめる。

その瞬間

彼の目に、確かに光が差していた。

まるで、誰にも届かない海の底から

鯨の子が、空へ向かって泣いたように。

『 鯨 の 子 』 読み切り