樋口隆哉
篠原真知子
樋口隆哉
樋口の問いに篠原真知子は一瞬、ぎょっと顔を引きつらせた。
それを見た樋口は「はぁ…」と深いため息を吐いた。
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
篠原真知子
篠原真知子
樋口隆哉
篠原真知子
篠原真知子
篠原真知子
篠原真知子
篠原真知子
樋口隆哉
篠原真知子
これが切っ掛けとなり、樋口は半年間付き合い続けた篠原真知子と別れた。
しかし、樋口は落胆しなかった。
代わりに樋口の胸の奥から込み上げた感情は怒りだった。
数週間後の深夜。
樋口は意を決したように深呼吸をすると、1枚の紙片と奇妙な像を持ち出した。
像は先日、旅行先の海外で手に入れた物だったが、
4つのしゃれこうべが頭に彫られたこけしのような、
棒状の不気味な物だった。
樋口はそれを目の前に置くと、紙に書かれた文字を機械的に読み上げた。
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
読み上げてから、樋口は置物を握り締め、何度も何度も奇妙な言葉を呟いた。
置物から感じるはずのない熱を掌に感じたが、
樋口は憑かれたかのように絶えず呪詛を唱え続けた。
後日、樋口が業務に励んでいると同僚の横田が声をかけてきた。
横田泰通
樋口隆哉
横田泰通
樋口隆哉
横田泰通
樋口隆哉
横田は拍子抜けしたような顔で、
横田泰通
樋口隆哉
樋口隆哉
横田泰通
横田泰通
横田泰通
樋口隆哉
樋口が経理課の真知子と交際していた過去を知る仲間はおらず、
彼の態度を妙に思われることはなかった。
井戸端会議をする主婦の如く噂好きの横田は、
篠原真知子の訃報よりそれを聞かせて反応を伺うのが楽しみだったらしい。
故に、樋口の反応が薄いとつまらなさそうに自分のデスクへと引き上げた。
帰宅後、樋口は夕刊に目を通した。
記事の見出しは小さかったが、横田が言っていた事故が載っていた。
ドライブ中の自家用車と対向車線を走っていたトラックが正面衝突し、
車に乗っていた男女2人が即死したという内容だった。
トラック運転手は軽傷で済んだという。
事故原因は自家用車を運転していた男の前方不注意らしいと書かれてあるが、
樋口隆哉にとってはどうでもいいことだった。
なにしろ、目的は果たせたのだから…。
やがて、全国の「しのはらまちこ」という名前の女性とその愛人が、
不慮の事故で死亡するケースが相次いで報道されても、
樋口隆哉が後悔の念に苛まれることはなかった。
3ヶ月後、樋口は居酒屋で1人の女性と知り合った。
樋口は最初、酩酊していた彼女を無視して酒を飲んでいたが、
酔いが回った相手から樋口に絡んできたのだ。
樋口は適当にあしらって店を出るつもりだったが、
相手が連城みゆきという女流作家と知ると驚愕した。
連城みゆきは仕事の愚痴を延々と樋口に漏らし続けた。
愛読者の樋口はひたすらその愚痴に耳を傾けた。
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
樋口が申し訳なさそうに言うと、みゆきは笑いながら焼酎をあおった。
顔が益々赤らんで、吐く息が酒臭い。
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
居酒屋を出た後、樋口はみゆきのためにタクシーを呼んだが、
車があるなら送って行ってほしいと、みゆきが駄々をこねた。
樋口が徒歩だと知ると渋々タクシーに乗ったが、
去り際にみゆきはおぼつかない手付きで住所を書いた紙を樋口に渡した。
樋口は気分が高揚したが、すぐに思い直して紙を破り捨てた。
篠原真知子との件があって以来、樋口は一種の女性不信に陥っていた。
樋口隆哉
そう割り切った樋口だったが、
数日後、連城みゆきの方が樋口の前に姿を現した。
人気作家・Kの誕生日パーティーに招待された連城みゆきの迎えに樋口は向かった。
K宅を出たみゆきは昔のように酩酊しており、樋口が支えてやらなければ、
自力に助手席に乗り込むのも困難だった。
午後11時過ぎ、山の中腹に住居を構えるK宅からの帰り道である道路は薄暗く、
視界も悪いため、樋口は極力安全運転を心掛けた。
みゆきが「ひくっ」と小さくしゃっくりした。
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
みゆきがまたしゃっくりすると、樋口は愉快そうに笑った。
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
樋口はまた笑ってから、みゆきにミネラルウォーターを手渡した。
みゆきは少し飲んでから、落ち着いたように深く息を吐いた。
数分間、車内に沈黙が流れた。
それを破るかのように、唐突にみゆきが口を開いた。
連城みゆき
酔いはかなり醒めたらしい。
樋口隆哉
樋口が逆に問い返すと、みゆきは少し悩んでから、
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口の表情が強張った。
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
突然、樋口は脳天から真っ赤な鉄串を突き刺されたようなショックを受けた。
前方を見詰める樋口の目が泳いでいるのも知らず、みゆきことまちこは淡々と語る。
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
樋口がいきなり訳の分からないことを言い始めたので、みゆきは怪訝な顔をした。
連城みゆき
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
連城みゆき
連城みゆき
車が左右に揺れ、みゆきが思わず声を上げた。
ハンドルを握る樋口の両手が小刻みに震えている。
やがて、ぐんぐんと速度が上がり、車は走りながら側面を岩肌にぶつけた。
不快な金属の擦れる音が響く。
みゆきの顔色が恐怖で青くなった。
連城みゆき
樋口隆哉
連城みゆき
樋口隆哉
樋口隆哉
樋口は今にも泣き出しそうな顔で呟いた。
ブレーキペダルを踏むが、車は一向に速度を落とさない。
荒れ狂うように走る車の中で、樋口は深く嘆き、後悔した。
激しい轟音とともに、車は急カーブのガードレールを突き破り、
2人を乗せたまま谷底へと真っ逆さまに落ちていった。
2020.06.28 作
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