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カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…カチ…
ヒュー…、ヒュー…、カヒュッ……ヒュー…
静まり返った一室
不規則な呼吸音と
秒針の駆動音が
俺の鼓膜を刺激する
…カチ…カチ…カチ…
…ヒューッ…ヒューッ………、ヒュッ…
叫び出したい衝動を必死に抑える
早朝の冷気が
手を、目を、体を
蝕んでいく
指先が悴む
心臓の鼓動が速さを増す
寒いのか……はたまた暑いのか……
日の出前の室内は薄暗く
1m先を見るのもやっとであった
不意に
両手にぐちゃぐちゃとした感覚を覚える
俺の両手は
まるでペンキバケツにでも 突っ込んだかのように
真っ赤に染まっていた____
これ……俺の、血?
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相も変わらず
最悪の目覚め
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ぎもぢわるい
俺は迫りくる吐き気を無理矢理飲み込み
あたりを見回した
そうか
俺はあの後……
昨日起こった出来事を
1つずつ振り返っていく
俺たちはようやく
3年間追い求めていた
実験施設の場所を
突き止めることに成功した
場所が分かったらこっちのもの
あとはそこへ乗り込んで……
あれ?
俺は今自分が 一人でいることに違和感を覚えた
確か俺はいるまと寝て__
隣へと視線を移す
あいつが、いない!
どこ行った?!
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彼の名を叫ぼうとしたその瞬間
俺の口は
背後から伸びた手によって塞がれた
「静かに」
耳元でそう囁かれ
俺は肩を跳ねさせる
!!
声の主を理解した俺が
こくこくと頷くと
彼は俺の正面へと移動した
いるま
彼、いるまはそう言って微笑む
そして彼は、俺の後ろを無言で指差した
振り向くとそこには
if
椅子の上で よだれを垂らしながら爆睡している
いふさんの姿があった
今にも床に転がり落ちそうでヒヤヒヤする
これは憶測だが
俺たちがこの部屋で寝落ちてしまったため
しばらく俺たちの様子を見てくれていた
といったところだろう
まったく、ありがたいことだ
俺はいるまに目で「理解した」と合図を送り
音を立てないようゆっくりと立ち上がる
それから俺は
いるまに促されるまま
その部屋から退室した
勿論、入り口付近で
いふさんへ感謝を込めた礼をしてから…
ザザザアアァァァ………
今日は土砂降りの雨のようだ
昨日はあんなに晴れていたというのに…
俺たちは大図書館をあとにして
近くの木陰に駆け込んだ
ひとまずずぶ濡れを回避する
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いるま
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俺はそう言って自分の頭をコツコツと叩く
低気圧、苦手だったよなこいつ
いるま
俺は彼の顔を凝視する
彼の顔色を窺うに
まだ平気そうだ
いるま
いるまは俺に聞き返した
彼は俺が毎日悪夢を見ているのを知っている
それに
昨日あんな事があったものだから
普段よりも俺の体調に敏感になるのは当然だ
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もう慣れたし、な
彼は何か言いたげに口を開いたが
いるま
素っ気ない反応で
この会話を終わらせたのだった
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いるま
俺の反応を確認した彼は
俺の右手を取り
転移魔法陣を展開する
目標座標は
昨日特定したあの実験施設だ
視界に靄がかかり始め
同時に嘔気が迫る
俺は思わず目を閉じた
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彼の毒づく声で瞼を上げる
眼前には痩せこけた荒野が広がっていた
さっきまでいた街とは 似ても似つかぬその景色に
俺は軽くショックを受ける
こんな場所がこの世にあったのか、と
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いるま
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そんな俺の様子を見た彼は
俺にそう問いかけた
彼から事前に受けた説明によると
転移魔法というものは かなりの魔力を使うため
移動距離次第では酔うこともあるらしい
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いるま
いるま
いるま
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いるま
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困惑する俺の心情を読み取った彼は
続けてこんな事を言う
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そんなのありかよ!!!
俺は叫びそうになったのを
喉元でぐっと堪える
開き直って 魔法を積極的に使うようになった彼には
驚かされてばかりだ
魔法のレベルが異次元すぎる
そうだ、こいつはおかしいんだ
そう思い直した俺は
ひとりでに頷いた
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なつはそんな俺を不思議そうに見つめる
ピカッ……ゴロゴロゴロ
雷が落ちる音でハッとした俺は
いるま
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いるま
いるま
そう言いながら
周辺を見回した
荒れ果てた荒野が
地平線まで広がっている
俺はそのまま後ろを振り返って…
いるま
驚いた
そこには
俺たちの頭上のはるか上まで続く 階段が待ち構えていたのだから
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いるま
俺は脇に抱えたいるまを ゆっくりと地面に下ろす
いるまの身体能力では
あの終わりの見えない階段を登ることは 不可能だった
そのため
俺が彼を階段の上まで 担ぐ羽目となったのである
身体強化魔法をかけ
俺の脚力を普段の数倍に跳ね上げたのは
彼には内緒だ
いるま
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俺たちは目の前に聳え立つ鉄塊を見上げた
外壁を見ただけでは
何階まであるのか見当もつかない
いるま
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不意にいるまが俺の手を握った
彼の手から振動が伝わってくる
震えてるのか
俺は彼を安心させるべく
その手を力強くぎゅっと握り返した
あの時と、立場逆転したな
始めて彼の家に連れてこられた あの日のことを思い出す
地下室に続く暗い階段で
恐怖で叫び出しそうな俺の手を優しく包み
導いてくれたいるま
俺はこの3年間
幾度となく彼の温もりに助けられてきた
当時の俺にとって大きかったそれは
今俺の手の中で微かに震えている
今度は俺が
こいつを助ける番だ
今度“こそ”救ってみせる