叶慧
君がなんだかね、弟に似てたから
叶慧
放っておけなかったの
糸師凛
お前弟なんて居たのかよ
叶慧
うん、自分からは誰にも言ってないけどね
叶慧
誰よりも多分、大切な人の一人だった
叶慧
大好きな弟だった
糸師凛
……
叶慧
その弟、三年くらい前に交通事故で死んじゃったんだ
叶慧
すごいびっくりしたよ
叶慧
その弟にね、凛ちゃんが少し似てて
叶慧
重ねちゃったんだ
淡々と言葉にすれば、より自分が自分勝手だったかがよくわかる
糸師凛
弟なんて、そんなもんだ
叶慧
え?
糸師凛
姉貴のお前が特殊なだけなんだよ
叶慧
……私、変なのかな
糸師凛
……
糸師凛
ここだけは良い意味で変だ
言い方に、なんだか含みがあった
叶慧
(凛ちゃんも、何か思う事があるのかな)
でも、私にそれを聞く勇気はない
叶慧
(聞くのは、今じゃない気がするから)
叶慧
ほんと、ごめんね
叶慧
今までも全部迷惑だったのに
冷え切る手を握り込んだ
糸師凛
……
糸師凛
……何泣いてんだよ
叶慧
……えっ?
自分の頬に触れると、僅かに水の感覚がした
叶慧
あれ?
叶慧
なんで泣いてるんだろうね……
自分でも訳が分からない
糸師凛
自分の身に起こってる事くらい理解しろ
叶慧
……うん
叶慧
ごめんね……っ
糸師凛
……世話のかかる奴だな
彼の冷たい指が、私の涙を拭った
冷たいけれど、どこか温かく感じた
叶慧
優しいね、凛ちゃんは
糸師凛
……どこが優しいんだ
糸師凛
お前の方がよっぽどお人好しだろ
叶慧
ううん、凛ちゃんも優しいよ
叶慧
誰よりも優しい
糸師凛
……そうかよ
叶慧
私って、まだ凛ちゃんの近くに居てもいいのかな
糸師凛
駄目だって言っても、お前は寄ってくんだろ
叶慧
え、
叶慧
いやさすがに人の気持くらい考えられるよ!
叶慧
何せ十八歳なわけだし!
糸師凛
……
糸師凛
……今更否定なんてしねえよ
叶慧
ん?
糸師凛
お前はいつも俺の隣りにいろ
叶慧
!?
叶慧
凛ちゃんの貴重なデレだ!
糸師凛
あ?
叶慧
私はツンの凛ちゃんも好きだけど、やっぱりデレが好きかも!
糸師凛
何言ってんだよ
私が思うより、彼にちゃんと大人なところはある
もう少し対等に見て
頼ってみても、良いのかもしれない
明日、美香と中村くんに良い報告ができそうだ
次の日
叶慧
おはよー!
美香
どうだったの!?
中村
そうだ!まずそれ聞かせろ!
叶慧
二人ともせっかちだね!?
叶慧
凛ちゃんとは話したよ
美香
で?
叶慧
仲直りした……と思う
中村
なんだよその自信のなさ
叶慧
少なくとも私はその気でいるんだけど……
美香
じゃあ仲直りしたわよ
中村
良かった……
叶慧
ごめんね心配かけて
中村
仲直りしたならオールオーケーだよ
美香
うちらも報われたし
叶慧
ありがとね
叶慧
あと凛ちゃん優しかったよ
美香
だって叶慧あんまり元気なさげだったじゃん
叶慧
うん……
叶慧
あとなんかあの時泣いちゃってさ
中村
なんでだよ笑
叶慧
安心しちゃったのか緊張してたのか……
美香
凛くんも気を使うもんなのよ
中村
卒業前に仲直りできてよかったな
美香
しかも受験前
叶慧
今日からまた凛ちゃんのところ通いに行くよ!
美香
その意気よ!
中村
もう喧嘩すんなよな
叶慧
もちろんだよ!
なんとか関係を修復できて本当に良かった
しかし、この時の私は気づいていなかった
この後の受験でもがき苦しむことになることを