琴音
「私はもうじき死ぬんだね」
「そうだな」
太郎は肯定し、それを聞いた花子は苦笑した。
「否定して欲しかったんだけど……まあ、いいか。ねえ、私が死んでしまったらさ、私の遺体ってどうなるのかな?」
「お前の遺体は回収され、解剖されるだろう。死後、すぐには無理だが、一週間以内には必ず葬儀が行われるはずだ」
「そっか。私の身体がもう限界だってことは、分かっていたつもりだったけど……まさか、ここまでとはね」
自嘲気味に笑うと、私は窓の外を見た。外の風景はいつも通りの見慣れたものだけど、その中にある人の営みはとても小さく見える。こんな小さな世界の中でさえ、私達は命を燃やして生きているんだと思うと不思議な気持ちだ。
「ねえ、先生」
ベッドの隣に立つ白衣の男性に声をかけると、彼は首を傾げた。
「どうしましたか?」
「私が死んだら、ここの皆って悲しんでくれますかね? それとも、また新しい被験者が来るまで待つだけですかね?」
すると医師の顔色が変わった。少し怒ったような表情を浮かべながら口を開く。
「馬鹿なことを言わないでください! あなたは大切な患者さんの一人ですし、それに何よりも、僕にとっては娘のような存在だったんですから!」
そう言って俯く彼の姿を見て、思わず笑ってしまった。やっぱり、この人は良い医者なんだなって思うと同時に、ちょっと申し訳なくなる。
琴音
『名前』というものはとても大事なものだと思います。私の名前は『愛奈』(あいな)です。親からの愛情を感じられますし、また自分にとっても誇らしい名前だと思っています。
琴音
「……おぉう、マジかよ。これ、ヤバくね?」
薄暗い部屋の中で、スマホの明かりだけが煌々と灯っている。画面に表示されているのは、SNSアプリの投稿欄だ。『ついに発見!これが俺の能力!』とかいうコメントとともにアップされた画像を見てみると、そこには青白く輝く結晶体が写っていた。大きさは小指の第一関節くらいか。どう見てもただの石ころにしか見えないけど……。
画面の端の方を見ると、動画サイトへのリンクがあった。開いてみてみると、さっきの写真と同じものが映し出されて、能力の解説が始まった。
それによると、これは石ではなくダイヤモンドらしい。ダイヤモンドを生成する能力は珍しいらしく、かなり価値があるんだとか。
俺達は現在、その能力を使った宝石店を経営している。と言っても、客はほとんど来ないのであまり儲かってはいない。
ちなみに、この世界における通貨単位はゴールドだ。金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚のレートとなっている。まあ、俺はそんなもん使わないけどな! そういえば、今朝はいつものように早く起きたため、まだみんな寝てるようだ。なので、今は朝食の準備をしているところだが……
「うーん、食材も少なくなってきたしそろそろ買い足さないとなぁ」
冷蔵庫の中を見ながら呟く。この世界の家電製品は電気の代わりに魔力を使って動くようになっているみたいだから、電気代もかからないしすごく便利だよなぁ……なんてことを考えながら、冷凍庫を開ける。そこにはぎっしりとアイスクリームが入っていた。バニラ味、チョコチップ入り、イチゴミルク味、抹茶味、レモンシャーベットなどなど様々な種類があった。僕はその中から、一番手前にあったチョコレートアイスを取り出して食べることにした。スプーンなんか使ってられないよ。だってこんなにも美味しいんだもん!
「う~ん♪ やっぱり甘いものは最高だね!」
そう言って再び食べようとする僕
薄暗い部屋の中で、スマホの明かりだけが煌々と灯っている。画面に表示されているのは、SNSアプリの投稿欄だ。『ついに発見!これが俺の能力!』とかいうコメントとともにアップされた画像を見てみると、そこには青白く輝く結晶体が写っていた。大きさは小指の第一関節くらいか。どう見てもただの石ころにしか見えないけど……。
画面の端の方を見ると、動画サイトへのリンクがあった。開いてみてみると、さっきの写真と同じものが映し出されて、能力の解説が始まった。
それによると、これは石ではなくダイヤモンドらしい。ダイヤモンドを生成する能力は珍しいらしく、かなり価値があるんだとか。
俺達は現在、その能力を使った宝石店を経営している。と言っても、客はほとんど来ないのであまり儲かってはいない。
ちなみに、この世界における通貨単位はゴールドだ。金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚のレートとなっている。まあ、俺はそんなもん使わないけどな! そういえば、今朝はいつものように早く起きたため、まだみんな寝てるようだ。なので、今は朝食の準備をしているところだが……
「うーん、食材も少なくなってきたしそろそろ買い足さないとなぁ」
冷蔵庫の中を見ながら呟く。この世界の家電製品は電気の代わりに魔力を使って動くようになっているみたいだから、電気代もかからないしすごく便利だよなぁ……なんてことを考えながら、冷凍庫を開ける。そこにはぎっしりとアイスクリームが入っていた。バニラ味、チョコチップ入り、イチゴミルク味、抹茶味、レモンシャーベットなどなど様々な種類があった。僕はその中から、一番手前にあったチョコレートアイスを取り出して食べることにした。スプーンなんか使ってられないよ。だってこんなにも美味しいんだもん!
「う~ん♪ やっぱり甘いものは最高だね!」
そう言って再び食べようとする僕
琴音
「自分のことなのに何もかもわからないなんて……。これじゃあ日常生活すらままならないんじゃありませんか?」
「はい……」
「困ったわねぇ……」
本当に困っていそうな様子の女医に対して申し訳なさそうにする男だったが、ふと何かを思い出したように顔を上げる。
「あの!」
「何でしょうか?」
「俺を助けてくれた女の子がいるはずなんです!その子ならきっと知っています!」
「えぇっと、それってもしかして赤い服を着ていた子かしら?」
「そうです!」
「その子とはどこで出会ったのかしら?」
「駅のホームで、突然目の前に現れたんだ。それで……」
「はい……」
「困ったわねぇ……」
本当に困っていそうな様子の女医に対して申し訳なさそうにする男だったが、ふと何かを思い出したように顔を上げる。
「あの!」
「何でしょうか?」
「俺を助けてくれた女の子がいるはずなんです!その子ならきっと知っています!」
「えぇっと、それってもしかして赤い服を着ていた子かしら?」
「そうです!」
「その子とはどこで出会ったのかしら?」
「駅のホームで、突然目の前に現れたんだ。それで……」
琴音
私達のような裏社会の人間はどうだろう? 例えば、私の所属組織、『黒猫』
彼ら彼女らは、その身を穢し、堕ちることで力を得る。
これは、そんな組織に所属する私達の物語だ。……………………
私は今、暗い夜道を走っている。
時刻は深夜0時を過ぎている頃か、月明かりもなく、ただ暗闇だけが辺りを支配していた。
時折後ろを振り返りながら走る私の背後には、追っ手の姿はない。撒いたのかと思いたいところだが、そうではないことを私は知っていた。
私が走り始めてから少しして、突如背後に現れた気配。
音も無く、まるで最初からそこに居たかの如く現れた追跡者は、間違いなく私を追ってきている。
そしてその追跡者が誰なのかということも、また明白な事実だっ
彼ら彼女らは、その身を穢し、堕ちることで力を得る。
これは、そんな組織に所属する私達の物語だ。……………………
私は今、暗い夜道を走っている。
時刻は深夜0時を過ぎている頃か、月明かりもなく、ただ暗闇だけが辺りを支配していた。
時折後ろを振り返りながら走る私の背後には、追っ手の姿はない。撒いたのかと思いたいところだが、そうではないことを私は知っていた。
私が走り始めてから少しして、突如背後に現れた気配。
音も無く、まるで最初からそこに居たかの如く現れた追跡者は、間違いなく私を追ってきている。
そしてその追跡者が誰なのかということも、また明白な事実だっ
琴音
「それでは、こちらへ」
案内されたのは、巨大なドーム型の施設だった。天井は高く吹き抜けになっており、床には青く輝く幾何学模様が描かれている。壁際には無数の本棚が設置されていて、そこかしこに研究員の姿が見える。まるで図書館のような光景だなと思った。
「あの……ここは?」
恐る恐る尋ねると、女性は微笑んで答えてくれた。
「ここは『禁書庫』です。ここでは過去の記録について研究が行われています」
「過去の研究? 今よりも昔のことを調べるんですか?」
「はい。あなた方の世界がどのようにして誕生したのかを知ることは、我々の世界にとって非常に重要なことですから」
案内されたのは、巨大なドーム型の施設だった。天井は高く吹き抜けになっており、床には青く輝く幾何学模様が描かれている。壁際には無数の本棚が設置されていて、そこかしこに研究員の姿が見える。まるで図書館のような光景だなと思った。
「あの……ここは?」
恐る恐る尋ねると、女性は微笑んで答えてくれた。
「ここは『禁書庫』です。ここでは過去の記録について研究が行われています」
「過去の研究? 今よりも昔のことを調べるんですか?」
「はい。あなた方の世界がどのようにして誕生したのかを知ることは、我々の世界にとって非常に重要なことですから」
琴音
最初は何かの間違いかと思ったけど何度見直してもそこに書かれている文字が変わる事はなかったし、メモの裏には当選した事を確定とする為に必要な書類なんかも書かれていたので疑いようがなかった。要するにこれは本当の事で、僕は本当に当選してしまっていたのだ……! まあ、当選と言っても所詮宝くじだし、当たるわけがないと思っていたんだけどね? それなのにまさかこんな形で人生初の大当たりを経験する事になるとは思わなかったよ。
琴音
彼はかつて「錬金術師」と呼ばれていた。いや、そう呼ばれることもあったと言った方が正確か。なぜならば、今やその呼び名を使うものは誰もいないからだ。
レガートがそれを知るのはずっと後のことだし、ましてそれを口にするような機会など訪れなかったろう。
さて、レガートがどこから来たのかと言えば、実のところよくわからない。というのも、彼自身にも自分がいつ生まれ、どこに居たかの記憶がないからである。
だが、どういった経緯であれ、彼が生まれたときからそこは地獄のような場所であった。
なにせここは、人間にとっての最底辺だ。金もなく、食うものもろくになく、生きるための最低限すら満たせないような人間が溢れている。ここの住人たちは皆、自分以外の誰かに食い物にされた奴らばかりである。
だからといって同情すべき理由はない。他人に迷惑をかけようが、他人の物を盗もうが、あるいは人殺しだろうが、自分のやりたいようにやるのがここでは当たり前なのだ。
「……くそっ!」
レガートは自分の足下に転がっていたものを蹴り飛ばした。それは壁にぶつかり、ぐしゃりと潰れる。中身が飛び散って床に広がった。赤い水溜まりが出来上がる。それを気にすることなく、彼は部屋を出た。廊下に出るとそこは血の海だった。見渡す限り死体だらけだ。それも全て自分の仲間の死体ばかり。吐き気がこみ上げるがなんとか耐える。ここで嘔吐したら自分が惨めになると思ったからだ。それにしても何故こうなったのか分からない。ただ分かることは自分はもう逃げられないということだけだった。そう思った時、背後から声をかけられた。
「よお。元気か?」
振り向くとそこには金髪の少女がいた。名前は確か……
「イリス・ヴァンフルール……」
「ああ、そうだぜ。お前さんの仲間を殺しちまったのは私だ」
そう言うとイリスは笑った。それを見てレガートの中で何かが崩れ落ちた。目の前にいるのはこの地獄を生み出した張本人。つまり自分を追い詰めた人物なのだ。
「貴様ぁ! よくも俺達を!」
「うるせえな。お前らみたいな雑魚じゃ私は殺せないんだよ。だからさっさと諦めろ」
「ふざけるな! 俺は生きるんだ! こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
「はあ? 何言ってんのあんた? いい加減現実を見ようよ。どうやったって無理なんだ
レガートがそれを知るのはずっと後のことだし、ましてそれを口にするような機会など訪れなかったろう。
さて、レガートがどこから来たのかと言えば、実のところよくわからない。というのも、彼自身にも自分がいつ生まれ、どこに居たかの記憶がないからである。
だが、どういった経緯であれ、彼が生まれたときからそこは地獄のような場所であった。
なにせここは、人間にとっての最底辺だ。金もなく、食うものもろくになく、生きるための最低限すら満たせないような人間が溢れている。ここの住人たちは皆、自分以外の誰かに食い物にされた奴らばかりである。
だからといって同情すべき理由はない。他人に迷惑をかけようが、他人の物を盗もうが、あるいは人殺しだろうが、自分のやりたいようにやるのがここでは当たり前なのだ。
「……くそっ!」
レガートは自分の足下に転がっていたものを蹴り飛ばした。それは壁にぶつかり、ぐしゃりと潰れる。中身が飛び散って床に広がった。赤い水溜まりが出来上がる。それを気にすることなく、彼は部屋を出た。廊下に出るとそこは血の海だった。見渡す限り死体だらけだ。それも全て自分の仲間の死体ばかり。吐き気がこみ上げるがなんとか耐える。ここで嘔吐したら自分が惨めになると思ったからだ。それにしても何故こうなったのか分からない。ただ分かることは自分はもう逃げられないということだけだった。そう思った時、背後から声をかけられた。
「よお。元気か?」
振り向くとそこには金髪の少女がいた。名前は確か……
「イリス・ヴァンフルール……」
「ああ、そうだぜ。お前さんの仲間を殺しちまったのは私だ」
そう言うとイリスは笑った。それを見てレガートの中で何かが崩れ落ちた。目の前にいるのはこの地獄を生み出した張本人。つまり自分を追い詰めた人物なのだ。
「貴様ぁ! よくも俺達を!」
「うるせえな。お前らみたいな雑魚じゃ私は殺せないんだよ。だからさっさと諦めろ」
「ふざけるな! 俺は生きるんだ! こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
「はあ? 何言ってんのあんた? いい加減現実を見ようよ。どうやったって無理なんだ
琴音
「あー!くそっ!何なんだよアイツ!」
「まぁそう怒んなって。もうすぐ着くんだろ?」
「ああ、そうだよ!でもなんなんだあのクソ女!初対面の癖して偉そうなこと言いやがって……!」
「ハハッ!お前気に入られてんじゃんか。」
「うるせぇぞダボ!!」
男二人は、今にも殴り合いが始まりそうな勢いで言い争っていた。片方は背の低い小太りの男だ。もう片方は長身痩躯な眼鏡をかけた青年である。二人とも息切れし、肩が激しく上下していた。
「だから、俺はそんなこと知らねえって言ってんだろ! 何度言ったらわかるんだよ!」
「嘘をつくんじゃあありませんよ! 貴方が知らないはずがないでしょう!?」
「本当だっての……ッ!!」
「いい加減にしなさいっ!! どうしてこんなことになったんですか!!」
「い、いえ……ですから、これは我々にも予想外のことでして……」
「未知のウィルスだって? そんな言い訳が通ると思ってんのか!」
「お言葉ですが! この施設に保管されていたウィルスは確かに我々の知らないものでしたが、それでもこの施設の設備を使えば解析できないことではありませんし、何より我々にはワクチンを作ることができます!」
「ならさっさと作れよ!」
「今やっています! だからこうして現場検証をしているんじゃありませんか!」
「まぁそう怒んなって。もうすぐ着くんだろ?」
「ああ、そうだよ!でもなんなんだあのクソ女!初対面の癖して偉そうなこと言いやがって……!」
「ハハッ!お前気に入られてんじゃんか。」
「うるせぇぞダボ!!」
男二人は、今にも殴り合いが始まりそうな勢いで言い争っていた。片方は背の低い小太りの男だ。もう片方は長身痩躯な眼鏡をかけた青年である。二人とも息切れし、肩が激しく上下していた。
「だから、俺はそんなこと知らねえって言ってんだろ! 何度言ったらわかるんだよ!」
「嘘をつくんじゃあありませんよ! 貴方が知らないはずがないでしょう!?」
「本当だっての……ッ!!」
「いい加減にしなさいっ!! どうしてこんなことになったんですか!!」
「い、いえ……ですから、これは我々にも予想外のことでして……」
「未知のウィルスだって? そんな言い訳が通ると思ってんのか!」
「お言葉ですが! この施設に保管されていたウィルスは確かに我々の知らないものでしたが、それでもこの施設の設備を使えば解析できないことではありませんし、何より我々にはワクチンを作ることができます!」
「ならさっさと作れよ!」
「今やっています! だからこうして現場検証をしているんじゃありませんか!」
琴音
ある男が実験台に選ばれた。男は妻を愛していた。彼は妻の為ならどんな犠牲も厭わなかったし、何を犠牲にしても構いはしなかった。妻は彼に献身的に尽くしてくれた。彼の愛に応えてくれた。だから彼は幸せだった。彼は自分が死ぬことを望まなかった。けれど、彼は妻と生きることを望んだ。彼にとって死とは愛する者を失うことだった。
故に、彼は願ったのだ。死にたくないと。だが、それを叶えるだけの力は、男にはない。それでも尚、願い続けた。そうして、男の体は、死んだ。彼の魂だけが残った。彼の肉体はもはや動くことはなかった。ただそこに在るのは、魂のみ。彼の意識は薄れゆくことさえなく、ずっと留まり続ける。彼が愛する者が死ぬまで。永遠に。
そんな時だ。彼の前に、不思議な女性が姿を現したのは。彼女は言った。私と一緒に来ないか? と。彼はそれに抗うことなど出来なかった。否、出来るはずもなかった。彼の心は彼女の手の内にあったのだから。そうして、彼は彼女の仲間となった。彼女と二人で過ごす時間は楽しかった。彼女と居る間は、彼を縛り付けるあの女のことを忘れられた。彼女が居れば何も要らなかった。それなのに……どうしてだろう。いつの間にか、またあの女のことばかり考えている自分に気付いた。そして、その度に思うのだ。もう二度と会えないのだという事実が身に染みて。
故に、彼は願ったのだ。死にたくないと。だが、それを叶えるだけの力は、男にはない。それでも尚、願い続けた。そうして、男の体は、死んだ。彼の魂だけが残った。彼の肉体はもはや動くことはなかった。ただそこに在るのは、魂のみ。彼の意識は薄れゆくことさえなく、ずっと留まり続ける。彼が愛する者が死ぬまで。永遠に。
そんな時だ。彼の前に、不思議な女性が姿を現したのは。彼女は言った。私と一緒に来ないか? と。彼はそれに抗うことなど出来なかった。否、出来るはずもなかった。彼の心は彼女の手の内にあったのだから。そうして、彼は彼女の仲間となった。彼女と二人で過ごす時間は楽しかった。彼女と居る間は、彼を縛り付けるあの女のことを忘れられた。彼女が居れば何も要らなかった。それなのに……どうしてだろう。いつの間にか、またあの女のことばかり考えている自分に気付いた。そして、その度に思うのだ。もう二度と会えないのだという事実が身に染みて。
琴音
『これより!第1回、新人冒険者交流会を始めます!』
マイク越しの声に会場内は歓声に包まれました。今日は新人冒険者たちの交流会で、私たちのような駆けだしの冒険者が経験を積んでいくための大切なイベントです。
参加者は全部で50名ほどでしょうか。私を含めて若い方ばかりですね。皆さん緊張していらっしゃるようですし、ここは私が一つ……あぁいえ、なんでもありませんよ?えぇっと……そう!お手洗いに行きたい方はいますか?……はい。いないようであれば早速始めましょう。
まず初めに、皆さんに確認したいことがあります。
ここにいるということは、既にご存知とは思いますが、このゲームの目的はただ1つ。「全員の死」です。
先程も言った通り、このゲームの参加条件はたったひとつ。「死ぬこと」それだけです。
皆さんは、今自分がどんな状況に置かれているのか、理解していますね? 自分の足下に広がる血溜まりを見て、貴方は自分の命が失われていく感覚を覚えているでしょう。
あぁ、大丈夫ですよ。心配することはありません。これは単なる事故です。
えぇそうですとも! 貴方は何一つ悪いことなどしていないのです。だから安心して下さい。これから私が行うことは、全て貴方の為なんですから……
それじゃあ始めましょうか―――貴方の命を奪う、最後の儀式を
マイク越しの声に会場内は歓声に包まれました。今日は新人冒険者たちの交流会で、私たちのような駆けだしの冒険者が経験を積んでいくための大切なイベントです。
参加者は全部で50名ほどでしょうか。私を含めて若い方ばかりですね。皆さん緊張していらっしゃるようですし、ここは私が一つ……あぁいえ、なんでもありませんよ?えぇっと……そう!お手洗いに行きたい方はいますか?……はい。いないようであれば早速始めましょう。
まず初めに、皆さんに確認したいことがあります。
ここにいるということは、既にご存知とは思いますが、このゲームの目的はただ1つ。「全員の死」です。
先程も言った通り、このゲームの参加条件はたったひとつ。「死ぬこと」それだけです。
皆さんは、今自分がどんな状況に置かれているのか、理解していますね? 自分の足下に広がる血溜まりを見て、貴方は自分の命が失われていく感覚を覚えているでしょう。
あぁ、大丈夫ですよ。心配することはありません。これは単なる事故です。
えぇそうですとも! 貴方は何一つ悪いことなどしていないのです。だから安心して下さい。これから私が行うことは、全て貴方の為なんですから……
それじゃあ始めましょうか―――貴方の命を奪う、最後の儀式を
琴音
彼らにとっての死とは即ち「人の形を失うこと」だった。
琴音
「ねぇ!ねぇってば!」
「ん?」
肩を強く揺すられ目を覚ます。寝ぼけ眼を開くとそこには一人の少女が居た。綺麗な金髪に整った顔立ち、まるで人形のような容姿をしたその子は俺の顔を見るなり顔を輝かせた
「やっと起きた……もうお昼だよ?早くしないと遅刻しちゃうよ」
「あぁ、ごめんごめん……」
俺はベッドから起き上がると軽く伸びをする。窓から差し込む光は既に真上にあり、時計を見ると既に11時を過ぎていた
「ほらっ、着替えてご飯食べよう?」
少女に手を引っ張られながら走る。目の前に見えるのは、先ほどまでいた廃工場ではなく、煌びやかな夜の街だ。
後ろを振り返ると、そこにはもう何もなく、ただ暗闇が広がっているだけだった。どうやらあの少女はこの世界からはじき出されたらしい。
「ここは……?」
「えっとねー! お姉ちゃんを助けてくれる場所!」
そう言うと、少女は再び僕の手を引いて走り出す。今度はどこに連れて行かれるかわからない恐怖など微塵もなかった
「ん?」
肩を強く揺すられ目を覚ます。寝ぼけ眼を開くとそこには一人の少女が居た。綺麗な金髪に整った顔立ち、まるで人形のような容姿をしたその子は俺の顔を見るなり顔を輝かせた
「やっと起きた……もうお昼だよ?早くしないと遅刻しちゃうよ」
「あぁ、ごめんごめん……」
俺はベッドから起き上がると軽く伸びをする。窓から差し込む光は既に真上にあり、時計を見ると既に11時を過ぎていた
「ほらっ、着替えてご飯食べよう?」
少女に手を引っ張られながら走る。目の前に見えるのは、先ほどまでいた廃工場ではなく、煌びやかな夜の街だ。
後ろを振り返ると、そこにはもう何もなく、ただ暗闇が広がっているだけだった。どうやらあの少女はこの世界からはじき出されたらしい。
「ここは……?」
「えっとねー! お姉ちゃんを助けてくれる場所!」
そう言うと、少女は再び僕の手を引いて走り出す。今度はどこに連れて行かれるかわからない恐怖など微塵もなかった
琴音
物心ついたときには両親はおらず、孤児院で育った。そこでの生活は決して裕福とは言い難かったし、なにより俺は生まれつき身体が弱かった。よく熱を出して寝込んでいたせいか、あまり友達と呼べる存在はいなかったように思う。それでも俺は幸せだった。親はいないけれど優しい院長先生がいてくれたし、それに何よりも、俺には兄弟子にあたる兄貴分の存在があったからだ。名前はアルヴィン。俺と同い年の男の子だ。彼はいつも明るくて元気で、病気がちな俺と違って健康体だったから、ちょっと嫉妬することもあったけど……とても頼りになる自慢の兄貴分だった。だから俺にとって、彼と過ごした時間はかけがえのないものだったんだ。だけどそんな幸せな時間にも終わりが来た。俺たちは16歳の誕生日を迎えた日、突然現れた男に誘拐されたのだ。
それから10年間、俺達は地獄のような苦しみの中で暮らしてきた。食事は常に残飯同然のものばかりだし、まともに風呂に入ることもできないし、毎日のように暴力を振るわれた。時には死んだ方がマシだと思うような拷問を受けたこともあったっけ。でも不思議と死にたいとは一度も思わなかったんだよなぁ。だって死ぬときは必ず一緒にって約束してたもんね?そうだよねぇ?兄さん♪
それから10年間、俺達は地獄のような苦しみの中で暮らしてきた。食事は常に残飯同然のものばかりだし、まともに風呂に入ることもできないし、毎日のように暴力を振るわれた。時には死んだ方がマシだと思うような拷問を受けたこともあったっけ。でも不思議と死にたいとは一度も思わなかったんだよなぁ。だって死ぬときは必ず一緒にって約束してたもんね?そうだよねぇ?兄さん♪
琴音
「おはようございます、マスター」
無機質な声で話しかけてきたのは自分と同じ年頃の少女だ。白髪碧眼の美少女と言っていい容貌だが表情はなく、まるで人形のような印象を受ける。
「えっと……君は誰なんだい?」
「私はアクセサリNo.368。識別名『リーベ』です」
「アクセサリって何のことなんだい?それに僕の名前は……」
そこまで言ってようやく気づく。自分の名前が思い出せないことに。自分がどういう人物なのか、何をしていたかなどの知識はあるのに、名前だけがすっぽりと抜け落ちているのだ。まるで、自分以外の誰かの記憶を植え付けられたように……?
『……』
『どうしました?』
『いや、なんでもないよ。少し考え事をしていただけでね』
『そうですか』
ふぅっと一息吐く。こんなことを他人に相談していいのかわからないし、そもそも信じてもらえるかどうかすら怪しい話だ。だがそれでも、今の僕にとっては唯一の希望だった。たとえ嘘であっても、何かしらの解決策を示してくれるかもしれない。そんな僅かな期待を抱いて僕は口を開いた。
無機質な声で話しかけてきたのは自分と同じ年頃の少女だ。白髪碧眼の美少女と言っていい容貌だが表情はなく、まるで人形のような印象を受ける。
「えっと……君は誰なんだい?」
「私はアクセサリNo.368。識別名『リーベ』です」
「アクセサリって何のことなんだい?それに僕の名前は……」
そこまで言ってようやく気づく。自分の名前が思い出せないことに。自分がどういう人物なのか、何をしていたかなどの知識はあるのに、名前だけがすっぽりと抜け落ちているのだ。まるで、自分以外の誰かの記憶を植え付けられたように……?
『……』
『どうしました?』
『いや、なんでもないよ。少し考え事をしていただけでね』
『そうですか』
ふぅっと一息吐く。こんなことを他人に相談していいのかわからないし、そもそも信じてもらえるかどうかすら怪しい話だ。だがそれでも、今の僕にとっては唯一の希望だった。たとえ嘘であっても、何かしらの解決策を示してくれるかもしれない。そんな僅かな期待を抱いて僕は口を開いた。