琴音
「私はもうじき死ぬんだね」
「そうだな」
太郎は肯定し、それを聞いた花子は苦笑した。
「否定して欲しかったんだけど……まあ、いいか。ねえ、私が死んでしまったらさ、私の遺体ってどうなるのかな?」
「お前の遺体は回収され、解剖されるだろう。死後、すぐには無理だが、一週間以内には必ず葬儀が行われるはずだ」
「そっか。私の身体がもう限界だってことは、分かっていたつもりだったけど……まさか、ここまでとはね」
自嘲気味に笑うと、私は窓の外を見た。外の風景はいつも通りの見慣れたものだけど、その中にある人の営みはとても小さく見える。こんな小さな世界の中でさえ、私達は命を燃やして生きているんだと思うと不思議な気持ちだ。
「ねえ、先生」
ベッドの隣に立つ白衣の男性に声をかけると、彼は首を傾げた。
「どうしましたか?」
「私が死んだら、ここの皆って悲しんでくれますかね? それとも、また新しい被験者が来るまで待つだけですかね?」
すると医師の顔色が変わった。少し怒ったような表情を浮かべながら口を開く。
「馬鹿なことを言わないでください! あなたは大切な患者さんの一人ですし、それに何よりも、僕にとっては娘のような存在だったんですから!」
そう言って俯く彼の姿を見て、思わず笑ってしまった。やっぱり、この人は良い医者なんだなって思うと同時に、ちょっと申し訳なくなる。
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