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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

美月

「俺の死を以て、お前らへの宣戦布告とする!」
これは復讐ではない。彼が生きるためのただ一つの方法だった。
「いってぇ……」
痛みを訴える脇腹を押さえながら、男はふらついた足取りで歩く。時折壁に手をつきながら、それでも前に進むことをやめなかった。
男の名は黒須左京。つい先程まではごく普通の大学生だったが、今は見る影もなくボロボロになっている。何故なら――
「何なんだよあの化け物!あんなのいるなんて聞いてねぇぞ!?」
そう叫びながら走る彼の背後からは何かが迫ってきていた。
それは一見すると黒い塊にしか見えなかったが、よく見ると人の形をしていることが解った。大きさは子供の背丈ほどもあり、手足は細くしなやかなものだった。まるで猫のようなフォルムをしている。その体の表面には毛のようなものはなく、つるりとしていて光沢があった。頭にあたる部分には目と思われる器官が存在していて、そこから赤い光が発せられていた。その光は周囲を照らしているわけではなく、また光源があるわけでもないようだ。
だが不思議なことに、それを見ると不思議と目が離せなくなるような感覚を覚えた。
『……』
それに近づき、手を伸ばすと、その物体はぴくりと動いたように見えた。
「えっ?」
触れようとするとその物体は素早く動き始め、俺の手から逃れてしまった。どうやらこちらを認識しているらしい。
『……!』
その物体は再びぴたりと止まり、今度は威嚇するように赤く発光を強めた。
「うわ!」

美月


***
翌日、教室に入った俺を出迎えたのは、いつも通りの光景だった。クラスメイトたちは談笑しながら席についている。昨日、あんなことがあったとは思えないほど、平和な風景だ。
俺は自分の机の上に鞄を置いて、椅子を引く。その時、ふっと香った匂いに違和感を覚えた。なんだ? いぶかしんで、視線を落とす。そこには、一輪の花が置かれていた。
薔薇だ。赤黒い花びらを広げて咲いている。……どうしてこんなものが、うちのクラスにあるんだろう。気味が悪い。誰かの悪戯かとも思ったけど、周りを見てみてもそれらしい動きはない。
そうこう考えている間にチャイムが鳴り、担任の教師が入ってくる。彼は教卓の前に立つなり、言った。
「お前らに報告がある」
「なんだい?」
「何? 」
「俺は今日死ぬことになった。だから俺の代わりに二人に仕事を頼みたいんだ」
「え!? 」
「そんな……」

美月

これは、死を恐れぬ咎人の物語である。
『Please select your name』
(あなたのお名前を入力してください)
『Sign in to the GAME!』
(ゲームを開始しますか?)
YES/NO
『Yes.Game Start!!』
************
「……以上が概要です」
「ふむ……つまりは、その死って奴を手に入れることが出来れば不老長寿になれるし、死んだとしても確実に復活できるっていうことか?」
「えぇそうです。もっとも、それを実現する為にはこの『霊薬』が必要になりますけどね……」
「……何だこれ?ただの水にしか見えねぇぞ?」
「見た目はそうでしょう。しかしこの水こそが、我々が追い求めてきた夢なんですよ!この水を飲めば、あなたは不滅の存在となりえるのです!」
「そんなうまい話があるわけ―――」
「信じませんか?ならば試してみましょう!」
そう言って目の前の女は注射器を取り出した。私はそれを見つめながら、女の言葉を反駁していた。
(信じる訳がない。そんなものがあるならとっくに使っているさ)
「…………」
女は何も言わずにこちらを見るだけだった。
「……何をするつもりだ?」

美月

『いいぞ~もっと騒げ~!』
時刻は既に22時を過ぎていたにもかかわらず、大学のサークル棟の一室からは楽しげな雰囲気が溢れていた。
というのも今日は一月最後の金曜日。つまり明日明後日の二日酔いさえ乗り切れば休みなのだから、そりゃテンションも上がるというものだろう。
「……ん?」
だがそんな中、一人静かに壁際の席に座って飲んでいる男がいる。彼は自分のグラスに酒を注ぎながら、目の前に広がる光景を眺めていた。
ここは酒場だ。酒を飲み交わす場所であり、騒ぐところでもある。そこに今、異様な雰囲気が立ち込めている。原因はわかっている。
先ほどからずっと流れているニュースが原因だった。ここ数日、連日のように流されているものだ。内容は、言うまでもなく例の件についてだろう。
『……それでは、次の話題です』
男が手にしていた瓶の中身が無くなってしまったため、男は新しいものを注文するためカウンターへと向かう。店員に声をかけようとし、そこでふと動きを止める。

美月


「なぁ……これってよぉ……マジなのか?」
「あ?何言ってんだよお前。こんなんガキだって知ってんだろ」
「いやそうじゃなくてさ……」
「まぁいいじゃんか。俺らみたいな末端の奴らは、上の言うことに従うしかねぇし」
「そりゃそうだが……」
「それに、上納金さえ払えば、俺たちにも『死』が手に入るわけだぜ!?」

美月

「―――というのが、今現在我々が知っている世界の概要だね。わかったかい?」
白衣を着た男は、手元の資料を見ながらそう言った。その資料には『死』という概念についての詳細が記載されていた。
「えっと……つまりどういうことなんですか? いまいちピンときませんけど」
「まあそうだよね。いきなりこんなこと言われたって理解なんてできるわけがないさ。でも大丈夫だよ。君たちはこれからそれを理解するんだから」
「そんな事言われても困りますよ! 何にもわからないままじゃ何もできないじゃないですか!」
「いや、だからね。それを僕たちが教えようっていう話なんだよ」
「そういうことを言ってるんじゃなくてですね!」
「ああもううるさいねぇ君は。少し黙ってくれないか。それとも脳みそに直接刻み込まれたほうがいいかな?」
「ちょっ、ちょっと待ってください! わかりましたから!」
白衣の男の言葉に、少年は慌てて口を閉じる。その様子を見て満足げにうなずいたあと、白衣の男は説明を再開した。
「よしよし。素直なのは良いことだ」

美月

朝起きてテレビをつけると、画面いっぱいに映し出されたのは俺の写真だった。どうやら昨日の夜中に遺体が発見されたらしい。
「うーん……?確か俺は……」
自分の部屋の中で眠っていたはずだ。なのに何故こんなところで寝ているんだろう。それにしても頭が痛い……。まるで二日酔いのような気分だ。
ズキズキとする頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。すると視界に入ったのは自分の手ではなく黒い毛に覆われたものだった。なんだこれ!?そう思ってよく見ると腕には毛が生えており、足を見るとこちらも同じように黒くなっていた。えっ、どういうことだよ!慌てて鏡の前に駆け寄るとそこには狼の姿になった自分が写っていた。
「なんだよこれ!!」
思わず叫んでしまうほど衝撃的な光景であった。

美月

、裏社会の暗殺者が入り込むようになり、さらに1年後、ついに国家権力すら手に余すほどの大犯罪組織が生まれた。後に、「黒の組織」と呼ばれることとなるその組織は、各国の情報機関の目を欺きつつ、瞬く間に世界規模へと拡大した。各国諜報機関は必死になって黒の組織を追うものの、なかなか成果を上げることができないでいた。そんな折、黒の組織を追っていたとある国の捜査官の一人が、黒の組織のボスの顔写真を偶然にも入手してしまう。それを見た彼は、即座に上司へ報告しに行くのだが……。
―――――これは、その写真を見てしまったことで巻き込まれてしまった青年の物語である。
『今日未明、〇〇県△△市□□町に住む会社員・山田太郎さんの遺体が発見されました』

美月

「ふぅ……今日も疲れましたねー先輩!」
「ああそうだな。だが仕事だ、仕方がないさ」
「まぁそうですけどぉ! もうちょっとこう……ねぇ?」
「あ? なんだそりゃ。俺にどうしろってんだ」
薄暗い部屋の中に二つの影がある。一人はスーツ姿の男、もう一人は白衣の女だった。男は女の言葉の意味を掴みかねているのか眉根を寄せながら首を傾げる。
「いやだからですねぇ……ほら、可愛い後輩ちゃんへの労いとかないんですかーっていう話ですよぉ」
男の反応に不満を覚えたのか、女はやや不満げに頬を膨らませて抗議の声を上げる。
「ったく、面倒臭え奴だな。そもそもお前が勝手に着いて来たんじゃねえかよ。それに俺は別に可愛くはないと思うぞ」
「んまっ!? なんてこと言うんですか先輩!! 私はこんなにも可憐なのに!!」

美月

「―――んぅ…………」
カーテン越しに差し込む陽光を受けて目を覚ます。寝起き特有の倦怠感を感じながら、僕はベッドの上で身体を起こした。
「ふぁあ…………眠い……」
欠伸を一つ漏らし、軽く伸びをする。次いで腕を上げ、うんと背筋を伸ばす。すると背中からパキポキと小気味良い音が響いた。
「うーむ、快調だなぁ」
俺はそう呟くとハンドルを切りながらアクセルを踏み込む。
車は俺の運転に従いグンッ!と加速し、同時にタイヤからはアスファルトを削る音が響き渡った。
「ふっ……!」
そして俺は、ニヤリと笑う。
「どうよ?これなら文句ねェだろう?」
「えぇ、もちろんですとも」
助手席から聞こえてきた声に視線を向けるとそこにはニコニコと笑みを浮かべている女の姿があった。
彼女の名は『マギスフィア』と言った。そのマギスフィアは今、二人の人間の手によって起動していた。片方は男、もう片方は女だ。男は白衣を着ており、女の方はスーツ姿だった。
二人はソファーに座りながら、向かい合うようにして話をしているようであった。
「そうか……君の言うことが本当なら、これは世紀の大発見だよ!」
「はい! 私達の研究の成果です!!」

美月

「……」
男はただ黙って、自分の足下に広がる紅い海を見下ろす。男の背後からは絶えず悲鳴が聞こえている。それもそうだろう、何せ彼は今まさに罪人の首を撥ねたところなのだから。
男の名はシンド・シープウェルと言う。この国最大の犯罪組織、"黒の翼"に所属する殺し屋だ。
先ほどまで生きていた咎人を処理しておきながら、しかしシンドの心は全く晴れなかった。
(あぁクソッ! またやっちまった!!)
そう思ったときにはもう遅い。
私は今、猛烈に後悔していた。
目の前に広がる惨状を見て頭を抱える。
なんでいつもこうなっちゃうんだろう……
「どうしましょうかこれ……」
私と一緒に現場に来た後輩ちゃんが呆然と呟いた。
確かにこれは酷い。私がやったことだけれど、自分でもドン引きするほどの酷さだ。
地面に転がっているのは大きなダンボール箱に入った大量の虫の死体。それも、ただの死骸ではない。頭部からは触覚が飛び出しているし、腹には無数の足がある。一見するとバッタか何かにも見えるが、それにしてはその大きさがおかしい。どう見ても二メートルはあるだろう。
そう、これは昆虫型のモンスターだ。名前は『ホッパー・マンティス』といい、レベル一五にもなる強敵である。
俺はそんな大物を前に、剣を構えて対峙していた。周囲には他の冒険者たちの姿もある。彼らも俺と同じように武器を構えたまま、じっとその動きを警戒していた。
さっきまで、ここには多くの仲間たちが集まっていた。だが今はもう誰もいない。

美月

そう、それは「ゲーム」である。
ゲームとはすなわち闘争だ。他者の命を奪い合うことでしか得られない快楽がある。かつて世界を席巻していたスポーツは、今や見る影もなく廃れてしまった。
かつての栄華を取り戻すかのように、各地でゲーム大会が開催され、またそれに便乗して賭博場が開かれ、それに伴って暴力事件が多発している現状があった。
だが、それも仕方のないことだ。

美月

男は頭を抱えながら床に転げ回った。
ここは地下牢だ。壁際に設置された便器からはアンモニア臭が立ち上っている。
手錠を掛けられ、壁に貼り付けられるようにして拘束された男の顔色は青白く変色していた。まるで病人のようだ。
「い、痛ぇ……頭が割れそうだ!」
ガンガンと痛みを訴える頭を両手で押さえながら、少年はベッドの上で丸まっていた。
(うぅ……気持ち悪いぃ)
二日酔いだ。昨晩遅くまで飲み明かした結果がこれだった。吐き気が酷い。全身を襲う倦怠感も相まって、このまま死んでしまいそうだと思った。
だがそんなことにはならないだろうと根拠もなく確信していた。何故なら自分は、自分の肉体を熟知しているからだ。こんな症状程度で死ぬようなら、今頃この世にはいないだろう。
そう思いつつ、重い身体を起こし、部屋を出た。頭痛のせいで視界が歪む。ふらつきながら階段を降りて洗面所へと辿り着くと、鏡の前に立った。
そこに映っていたのは、まだ幼さが残るものの端正な顔立ちをした青年であった。やや目付きが悪いように感じるが、これは元からであるし、身長も高い方ではない。180cmには届かない程度であろうか? 髪の色は黒に近い茶で、瞳の色も同じく茶色だ。肌色は白と言うよりも黄色く見える。彼は日本人であるようだ。年齢は20歳前後と言ったところだろう。彼の名はまだ明かされていない。なぜならば彼が今いる場所は、彼自身の名前を知る者が誰ひとりいない場所だからだ。
彼の名前を知っている者は誰もおらず、彼に名前をつける者もいなかった。そもそも、彼の名前とはなんなのか……? ここでは便宜上、彼を「N」と呼ぶことにしよう。
「……あぁ、またあの夢か」
Nが目を覚ますと同時に、そう呟いた。どうやら今日もまた同じ夢を見たらしい。ここ最近ずっと同じような夢ばかり見るのだ。だが、不思議な事に夢の内容が思い出せない。どんな内容だったのかすら覚えてないのは珍しい事だ。
「まあいい、それよりもまずは食事の準備をしなくてはな」
そんな事を独りごちながら、ベッドから降りようと身体を動かそうとするが、上手く動かない。そこでようやく自分の身に起きている異変に気付いた。手足が拘束されていて自由に動かせなくなっている。それに服を脱いでいるような感覚もある。つまり全裸になっている訳だ。
(どうしてこんな状況になったんだ?)
そう思いつつも、とりあえず起き上がる為に必死になって手を動かすと何かに触れた感触があった。そしてそれと同時に金属音が聞こえてきた。何の音だろうかと思いつつ、恐る恐るそちらの方へと視線を向けるとそこには金属製の手錠のようなものがあるではないか! さらに視線を下に向けるとそこには銀色に輝く鎖が見えていた。

美月

死因を当てる

ゲーム
「あなたの寿命はあと1日です!」
「あなたが死んだら地球は何周しますか?」
「あなたの人生で最も嬉しかった出来事を教えてください」……etc. 様々な形で世に溢れていた それらはいつしか、裏社会の闇へと消えていったが 今となっては知る由もなく ただただ人の目を眩ませて そこに確かに存在した

美月

ことを、否定させないためだけに 今日もどこかで、誰かを殺している
「いらっしゃいまし」
店に入った途端にかけられた声に、一瞬面食らう。カウンターの向こうにいた初老の女性店員はこちらを見て微笑んだ後、すぐに視線を手元に戻してしまった。
「あー……えっと……」
何と言えばいいのか分からず、曖昧な笑みを浮かべながら店内を見回す。
そこは一見して普通の喫茶店だった。木製のテーブル席がいくつか並び、壁際には背の高い観葉植物が置かれている。天井からは照明器具が吊り下げられていて、店の奥まったところにあるピアノを照らしていた。……あれ? よく見ると、ピアノの前に見慣れないものが置かれていた。鍵盤の代わりに、ガラスのような素材でできた透明な板が取り付けられており、その下に小さな箱がある。

美月

「お好きなところにどうぞ」
女性が言うと同時に、背後からカランコロンとドアベルの音が鳴る。反射的に振り向くと、若い女が二人入ってきたところだった。
彼女たちが座ったのを確認してから、自分も空いている椅子を引いて腰かける。目の前にいる女性店員がちらと目線を送ってきた気がしたが、無視することにした。
「ご注文が決まりましたら呼んでくださいね」
そう言って女性はメニューを持ってくると、さっさと行ってしまった。なんとなく肩透かしを食らった気分になりつつ、とりあえず飲み物だけを頼むことにする。
しばらくして運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、少し気持ちが落ち着くような気がした。
改めて周りの様子を伺うと、やはり違和感があった。今朝方、自分の部屋を出て以来ずっと誰かに見られているような気がしていたのだが……今はもう感じられない。
視線の主は誰だったのか? ふと疑問を感じたが、すぐにどうでもよくなった。
目の前には俺の家があるからだ。
俺は玄関の鍵を開けると扉を開き家の中へと入った。家に入ったらまず最初にやる事がある。そう靴を脱ぐ事だ。俺は脱いだ靴を綺麗に揃えるとリビングへと向かった。
リビングに着くとテレビをつける。ニュース番組をやっていたので適当にチャンネルを変えてみるが、特に面白い番組はなかったので直ぐにニュースを見る事に決めた。
ニュースキャスターの声を聞きながら冷蔵庫の中から缶コーヒーを取り出しソファーに座って一口飲む。今日も疲れたなぁと思いつつ、何となく窓の外を見た。するとそこには先ほどまでなかったはずのものがあった。いや、正確にはいたと言うべきだろう。
窓ガラス越しに見える外の風景の中に一匹の黒猫の姿が見える。
普通の猫ならば別に不思議ではない光景だが、その黒猫は明らかに普通ではなかった。なぜなら、その猫は二本足で立っていたからである。しかもそれだけならまだしも、よく見ると尻尾が三本あった。つまりあれは化け猫である。
こんな時間に何をしてんだろうと思っているとその黒猫はこちらに向かって手を振ってきた。

美月

そこで俺は確信した。こいつは俺の事だ。俺は、こいつを使って成り上がることが出来る!……だがそう思った矢先だった。
「いらっしゃいませぇ!」
俺の目の前にはメイド服に身を包んだ女の子がいる。ここは秋葉原のメイド喫茶『アリス』。ここで働くメイドさん達はとても可愛らしいし、サービス精神旺盛な子ばかりだ。
そんなメイドさんの笑顔に囲まれながら、俺こと橘京也は悩んでいた。
どうやったらこの世界を変えられるのか?
「ご注文をお伺いいたしますっ♪」
「じゃあ、『萌え萌えきゅんきゅーん☆オムライス・ラブラブLOVE♡味』を一つお願いします」
「はい、かしこましましたぁ~」
さっきまで悩んでいましたが、今はもう幸せいっぱいです。だって今時こんな可愛い娘達が俺の為に料理を作ってくれているんですよ!? しかもオムライスですよ! あのケチャップとかいう赤い調味料で文字を書いてもらえるんですってよ奥様! なんて素敵なんだろう! ああ、このまま死んでもいいかも。
まあ、死ぬつもりはないんだけどね。なんせ今の俺は金を持っている。お金さえあればなんでもできる。だからもっと稼ごうと思う。
「ふぅーん、じゃあとりあえずダンジョンに潜ろうか」
「えっ?!」
「なんだよ、お前冒険者なんだろ?」
そう、俺はまだ冒険者だ。正確には元冒険者で今はニートだけど。
「いや、だって……いきなりですか?」
「いいじゃん、別に。どうせヒマしてんだし」
「そ、そんなぁ……

美月

「残念だが事実だ。君達にはこれから、私達が定めたルールに従って殺し合ってもらう。まあ要するにバトルロイヤルだよ。ああ大丈夫、死にたくなければ相手を殺せばいいんだからね?」
「ひぃっ……」
「それじゃ早速始めようか? ほら、もう始まっているよ」
「えっ……うわあっ!!」
「ぐぇッ!」
「なんだよこれ! 聞いてねえぞぉおおお!!!!!」
「うるせえ!」
怒号が飛び交う地下空間で、男が銃声とともに吹き飛んだ。
「……っあぐぅ!」
倒れた男の額からは血が流れ、既に意識はない。
「くそったれぇええ!!!」
仲間の死に様を見て逆上し、また一人が発砲したが、それも虚しく宙を切る。
「クソッタレェエエ!!!」
男の声だけが響く。
ここは、東京の地下に広がる大迷宮、通称『バベル』。そこは今、武装テロリストによる占拠を受けていた。
「クソッ!何なんだアイツら!」
「ダメだ、こっちにも敵が来たぞ!!」
銃声鳴り響く地下通路の中、逃げ惑う人々を斬り伏せながら進む男が1人いた。
男の腰には刀が装備されており、一目見ただけでただならぬ雰囲気を放っていることがわかる。
男は通路の奥へと進み続け、遂には道行く人々が誰もいなくなった場所までやって来た。
「…………やっと追い詰めたぜ」
そう呟く男の前に立ち塞がったのは、全身黒ずくめの装束に身を包んだ長身の男だった。
男は、手にしていた大振りな剣を振り上げながら叫ぶように言う。
「貴様が、我々の同胞を殺したのか!」
対して、黒いローブを纏う男は肩をすくめながら答えた。

美月

「ああそうだ! 俺が殺してやったんだよォ!! お前らみたいな雑魚どもから、可愛い娘を助けてやる為になァ!!」
男の叫びと同時に、黒ずくめの男が飛びかかる。
対し、黒いローブを着た男はニヤリと笑みを浮かべると……。
――バシャッ! という音とともに、その場に崩れ落ちた。

「これで終わりかよ。まったく、拍子抜けだぜ」
吐き捨てるように言いながら、黒ずくめの男はその場を離れる。
それから少し経って、物陰に隠れていた仲間達が集まってきた。
「すまない。助かった」
「気にすんなって。それより、早くここから逃げよう。奴らに見つかる前に」
黒ずくめの男の言葉に、他の面々もうなずいた。
彼らの目的は、たった今殺したあの男を殺すことではない。あくまでも、彼が持っているであろう情報を聞き出すことにあったのだ。
だがそれも失敗した以上、ここにいる意味はない。一刻も早くここから離れるべきだというのは全員がわかっていたことだった。

美月

それでも動けなかったのは、やはり恐怖だった。目の前にいる奴らが怖くて仕方がなかった。
そんな時だ、俺たちに救いの手を差し伸べてくれたのは。
「あーらあらぁ?あなたたちこんなところで何してるのかしら?」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには見知った顔があった。
「……お前は……!」
「ふっ、久しぶりね。お兄ちゃん」
そこにいたのはかつて俺の妹を名乗り、俺の家族を殺した張本人。

美月

「なにしに来たんだよ!今更!!」
「うぅん、別になんにもしないわよぉ。ただちょっとお話をしたいなって思っただけぇ」
「話!?」
「えぇそう。少し長くなるけどねぇ」
「じゃあ聞く必要はないだろう!!さっさと失せろ!!!」
俺は必死に叫んだ。こいつが何を企んでいるかなんてわからない。だけど一つだけわかることがある。こいつとこれ以上一緒にいてはいけないということだけはわかった。だから逃げたかった。逃げ切れなくてもいい。とにかく少しでも遠くに行きたかった。なのに……
「あぁ?なんだてめぇ、俺様に楯突こうってのか?」
「ひっ!?すっすいません!」
「ちっ、なんだよ使えねぇな。おいお前ら!さっさとそいつ殺せ」
「はい、兄貴!」
くそったれが!なんでこんなことに……
『おーっとここでまたもや動きがあったぞぉ!!これはいったいどういうことだ?』
『ん~、どうやらあの少年を助けようとしたようですね』
『ほほう、それでどうしてこのような事態になったんだね?』
『ええ、おそらくですが、助けに入ったのでしょう。ただそこで運悪く見つかってしまったようでして』
『ふむ、確かにまだ幼さが残るものの……』
「そうですね、あの子が今一番いい時期です」
『なるほど……いや、実に良いタイミングだ。私としても是非とも手に入れておきたい逸材だよ』
「ありがとうございます。お褒め頂き光栄です」
『うむ、では早速手配しよう。君たちの働きに感謝するよ』
「いえ、これも我々の使命なれば」
電話口の向こう側で男が満足げに笑った気配を感じながら、受話器を置く。
男は、少し疲れた様子で椅子にもたれかかると、ふうっと大きく息を吐いた。

この世界で根付く意識もなく

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