美月
「俺の死を以て、お前らへの宣戦布告とする!」
これは復讐ではない。彼が生きるためのただ一つの方法だった。
「いってぇ……」
痛みを訴える脇腹を押さえながら、男はふらついた足取りで歩く。時折壁に手をつきながら、それでも前に進むことをやめなかった。
男の名は黒須左京。つい先程まではごく普通の大学生だったが、今は見る影もなくボロボロになっている。何故なら――
「何なんだよあの化け物!あんなのいるなんて聞いてねぇぞ!?」
そう叫びながら走る彼の背後からは何かが迫ってきていた。
それは一見すると黒い塊にしか見えなかったが、よく見ると人の形をしていることが解った。大きさは子供の背丈ほどもあり、手足は細くしなやかなものだった。まるで猫のようなフォルムをしている。その体の表面には毛のようなものはなく、つるりとしていて光沢があった。頭にあたる部分には目と思われる器官が存在していて、そこから赤い光が発せられていた。その光は周囲を照らしているわけではなく、また光源があるわけでもないようだ。
だが不思議なことに、それを見ると不思議と目が離せなくなるような感覚を覚えた。
『……』
それに近づき、手を伸ばすと、その物体はぴくりと動いたように見えた。
「えっ?」
触れようとするとその物体は素早く動き始め、俺の手から逃れてしまった。どうやらこちらを認識しているらしい。
『……!』
その物体は再びぴたりと止まり、今度は威嚇するように赤く発光を強めた。
「うわ!」
