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抗体人間シリーズ−現在編−

第63話 - それぞれの旅路

2019年04月28日

#現在編

鹿王院琥珀

燐堂

それじゃあ、飲むわよ？

燐堂

せーのっ‼︎

ゴクッゴクッ

燐堂

ぷはぁ‼︎にっっが‼︎

翠

うげぇ...めちゃめちゃ薬品じゃねーか...

蘭丸

なかなか渋い味っすね。

翠

なんでテメェは平気なんだよ...

蘭丸

昔の“実験”で耐性がついたのかもしれないっすね笑

翠

味覚音痴かよ。

燐堂

ところでこの薬、いつ効果があらわれるの？

蘭丸

えーっと...※効果は2〜3日であらわれます。即効性ではありません。...らしいっすよ。

翠

そんなに待つのかよ。

蘭丸

まあ効果が出てきたら連絡するっすよ。

翠

で、テメェはどうすんだ？

黒野

...俺か。

翠

他に誰が居るんだよ？

黒野

俺はたくさんの人間を殺し、喰べてきた。そして燐堂の左足を奪った。

黒野

操られていたとはいえ仲間を傷つけたことは事実だ。

黒野

だが燐堂は俺を許してくれた。

黒野

罪悪感に押し潰されそうな俺に「生きろ」と言ってくれた。

黒野

...正直、複雑な気持ちだった。

燐堂

どうして...？

黒野

なぜなら、俺は“人体実験”で既に“死んでいる”も同然だったからだ。

黒野

そんな死んだ奴に「生きろ」と言うのか？

黒野

それは不可能な話だ。ファンタジーやSFでもない限りな。

黒野

しかしそれは“方法”がなかったからなんだ。でも今は、その“方法”がある。

黒野

...前に魃が死ぬことは“愛されること”だと言っていた。なら俺にとって死ぬことは

黒野

“生きること”だ。

燐堂

....

黒野

ありがとう、俺を“仲間”だと言ってくれて。

黒野

ありがとう、俺に“生き方”を教えてくれて。

黒野

...ありがとう、俺に“妹という存在”を与えてくれて。

スッ

黒野

お前ら、よく眼に焼き付けろ。

黒野

いいか？これは“終わり”じゃない、“始まり”なんだ。

黒野

俺の幸せは...世界は...

黒野

これから創り出す。

黒野

そしてこれが俺の、黒野闇笯の...

黒野

“生き様”だ。

そう言って彼はナイフを一振りした。

ナイフは心臓めがけて突き刺さった。

分かっていた筈だった。

それなのに...

黒野

....

壊れた蛇口のように溢れ出る鮮血。

目の前で散る生命。

それは彼の世界が生まれる瞬間だった。

蘭丸

俺らはちゃんと見届けたっすよ、黒野君の世界の“始まり”を。

琥珀

これが闇笯の“生き様”か。

琥珀

...素晴らしいな。

凛

これが闇笯さんにとって、一番の“幸せ”なりましたよね？

翠

...大丈夫ですよ、大将。

翠

黒野は最期...いや、世界が始まる瞬間に笑ってましたから。

凛

...確かに、今まで見たことがないくらい最高の笑顔でしたね笑

燐堂

....

ああ、やっぱり少し寂しいな...

だけど...

燐堂

黒野は“生きた”んだよね...

蘭丸

違うっすよ、燐堂さん。“生きている”んすよ。

燐堂

...そっか。そうだよね。

黒野は自分の世界を歩み始めたんだ。

燐堂

だったらアタシは...

とびきりの笑顔で言ってやらなくちゃ。

燐堂

黒野‼︎

燐堂

行ってらっしゃい‼︎

彼の声は聞こえない。

だけどアタシには聞こえた気がした。

黒野

行ってきます。

ありがとう、黒野。そして...

燐堂

早く帰って来なさいよ‼︎

蘭丸

さて、そろそろ俺達も時間っすね。

翠

そうだな。いつまでもここにいるって訳にも行かねーしな‼︎

姐さーん‼︎

翠

ん？

槐

姐さん‼︎私達を置いて行かないでくださいよ‼︎

妹分A

そうですよ‼︎こーんな役に立つ私が居るのに‼︎

妹分B

お前、嘘つくのはよくないぞー。

妹分A

う、嘘じゃないし‼︎

翠

へへっ、誰が置いてくか。テメェらは私にとって絶対に必要な存在だからな‼︎

翠

いや、宝物と言っても過言じゃねーな‼︎

槐

ね、姐さん...

妹分B

鬼塚さん...

妹分A

うわーんっ‼︎鬼塚さーんっ‼︎

翠

バ、バカ‼︎離れろ、暑苦しい‼︎

凛

あははっ‼︎賑やかでいいですね。

琥珀

まったく...空気を察しろ。

朱音

あのー...

琥珀

ん？朱音か、どうした？

朱音

なんだか変な気持ちなんです...

琥珀

変な気持ち？

朱音

情報管理室で黒野さんという方の最期を見届けたんですが...その、なんというか...

朱音

心にポッカリと穴が空いたような不思議な気持ちになって、急に涙が出てきて...

朱音

へ、変ですよね‼︎全く面識がない人なのに...

琥珀

別に変なことではないぞ。

朱音

えっ？

琥珀

よくあるだろう？ドラマや映画で登場人物が亡くなる展開を。貴様はソイツらと面識があるか？

朱音

い、いや...ないですけど...

琥珀

それと一緒だ。例え面識がなくてもそれに共感や感動して涙が出る。ただそれだけのことだ。

朱音

そ、そうですよね‼︎なんか深く考え過ぎてました笑

琥珀

....

朱音

どうしました？

琥珀

いや、何でもない。

琥珀

それで？貴様らはこれからどうするんだ？

翠

私はさっき言った通り日本一のレディースをつくりあげるっ‼︎

蘭丸

俺はとりあえず静かな場所で暮らしたいっすね。

翠

ログハウス的なヤツか？

蘭丸

それもいいっすね笑

燐堂

アタシは人間らしい生活をしたい‼︎

凛

それって会社に勤めたりしたいってことですか？

燐堂

それもあるけど、アタシは学校に通いたいな。

翠

学校？何でわざわざ勉強なんてしに行かなくちゃいけねーんだよ。

燐堂

別に勉強だけじゃなくて友達とかたくさん作って青春を過ごしたい‼︎

蘭丸

ああ、なるほど...

翠

？

翠

なんか知ってんのか、流鏑馬？

蘭丸

燐堂さんは元々高校に通っていたんすよ。でもそこで自分が人間じゃないことを知り、俺達と出会ったんすよ。

翠

でも燐堂はこの研究所出身だろ？なんで高校通ってたんだ？

蘭丸

詳しいことは分からないっすけど、研究所が燐堂さんの記憶を消して高校に入学させたんじゃないっすかね？

翠

それって黒野の“実験”みたいなヤツか？

蘭丸

恐らく。

翠

...悪りぃな、辛い話思い出させちまって。

燐堂

別に気にしてないわよ。

燐堂

で、凛と琥珀はどうするの？

凛

私は旅にでも出ようかと思います。

燐堂

えっ⁉︎...ちなみにどこ？

凛

詳しくは決めてませんが、様々な国に行きたいです。

燐堂

だったら英語勉強しなきゃダメよ？

凛

あっ...そ、そこは色々頑張りますよ‼︎

燐堂

無理だったらアタシに聞いてもいいのよ？学校で英語習うし。

凛

独学で頑張りますよ‼︎

凛

...本当に無理だったら、そのときはお願いします。

燐堂

任せて‼︎

蘭丸

最後に鹿王院さんはどうするんすか？

琥珀

私は、まだ決めていない。

翠

はあ？ノープランってマジかよ？

琥珀

だが私はもう少しここに残ろうかと思う。探したいものがあるからな。

蘭丸

大丈夫っすか？もしアレだったら手伝うっすよ？

琥珀

気遣いはありがたいが私だけで充分だ。

蘭丸

そうっすか。

朱音

あ、あの‼︎

琥珀

何だ？

朱音

わ、私もここに残ってもいいでしょうか‼︎

琥珀

別に構わんが、どうしてだ？

朱音

私は、鹿王院さんに助けられました。それなのに私は鹿王院さんについてほとんど知らないですし...

琥珀

恩返しがしたいということか？

朱音

それもありますけど、私には夢があるんです‼︎

琥珀

夢？

朱音

私は盲目で色々な人に迷惑をかけて生きてきました。でも目が見えるようになった今、私は何でもできる‼︎だから私のように病気で困っている人達を助けたいんです‼︎

琥珀

なるほど、貴様の望みはよく分かった。だが私は医者ではない。よって貴様に医学を教えることは不可能だ。

朱音

大丈夫です‼︎この研究所内には救護室や手術室など病院のような施設も多々あります。

朱音

だから残された資料や情報もたくさんあるはずです‼︎それを学べば私にも人を助けることができるんじゃないかと...ダメですか？

琥珀

はぁ...

琥珀

貴様は随分突飛な考えをするものだな...

朱音

そうですよね...流石に甘いですよね...

琥珀

構わん。

朱音

えっ？

琥珀

貴様のあまりにもぶっ飛んだ考え方に少し興味が湧いてきた。

琥珀

私も協力しよう。

朱音

えっ‼︎ほ、本当ですか⁉︎

琥珀

ああ、私の知識や経験を貴様に伝授してやる。

朱音

あ、ありがとうございます‼︎

琥珀

まあ、言わずもがなスパルタだがな。

蘭丸

皆さん考えがまとまったみたいっすね。

蘭丸

それじゃあ、そろそろ行くっすか。

燐堂

ちゃんとアンタ達に連絡するからね‼︎

翠

何だ？寂しいのか？

燐堂

バ、バカ‼︎そんなんじゃないわよ‼︎

翠

素直じゃねーなぁ？

凛

私はすぐには出発しないので、たくさんメールしますよ。

琥珀

なら私も便乗しとこう。

燐堂

あのさ...また会えるわよね？

蘭丸

何言ってんすか、当たり前っすよ笑

凛

また会う日も連絡しましょうよ。

翠

そうですね、私は大将に呼ばれたらすぐに会いに行きますから‼︎

凛

あははっ‼︎ほどほどにしてくださいよ？

蘭丸

では皆さんまた会いましょう‼︎

燐堂

うん、バイバイ‼︎

琥珀

さらばだ。

凛

さようなら。

翠

じゃーな‼︎

私達は再会を誓い別れを告げた。

後悔はない。

これが私達の生き方だから。

これが私達が選んだ道だから。

だから私達はこの世界を歩き続ける。

幸せで笑いの絶えない

未来に向かって。

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鹿王院琥珀

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