テラーノベル
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俺は胸をかきむしり、床の上をのたうち回った。
息ができない。
呼吸ができない。
灼けた杭を胸に打ち込まれているようだ。
あぁ、そうだ、薬を、飲まなきゃ。
俺は薬を探したが、どこにもない。
胸をかきむしったせいで、どこかに飛んで行ってしまったようだ。
俺は必死に目を凝らした。
視線の先、床の上に薬が転がっている。
だが、そこに至るまでの五、六歩の距離が絶望的に遠い。
痛みは全身を蝕みつつある。
背骨が軋む。
腕が痺れて動かない。
凶一郎
間近に声が聞こえた。
誰かが体を抱き起こす。
もう片方の手には薬を持っている。
凶一郎
凶一郎義兄さんだった。
口がこじ開けられる。
食いしばった歯を僅かに開く。
歯の隙間から丸い粒が二つ、口腔に転がり込んできた。
舌にピリッとした甘さを感じる。
胸を押し潰そうとしていた圧迫感が徐々に薄れていく。
俺は強張った手足を伸ばし、仰向けに横たわった。
疲れ切っていた。
全身に嫌な汗をかいていた。
痛みからは解放されたが、もう指一本動かせそうにない。
凶一郎義兄さんの声を遠くに聞きながら、 俺の意識はゆっくりと薄れていった。
コメント
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面白かったです‼️