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歩き慣れた道を散歩していたら

遠くに自分が見えた。

だけど私はここに居る。

爽やかな昼間に、

私のドッペルゲンガーは現れた。

会ってしまったら死ぬ。

そんな話を思い出す。

だけどもう一人の私の横には

連れられて楽しそうに尻尾を振る可愛い犬が居た。

もう一人の自分は

別の私として生きている。

こちらに向かって歩いてきた私が

呆然と私を見つめていた私を見て驚いた。

ドッペルゲンガーと会うと死ぬ。

その話をもう一人の私も知っていたようで

怯えた様な表情をした。

綾花

…こんにちは

不思議と私に怯えは無かった。

綾花

こんにちは…

彼女はどこか情けない声で返した。

彼女の足元で、さっきまで楽しそうだった犬は困惑している。

綾花

…その子の名前は?

綾花

ジュン。…雑種なの。

私に生き別れの双子は居ない。

私達は他愛もない会話をして、自然に解散した。

ジュンは私が見えなくなるまで、私と彼女を交互に見ていた。

…また、今日も会った。

次の日も会った。

相手は自分だというのに、私達は仲良くなった。

毎日会うようになった。

親近感故なのか 安心するのか

よくわからないまま私達は仲良くなった。

それも長くは続かなかった。

聞いていた噂通りの日がやって来た。

ジュンも連れて二人で星を見に行った時

彼女が立っていた場所が突然崩れ出した。

彼女は足を取られて上手く逃げられずに、だんだんと下へ滑っていく。

私はジュンの吠える声に我に返って

彼女の腕を力いっぱい握って支えた。

今にも落ちそうなもう一人の私。

死ぬのは私だと思っていたのに。

綾花

やっぱり噂は本当だったんだ。

綾花

いいから、どうにかしないと…

綾花

大丈夫。私はあなたのドッペルゲンガーじゃない。

綾花

あなたが私のドッペルゲンガーだから

綾花

ドッペルゲンガーと出会ってしまった私が死ぬの

綾花

違う…

綾花

そんなの嫌だ

綾花

あなたが私のドッペルゲンガー

綾花

出会ってしまった私が死ぬはずなのに

ジュンは小さくて、自分がどうすることも出来ないのを悟ったように

どこかへ走っていく。

彼女の腕が私の腕から離れれば落ちてしまう。

遥か下は浅い川だ。

絶対に助からない。

綾花

自分のドッペルゲンガーと仲良くなるなんて、

綾花

こんな体験した人はきっと他にいないよね。

綾花

私、楽しかった。

綾花

もう大丈夫だよ。

綾花

やだ…やめて…

綾花

ジュンをよろしくね。

綾花

嫌っ

彼女はもう片方の手で私の指を 彼女の腕から剥がした。

もう一人の私が落ちて行く。

しばらくして

ジュンは近所のおじさんを連れてきた。

一人で泣きじゃくる私を見て

自分の飼い主が落ちたと知った。

駆けつけたおじさんは崩れた崖を見て

私が友人を亡くしたと思ったのだろう、

自販機から温かいお茶を買ってきて私に手渡し、

警察に電話をした後

優しく、早く帰りなさいと言って去った。

ジュンは崩れた崖の下を見ようとはしなかった。

流れのように、私は温かいジュンを抱いて家へ帰った。

ジュンの散歩をしていた。

すっかり私に懐いて

尻尾を振りながら横を歩いていた。

通り慣れたいつもの道。

爽やかな昼間。

少し遠くに

もう一人の私が立っていた。

この作品はいかがでしたか?

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